貴婦人の甘い香水
透明な蝶の翅のように舞い
扇の陰の囁きが
楽士らの前奏に溶けて…

フロアへと滑り出す私の爪先
裳裾を曳きずる衣擦れと
重なり合った沓音
立ち止まり見上げれば
碧い目をした その人

言葉のない 眼差しの会話
包まれる手
薄絹の手套越しに
冷たい指 伝われども
不安の欠片ひとつなく
少女の憧れの夢は
今この瞬間へと結ばれる

ワルツは星の瞬き
慄きに似た美しい夜は過ぎ
想うのは名も知らぬ人
みずうみ色の かの瞳

白亜館の門扉の外
深い森に一人迷い
やがて月の光堕ちて
横たわる翡翠の水面
そして畔に佇むあなた

言葉もなく差し出される腕
抱きしめられ
眩暈の果て踊っている
金の鱗 纏う魚
銀の声で囀る鳥
咲き乱れて溺れる花
ここはどこで
あなたは誰?

また今宵も 彷徨い込んでは
茨の棘 怖れもせず奥へ奥へ
言葉もなく 差し伸べる腕を
絡めとられ
闇に向かい踊っている
これが夢であるのならば
どうかけして覚めないよう
二度と離れられないように
私の心臓を止めて

真っ赤な薔薇を
その手でもぎとるよう


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