2012-01-20
【Half-Life】解き放たれた心と体が ひとつに融合したアルバム
デビュー当時から卓越したテクニックでファンを魅了、昨年のミニアルバム『drama』では歌心が開花。そんな流れを経て、Half-Lifeが3rdフルアルバム『replay』をリリース。3ピースサウンドと歌モノのふたつを極めた彼らが提示する、新たなHalf-Lifeがコレだ!
【バンドの原点に戻る という答えを出した】
──昨年のツアーファイナルの代官山UNITはすごく良いライヴでしたね。
上里 試行錯誤を重ねながら、やっとという感じでしたけどね。
福島 ツアー前半はアカンと思って修正して。形になってきたのは後半の九州以降でした。
岡村 ツアー後半から曲順もガラリと変えたんですよ。
──何が“アカン”と?
岡村 曲の構成とか。前半はミニアルバム『drama』からの曲を中心にしていたから、のっぺりとしたものになってしまって。それで後半は、それ以前の曲も採り入れるようになって。後半のライヴは曲数も増やせたので、いろいろ試せましたね。
福島 他の曲も入れたことでバランスが良くなって、結果的に『drama』の曲も映えるようになりました。
──今回のアルバム『replay』はそのツアーと並行して制作したそうで。アッパーでライヴを意識した曲が多いのは、なるほどツアー中にできたアルバムだなと思いました。
岡村 ライヴ感はすごく出ていると思います。あと、ライヴの構成もそうでしたが、今回のアルバムは『drama』の方向性をどう扱うかがキーになっていましたね。
──“replay”というタイトルもそうですが、全体の歌詞からは心機一転みたいな気持ちが感じられました。Half-Lifeというバンドを再構築しようとしていると言いますか。
上里 そこが一番デカかったと思います。
福島 演奏的な部分で話すと、僕は難しいことをやるのは好きだけど、もともとはそれをさらりと目立たないようにやるのが好きで。それが徐々に前に出てくるようになり、『drama』では逆にまったくと言っていいほど抑え込んでしまっていた。そういう流れを汲んだ上で、今回は原点回帰した感じです。
岡村 『drama』は自分らでもやりすぎた感があったくらい、バンド感を抑えて歌に寄せて作っていたんですよ。今回はその方向性があった上で、もっとバンドの原点に戻るという答えを出しました。個人的には噛めば噛むほど味が出るようなスルメ的なものが好きなので、そのスルメソングこそが僕らの原点で、そこにこれまでの経験を落とし込んで楽曲にしていこうと。
上里 これまでの経験や『drama』を踏まえた上で、今の僕らができる音楽を追求した作品です。極端に歌に寄せて前作を作ったから、そこで得た感覚をどうバンドとして昇華させるかという。一方で、その時ではできなかったことも入れていこうという考えもあって。バンドアプローチを聴かせる曲もありながら、歌を聴かせる曲もある構成になっています。
──“replay”というタイトルには、そうした今の3人の気持ちがよく表れていますね。
上里 再デビューアルバムというくらいの気持ちですね。実はジャケット写真も、メジャーデビュー作『second narrow』と同じスタジオで、同じ構図で撮っているんです。
──1周回って、もう一回ここから始めようという。歌詞は以前よりもリアリティーが感じられ、共感できるものが多いと思いました。
上里 『drama』はわりと自分の想いだけを書いていて、“自分はこう思うから、みんなもこう思ってほしい”という伝え方でした。でも、それだと僕の人間性を知っている友達や彼女には伝わるけど、僕を知らない人にしたら“どうでもいい”と思うんじゃないかって。つまり、みんなが普段から思っているようなことじゃないと、リアルじゃないと思ったんです。今まで僕がリアルだと思って書いていた歌詞は、僕だけのリアルであって、本当のリアルはもっと他にあるんだと気付いたというか。
──聴く人が何をリアルに感じるかは、言葉ひとつで変わってきますよね。その点で言葉選びは考えたのではないですか?
上里 言葉はすごく慎重に選びました。この言い方はカッコ付けすぎだとか、もっと普通で良いんじゃないかとかって。音楽って生活の中ではやっぱりBGMなので、言葉としてすんなり入ってくるものが良いんだろうと思います。さっと最初に聴いた時の耳心地が入口だから、そこで受け入れてもらわないと、より多くの人に聴いてもらうのは難しいわけで。その上で…例えば、出だしのフレーズを何にするかは特に考えました。「プロローグ」の冒頭の《僕は自由さ》というフレーズなんかは、その言葉が出てくるまでに3日くらいかかりましたね。
【“3ピースならでは”を やっても良いんじゃないかって】
──その「プロローグ」は、何かから解き放たれた印象を受けました。ミディアムで、前向きに突き進む曲ですし。
上里 アルバムが2月リリースなので、2月に起こった出来事をザッと調べて…そうしたら、あまり良いニュースってなかったんです。それで、2月は歴史的にちょっと寂しい気持ちになる時期なのかなって。じゃあ、そういう時みんなはどういう言葉をかけてもらいたいんだろうと思って歌詞を書きました。
──聴いた人の胸が熱くなれるような歌詞を?
