2012-05-20
【阿部真央】今までのアルバムの中で一番いいアルバムだと思う
“阿部真央が変わった!”が第一印象。サウンドだったり、歌声もそうなのだが、それ以上に彼女自身の変化を感じるアルバムだ。そんな新作について、彼女も“違うステージに行った”と語った。
【“伝えたい!”っていう気持ちで楽曲を書いていた】
──先月のインタビューで“そりゃー、もう、スゲーですよ”と豪語していたアルバムが完成しましたね。ブログでも自画自賛されていましたが、“何なんだ、このポジティブさは! この力強さは!”と思いましたよ(笑)。やはりこれまでのアルバムとは、制作に入る前のモードが違いました?
もう全てが違いましたね。まずアルバムに向けて曲を書いたんですけど、そういうことって初めてだったんですよ。今までは過去に書いた曲を寄せ集めてアルバムにする作業だったんで。最初に“こういうコンセプトのアルバムを作りたい”ってテーマを掲げて、そのために曲を書くっていうところから今までと違いましたし、制作においてもチームの体制を少し変えたんですね。今までは私と制作ディレクターと一緒にやっていて、分からないことが多かったから、わりとディレクターに任せていたんですけど、3年ぐらいやってきた中で、やり方も仕組みもだんだん分かってきたんで、私が指針になってやってみたいと。セルフプロデュースじゃないんですけど、そういうことを初めてさせてもらったアルバムだったので、取っ掛かりも“いくぞ!”みたいな感じで入ったし、制作中もひたすら曲を自分のイメージ通りに作り上げていく…そのために、いろいろ今までやったことがないこともやりましたしね。だから、すごく充実していたし、楽しかったし、出来上がったものにも自信があるっていう。
──アルバムを意識した曲作りは初めてということで、やってみていかがでした?
新しく曲を作りましょうっていうのと、そんなに変わらないです。書いていること自体が、アルバムのテーマにガチガチに沿っているわけでもないし。アルバムをリリースした後にツアーがあるっていうのも決まっていたから、ツアーを意識した音作りや楽曲作りも自然と考えるようになっていたので、そういうところが違いましたね。
──今までは内面を吐き出すことで曲になっていたのが、ライヴも意識するようになった?
そうですね。今、自分がライヴ会場で、アルバムで伝えたいことっていうものがどんどん出てくるから、そういう意味では今まで書いていた楽曲とはちょっと違う。ただ内面をさらけ出すだけじゃなくて、本当に“伝えたい!”っていう気持ちで楽曲を書いていたというか。
──そんな楽曲の印象としては、焦燥感とか、負のエネルギーを払い除けるパワーを感じたのですが、そういうものもテーマとなっているのですか?
どうなんだろうな~。テーマとして掲げていたのは“伝える”っていうことだったんですけど、自分の状態がポジティブだったから、そういうテーマを掲げて、こういうアルバム作りをしようと思ったんだと思いますね。今年の1月ぐらいにリード曲の『戦いは終わらない』を書いたんですよ。何が原因かはまったく分からないんですけど、今まで自分が逃げていたことにちゃんと向き合って、“私のプロジェクトだから、私がやらなきゃ!”って…別に開き直りじゃないですけど、そういうモードになったんですね。だからこそ、このアルバムの雰囲気だったり、制作への意欲がプラスに働いたのかな。
──「戦いは終わらない」では《誰よりも僕が僕を信じること それだけが ただ一つ 大事なことだって》と歌っているし、“自分を見逃すな”とも言ってるのですが、こういうフレーズを言えるだけ真央さん自身が強くなったと?
