2013-07-21

【クリープハイプ】ずっと引きずっていたものに対して納得できた

 胸をえぐられるような独特の歌詞と、頭から離れないメロディーで私たちの心をがっちり掴んで離さないクリープハイプ。完成したばかりのニューアルバム『吹き零れる程のI、哀、愛』について尾崎世界観(Vo&Gu)に語ってもらった。


──今回も個性豊かな楽曲ぞろいのアルバムになりましたね。

「それまでシングルを作るのに精一杯だったんですけど、ギリギリになってアルバムの核になる曲が自分の中から出てきたから、すごく気持ち良くレコーディングに入れましたね。」

──アルバムの核になる曲とは?

「最初の「ラブホテル」と、最後の「傷つける」です。「傷つける」は今までのクリープハイプとは違うイメージで、音数も少ないし、新しい表現ができたな、と思っていて。1曲目は「ラブホテル」にすると決めていたので、あとはどんな道順を通ったら、聴いている人は楽しいだろう?と考えました。」

──「ラブホテル」が最初なのは、やはり強烈ですね。

「最初に《夏のせい》というサビだけあったんですけど、すごくインパクトがあると思ってサビ以外は作っていなくて。いつもは不安だからすぐかたちにしたくなるんですけど、今回はサビだけで絶対いい曲だという自信があって、最後にかたちにした曲ですね。歌詞もレコーディングの前の日に書いて。」

──えっ、前の日だったんですか? 本当にギリギリですね。

「ずっと迷っていたんですけど、今回のアルバムはエロい曲が1曲も入っていなくて、記録が途切れると思って(笑)。」

──確かに前作の『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』はエロさ加減が強かった印象が…。

「1stアルバムは昔からの曲も入っていたし、積み重ねだったので。だから、“ちょっと丸くなっているんじゃないか、俺。ヤバいぞ”と思って。ギリギリ間に合いました(笑)。サビだけで初めて“あ、これで完成している!”と感じたので、自分にとって何かのきっかけになる曲かなと思います。」

──5曲目の「マルコ」は昔からあった曲だそうですね。

「これはバンドでやりたくて何度も挑戦したんですけれど、なかなかかたちにならなくて。今回もダメだろうなという気持ちでやっていたんですよ。そうしたら意外にも“あれ、歌えるぞ!?”と思って。本当はホーンとか、そういうアレンジができるようになってからやったほうがいいのかなと思っていたけれど、バンドだけでいける!という手応えがあったので。」

──なぜ、なかなかかたちにならなかったのでしょうか?

「たぶん勢いのある曲ばかりやっていたからだと思うんですけれど、表現としては70パーセントや50パーセントの力でやらなきゃいけないものを、100パーセントの力を注いでやるのが難しくて。今までは敵ばかりだったから攻撃するだけで良かったので、ある意味楽だったんですよ。でも、ある程度認めてもらえるようになると、それだけじゃダメだし。今回は抑えて表現することにも手応えを感じました。」

──メンバーからの意見で変えた部分はありますか?

「意見ではないですけど、6曲目の「女の子」についてはメンバーの反応を見て構成を変えましたね。普通にAメロ、Bメロ、サビってあったんですけれど、みんなBメロがサビだと思っていたみたいだったので、Bメロを最後に大サビとして出して繰り返してみたら、すごくいい感じになって。そういう気持ちになったのも、自分が変わったのかな。今までだったら、“うるせー。これがサビなんだよ”と言っていたんじゃないかと(笑)。基本的には曲を短くしたいんですよ。3分半とかがベストタイムなんですよね。」

──確かにアルバムの曲は、4分以内が多いですね。

「サビは2回くらいで分かるよ、と思って。もう1回聴きたいくらいがちょうどいい。聴き手を甘やかしちゃダメですよ。覚えてもらって、頭の中で繰り返せばいいんだから(笑)。」

──なるほど(笑)。8曲目の「NE-TAXI」の展開も怒涛で。

「あの曲はメロディーを全部変えていて。タクシーが走っているイメージで、“戻らない”という感覚で作ったんですよ。当時はお金がなくて乗れなかったから、どうしてそんなことを書いたのか分からないですけれど(笑)。あと、自分だけ免許を持ってないし。初めてのツアーの時なんて、酔い止め飲んでいましたから。」

──意外です(笑)。10曲目「さっきはごめんね、ありがとう」は尾崎さんと長谷川さんのふたりの声がグッときて。

「これに関しては(長谷川)カオナシが自分から歌いたいって言ってきたので、“いいよ”って。普段はそんなこと言わないから、客観的に見て何かあるのかな?と思って。でも、カオナシのほうが上手いから、控えてもらいたいんですけどね。“あれ、コイツのほうがいいんじゃないか?”と思われると困る(笑)。」

──尾崎さんはバンドを主観で見られていると思いますか?

「どうしてもそうなりますね。曲や歌詞を書く時は客観的に見られますけれど、バンドで楽器を弾いたり歌ったりしている時は難しい。たぶん自分を含め、カオナシ以外の3人は無理でしょうね。でも、カオナシはそれをちゃんと外から見ることができると思うので、それは素直に受け入れています。」

──ちなみに“吹き零れる程のI 、哀、愛”というアルバムのタイトルはどういったところから生まれたのでしょうか?

「1stアルバムを作っていた時にこの言葉を思いついて、次のアルバムのタイトルにしたいと思っていたんです。そういうことって、今までなかったんですよ。基本的にタイトルって最後に付けていたので。最初は何となくいいなと思っていた言葉なんですけれど、曲ができてきてアルバムが見えてくるにつれて、すごくいい言葉だと確信しました。」

──この作品がバンドにもたらしたものは何でしょうか?

「今まで“何でこういう曲ができないんだ”“何でうまく伝えられないんだ”って思っていたことができるようになったと思います。音楽を始めてから12年くらい経つんですけれど、ずっと引きずっていたものに対して納得できたというか。音楽的には変わることはないのですが、気持ちとしてはここからまた新しくなるのかなと。まぁ、同じことするかもしれないですけど。それくらい大事なアルバムになりました。できればこんな穏やかな気持ちでやりたいです。辛かったり苦しんだりしたから返ってくるんだと思ったけれども、もっとフラットな気持ちでできるというのも分かりましたから。」

取材:桂泉晴名

(OKMusic)


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