上里 そう。春の新生活に向けて、希望を抱けるようなものにしたい、身も心も温かく春を迎えてもらいたいと思って。だから、初めてテメェ事ではなく、聴いてくれる人に向けて書きました。
──《世界と奏でるプロローグ》というフレーズが、すごくロマンチックで良いなと思いました。
上里 これは、実際にそういうことを感じたことがあって。ヘッドフォンで音楽を聴いてて、何かの拍子にプラグがポンッて抜けた時、その途端に街の音が一気に流れ込んできた。きっと、そのままヘッドフォンで大音量の音楽を聴きながら下を向いて歩いていたら、車に轢かれることもあるだろうし、やっぱり周りの音も聴かないとダメなんです。しっかりと見なきゃいけないことや、考えなきゃいけないことがたくさんあって。いつまでも耳を塞いでいたら、一生その場所からは抜け出せないっていう。
──「今日僕が」では《愛って言葉が必要だ》と歌っていますよね。以前の上里さんはラブソングを否定していて、「J-POP」ではちょっと逆説的な言い方でラブソングを表現していましたが、紆余曲折を経て『drama』からは“愛”という言葉を使うようになった。今回、それが開花していると思いました。
上里 今改めて、愛ってやっぱり大切だって思うんです。“愛”って言葉は素晴らしいと。それに、「これから」という曲には《ありがとう》という歌詞も出てきていて、以前の僕だったらありがとうさえも絶対に書けなかった。実生活でも、ありがとうとか愛なんて口にしなかったですからね。それができるようになったのは、ちょっとだけ大人になったんじゃないかなって(苦笑)。
──「All I see」と「How long」は、岡村さんの作詞ですね。上里さんの歌詞が日本語を重視しているのに対して、岡村さんの歌詞は英語が多めで、曲調もアッパーでフックになっていますね。
岡村 その2曲に関しては、メジャーデビュー前のやり方で作った感じです。メロディーとギターのリフから作り始めて、ある程度骨組みができたら、それに沿って歌詞を書いていく。歌詞に英語が多いのは、そのほうが曲に合っててカッコ良いんじゃないかと思ったのもあったし。あと、ここの言葉選びがどうとか、突っ込まれ辛いんじゃないかと思って(笑)。
上里 演奏はプレーヤー目線というか。バキバキです!
福島 今回サウンドの方向性はふたつあって。ひとつは「All I see」のようにやりたいことをやりたいように演奏する。でも、同時にメロディーも立たせるという。もうひとつは曲に合った演奏を心がけて雰囲気を大切にし、あえて余計なことはしないっていう。でも、地味に小技も効かせているんですけどね(笑)。
──「CHECKMATE」は、今までになかった曲調ですね。
福島 今までも跳ねた曲はあったけど、ハーフタイムシャッフルでちゃんと跳ねるのはやったことがなかったんです。それで、どうなるかな?と思いながらやってみたら、すごくハマった。そんな中でも、ベースだけ倍の16ビートで演奏していたりとか、ちょっとマニアックにHalf-Lifeらしさを出しているのがポイント。
岡村 でも、すんなり聴けますよね。
福島 シンプルだけど、プレイで差を出すみたいな。
上里 高等プレイを実はこっそりとね。でも、聴く人にはそんなこと分からなくて良い。むしろ分からなくて良いと思っていて。
岡村 そうそう。普通に乗って楽しんでくれればうれしいです。
上里 でも、メジャーデビューした頃には、こういう曲は絶対に生まれなかったでしょうね。思い付いても、やろうとは思わなかったと思う。結局以前は、自分たちのスタイルとかジャンルに、変なボーダーラインを引いていたんです。3ピースの限界に挑戦することにこだわらなくても、別に“3ピースならでは”をやっても良いんじゃないかって思うようになりました。
──ラストの「エクストラ」は、最後が《愛してるよ》で終わるのが良いですね。
上里 これは最後のほうにできたんです。
岡村 僕は初のチョッパーにチャレンジしてます。ベース歴10年ちょっとですけど、今まで指で弾いたことがなく、男は黙ってピック!みたいな感じでいて(笑)。ぶっちゃけると、チョッパーできないならやらなくても良いとも言われたんだけど、でも今回のコンセプトはそうじゃないんだと。これからのHalf-Lifeは、こういう今までやったことのなかったチャレンジも、どんどんやっていくという気持ちを見せるんだ!ということで。その決意表明と言いますか。
──そういう意味では、この曲を最後にしたことには、すごく意味があるのですね。
上里 それに、前の2枚のアルバムは10曲入りで。今回は11曲だけど最後の1曲はエクストラトラックみたいな感覚で、それで“エクストラ”というのもあって。
岡村 あれ? 2枚目の『table』は11曲じゃなかった?
上里 いや、10曲でしょう。
──資料を見ると11曲です。
岡村 じゃあ、今の話はナシで(笑)。
上里 ……。
──(苦笑)。3月にはワンマンライヴも控えていますが。
岡村 今回はいつものようにまずライヴで演奏して、慣らしてから録ったわけではないので、これから改めて曲を身体に染み込ませる作業になるんですけど。
──チョッパーも練習しないと。
岡村 指が折れても練習します!(笑)
福島 「CHECKMATE」とか今までやったことのなかった切り口の曲で、お客さんがどんな反応をするか楽しみですね。
上里 「How long」なんかは、みんなバンバン手を挙げて盛り上がってくれそうだし。
──タオル回すのは、どの曲でやりましょうか?
福島 「ロックチューン」かな。
上里 サビの《せーの ほら せーの》ってところで回してほしい。
──昨年のツアーでは今作から「車窓」を披露していましたが、お客さんの反応はステージ上からどんなふうに感じましたか?
上里 しっかり聴いてくれていると思いました。「車窓」は手を挙げて盛り上がるタイプではなく、しっかり聴いて心に染み込ませてほしい曲なので、それはすごくうれしかったです。でもあの瞬間、タイトルの“replay”じゃないけど、また新しく始まったんだなという実感がありましたね。
──新しいファンも獲得できそうですか?
上里 再出発ですからね!
福島 これは売れますよ~。
岡村 三度目の正直です(笑)。
取材:榑林史章
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