あ~、そうかもしれないですね。うん、そうかも(笑)
──この言葉を曲にするには、それだけの勇気と覚悟も必要だと思うんですよ。
そうですよね。そうやって強くなって、内面的にレベルアップした阿部真央の気持ちっていうのを歌うことで、それを聴いた人が“ああ、私も頑張ろう!”とか思ってもらえればいいなと思って書いたんで…うん、自分が変わったってのはありますよね。
──“悩むことを辞めた”という開き直りというか、それを超えた強さみたいなものも感じましたよ。
あぁ、あるかもしれないですね。悩むんだけど、そんなに悩んでもしょうがないっていうのが分かったりして、完全にネガティブな部分が払拭できたわけじゃないけど、その対処方法が分かってきた。人間としてそういうふうになってきているから、それが出ているのかなと思いますね。楽曲ってそういうもんですからね。
【何かを伝えたい気持ちがすごく強いアルバム】
──アレンジャーによるところも大きいと思うのですが、サウンドがロックしているし、バンドしているのも印象的でした。参加ミュージシャンのクレジットを見ても、一線で活躍するバンドマンや強者が名を連ねているし。
いろんなアレンジャーさんとやったし、たくさんのミュージシャンの方とやったんですよ。ほとんどが初めて一緒にする方ばっかりだったし、ずっと一緒にやりたかった方もいたりして、すごく貴重な経験をしたし、素晴らしい時間をすごせたなって。ほんと、一曲一曲が楽しかった。
──ミュージシャンのセレクトは、アレンジャーさんにお任せ?
初めてやるアレンジャーさんはお任せでしたね。で、楽曲ありきっていうか、“この楽曲はこのメンバーじゃないと嫌だ”っていうのも何曲かあったり。
──個人的にはakkinさんのアレンジがすごいなって。がっつりバンドしてますものね。
洋楽の音ですよね。ずっと一緒にやりたかったんですよ。私、ONE OK ROCKが好きで、Tomoyaくんのドラムの音がむちゃくちゃ好きなんですね。だから、akkinさんにお願いした時に“ドラムはTomoyaくんってどうかな?”って言われて、“えー!? 一緒にやりたかったんです!”って(笑)。ほんと、楽しかったですね。
──アレンジもアレンジャーさんと相談しながら作っていったのですか?
十川ともじさんにお願いした1曲はお任せしたんですけど、あとは直接お会いして、ざっくりと“こういう感じで~”っていうイメージを伝えて、あとはデータとメールでやり取りをして…仮のアレンジのものに対して、“この◯分◯秒ところがこうで~”って全部書き出したりして(笑)。そういうことを多くて3回ぐらい繰り返して、おおもとを作ってもらったって感じです。そういうこともやったことがなかったんで、最初は大変だなって思いましたけど、私がするのが一番早いんで、結果的に良かったと思いますね。
──そうなんですね。今までほとんどの曲にアコギが入っていたのに、「How are you?」にはアコギが入っていないじゃないですか。それも真央さんの判断で?
そうそう。最初に言ったんです。『for you』という曲もakkinさんなんですけど、『for you』はあっていいけど、『How are you?』はなくていいですって。なんとなく(笑)
──なんとなくなんですか!?(笑) シングルの「側にいて」から自分でアコギを弾かないっていう選択肢ができましたけど、まったくアコギが鳴ってないのは意味があるのかなと思ってたのですが…。
ライヴで歌っている姿を想像した時に、この歌でアコギを弾きたくないなって思ったんですよね。それもあってアコギが必要か不必要かって言われたら、要らないんじゃないかなって(笑)。あと、今回はアコギを人に弾いてもらっている楽曲が多いんですよ。それって今まで私ができなかったことで…逆に、私が弾いてないと自分の作品なのに携わっている感がないって思ってたんですね。だけど、今回は私が真ん中に立って全部やったから、いい意味で余裕ができたっていうか。そこまでやらなくても、作っているのは私なわけだし、みんなが力を貸してくれるんだから、楽曲に合ったアコギの音色…私だと一本調子のガッという音しか出せないし、もっと違うアコギの活かし方で楽曲が映えるんだったら、それはもう任せちゃおうって。そういうふうに思えたっていうのも変化っていうか、成長なのかな。
──なるほど。“阿部真央=アコギ”という、ひとつ呪縛が解けたのかと思っていました。
そうかもしれないですね。アコギがあった方が締まるし、やってて楽しいんですけど、別になくても全然大丈夫かなって。
──そんなakkinさんが手掛けたロックなナンバーもあれば、「Sunday moring」のようなホーンも加わったポップでさわやかなアプローチもあるという。でも、この曲は男子の妄想なんですよね(笑)。
そうそう、おっぱいの歌だから(笑)。この歌、すごく好きなんですよ。最初からこういうイメージで…なんか夏っぽくて、ポップで、ラッパが鳴ってるっていう。出来上がった時にアガったっていうか、すごく楽しい曲ができたなって思いましたね。女友達と喋ってて“結局、男の人はおっぱいなんだよ”っていう話になった時に、その友達が“そうよね。胸ばかりじゃなくて、もっと上にある塗っているまつ毛とかも見てほしいよね。いっぱい塗ってるんだから”って言って、“それ、いいね~!”ってサビの部分ができたんですけど(笑)。で、“曲にしちゃってよ”って言われて、曲にしました(笑)
──(笑)。とはいえ、よくここまで男の気持ちが分かりますね。
それね、他の男性のインタビュアーの方にも言われたんですよ。で、私の中に男の人がいるんじゃないかっていう説になって…今までも男子目線の歌を書いてきているし、否めないかもって。私、何回か生まれ変わっている中で男を経験しているのかもしれない(笑)
──あと、楽曲的には「ここにいて」も新鮮でした。ただ、そう思うのは歌声が変わったせいなのかなとも思っていて。
確かにニュータイプですよね。アレンジがすごく綺麗だし、哀愁があるんだけど温かくて、歌詞の内容も暗くないっていう。で、歌声も変わっているし…声帯の治療をしてからノイジーさがまったくなくなったんですよ。治療前だったら声をかすれさせて、低く歌うことしかできなかったと思うんですね。手術して声帯も綺麗になったし、発声も変えたことで、いろんな歌い方ができるようになったのかなって。
──やはり歌う時の感触みたいなものも変わりました?
違いますね。録っている時は、前みたいな歌い方ができなくなったと感じていて…かすれている声のほうが、鬼気迫る感じっていうか、切実感が出るじゃないですか。それがなくなった分、歌のレパートリーやニュアンスの種類が減ったと思っていたんですけど、こうやって取材していただいたり、自分でも改めて出来上がったアルバムを聴いてみたりすると、そうでもないなって。枯れた声は出なくなったけど、今までになかった声っていうのがあるし。
──枯れた声や叫ぶような声じゃなくても、「18歳の唄」とかは切実感があったし、そういう印象は残りましたよ。
そうなんですよね。だから、“あっ、これでいいんだ”って思いました。
──曲順もいいですよね。1曲目が「How are you?」で最後が「for you」というのは、現在の真央さんのテンションを感じるというか。それはサウンドがロックということではなく、気持ち的に振り切っているのが伝わるということで。
それは嬉しいですね。私の中ではデモの段階で、この最初と最後は決まっていたんですよ。
──「for you」で終わるところがいいですよね。ファンへの感謝のメッセージでもありますし。
そうそう。ライヴでも最後にやりたいですね。地味にいいんですよ~。音もカッコ良いし。
──いろいろな意味で、やっぱり力強いアルバムですね。
阿部真央の今までのアルバムの中で一番いいアルバムだと思ってます。ただファンの人に届けたくてできたアルバムって感じなんですよ。みんなに何かを伝えたい気持ちがすごく強いアルバムだから、聴きやすいし、プラスな感じがあるんですよね。すごく前向きだし。内面をさらけ出して“分かってほしい”って叫んでいただけの阿部真央から、違うステージに行ったというか。
──このアルバムを引っ提げて、初のホールツアーに出るわけですが。
始まるんですよ! いや~、どうなるかな~。大分で一回、ホールライヴはやったことはあるんですけど、それを全国でやるっていうイメージができなくて…規模も大きいですし。だから、どういうライヴをするかっていう楽しみ半分、不安半分っていう感じです。テーマを掲げてスタートしたんですけど、アルバムをリリースして、ツアーが終わるまでがコンセプトだから、そのテーマをライヴに活かせるか…それは装飾なのか、今までやってきた音作りをさらにこだわるのか分からないですけど、“来て良かった!”ってみんなに思ってもらえるようなものにしたいですね。頑張りたいと思います!
取材:石田博嗣
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