2011-11-20

NICO Touches the Walls、前作からわずか8カ月、加速する進化

 今年2枚目となるアルバム『HUMANIA』。彼らの創作意欲の絶大な高まりと柔軟な発想力が豊かに香る一枚だ。鮮やかに響き渡る美しいメロディー、エモーショナルなバンドサウンドも要注目!


 【人と人の間で起こり得ることを違う照らし方で表現したい】

──前作『PASSENGER』を“風通しがいい一枚”って僕は思ったんですけど、今回の風通しの良さはそれ以上だと思います。

光村 やっぱり「手をたたけ」が大きいのかもしれないです。あの曲は今までで一番ハジケていますから。風穴を開けてくれました。今回はアルバムとして全方位型だし、4人でシンプルなところに回帰できているのかもしれない。“音楽を通して、聴いてくれる人と何を共有したいか?”っていうことに関して、すごくシンプルになれている気がします。音楽って人と共有できてなんぼだなと。この1年半くらいの間で、そういう気持ちが自分たちの中で強くなっています。だから、今回の曲はどれも向かうべき方向をきちんと定めてからレコーディングやアレンジに入っていきました。その結果、“聴いてほしい”っていう想いがすごく強く出たアルバムになったと思います。

──すごくキャッチーな一枚だとも言えると思います。とはいえ、丸くなった感じでは全然ないですけど。例えば「衝突」なんて、めちゃくちゃ暴れているじゃないですか。

光村 そうですよね(笑)。今までで一番暴れているアルバムだとも言えると思います。あと、サウンドはもちろん、歌詞もすごく生々しいアルバムでもある。今回、4人でじっくり話し合いをしていたのも大きい気がします。

──どんなことを4人で話したのですか?

光村 前作『PASSENGER』の次に出すアルバムが自分たちにとってどういう意味を持つべきなのかがはっきりしないと、そもそも今年にもう1枚出す意味がないなと。そこを話すのがスタート地点でした。アルバムのタイトルも4人で話し合って決めました。作るにあたっての気持ちの原点をはっきりさせたかったから。その原点ってさっき言った通り、“どれだけ聴いてくれる人と共有できるか?”ってこと。そういう中で思ったのは“人と人の間で起こり得ることを、曲それぞれ違う照らし方で表現したい”ってことでした。そういう曲たちが集まってひとつの国になる、みたいなイメージをこのアルバムではかたちにしたかった。だから、タイトルも国の名前っぽいものが良いと思ったんです。

──“ヒューマニア”という国の名前のイメージなんですね。辞書で調べたけど見つかりませんでした。

光村 すみません。造語です(笑)。そういう曲を集めることで、人間の核の真実みたいなところへ行きたかったんです。このイメージをまずは4人で共有しました。そこから選曲をしたり、アレンジも決めていったんですよね。一曲一曲で違った人格を目指したので、自ずとアレンジも極端なものになっていきました。でも、普段は声になかなか出せない気持ちを表に出せて、みんなで共有できる潔さが音楽の力。だから、極端さを持った曲であっても、聴いてくれる人を限定するようなものではないと思います。

──「Heim」と「demon(is there?)」は今回のアルバムの象徴的な2曲という印象がしたのですが。

光村 「Heim」は最後に足した曲です。人間の住みかとしての核をアルバムの頭に掲げたくなったので。それで素朴な感じのアレンジを4人でかたちにしていきました。家に帰りたくなるような。

──「Heim」は、シチューのCMっぽいイメージがしました。

対馬 まさに!(笑)

光村 実際、シチューっていうキーワードは挙がっていました(笑)。

古村 “家に帰りたくなるイメージ=シチュー”って、CMのせいで刷り込まれているんでしょうね(笑)。

光村 「demon(is there?)」はアルバムの核にしたくて、歌詞は坂倉とすごく話し合いました。曲もアルバムの中で一番ドラマチックな展開になっています。

坂倉 「demon(is there?)」の歌詞を書いている時、“人とは?”っていうことをすごく考えさせられました。結局行き着いたのは“それは考えれば考えるほど言い切れないもの”ということ。“ただ生きて、そこにいるだけ。それでいいんだ”っていう。この曲と「Heim」がアルバム全体を包んでいる感じはあります。

──今回、光村さんとの共作も含めると、坂倉さんが3曲の歌詞を手掛けていますよね。

光村 今までで一番メンバー同士で話し合いをしたからこそ、坂倉が作詞に参加するようになったんだと思います。br />。

坂倉 個人的に作詞に挑戦したことは前にもあったんですけど、書きたい気持ちがもともと強かったわけではないんです。でも、今回いろいろ話し合う中で、“この曲ではこういうことを言いたいな”っていうのが自然と出てきたんですよ。歌詞を書く技術面はみっちゃん(光村)の力を借りましたけど。雰囲気はみっちゃんの歌詞と違うものがあると思います。僕の歌詞は夢見がちなところが出ているような気もするし(笑)。

対馬 こうしてみっちゃん以外のメンバーから歌詞が出てくるのって、いいことですよね。みっちゃんは子供の頃から作詞をしているから、スタイルとかが何周もしている。坂倉はそういうのがないから、単刀直入に入ってくるものがあると思います。それをみっちゃんが歌で表現するのは新しい化学反応ですよ。

──今後、他のみなさんの作詞も活発になるかも?

古村 どうだろう? そこはなかなか何とも言えないところですけど(笑)。でも、歌詞を書く人が変わることで、ここまで曲の感じが変わるもんなんだというのは、バンド全体にとっても大きな発見でしたね。バンドとして新しいところへ行ける期待も膨らんでいます。だから、俺や対馬が歌詞を書くというのは、今後なくはないことだと思います。

──「Endless roll」は作詞も作曲も坂倉さんですね。堂々巡りをしているように感じてしまう人生の焦りを描いていますけど、“同じ場所をグルグル回っているように感じても、案外螺旋運動みたいに上昇しているんじゃない?”っていう視点を示しているじゃないですか。これはすごく感情移入して聴く人が多いはずのテーマだと思います。

坂倉 そう思っていただければ万々歳です。この曲と「手をたたけ」は“HUMANIA”っていうタイトルを付ける前に作ったものなんですけど、すごくアルバムのイメージに結び付きましたね。


 【この4人でやっているとねじ曲がった感じが自然と出る】

──サウンド面の新機軸も、今回はいろいろ生まれていますよね。「カルーセル」で同期を流しているサウンドとか。

光村 「カルーセル」のアレンジのテーマは、“ノンシンセサイザー”だったんですよ。実は全部ギターでやっているという。

──そうなんですか。同期サウンドだと思っていました。

光村 プロツールスでギターをシンセ的に使う手法をとっています。エレクトロニカ的なイメージの曲でしたけど、一切シンセを使わないというギターロックバンドとしての意地(笑)。

──(笑)。ライヴはどうします?

古村 対策を考えないと…。

対馬 ライヴで同期を流しちゃったら、負けた気がする(笑)。

──「バイシクル」はすごくさわやかなようでいて、ギターのテイストがさりげなくサイケで妖しいのが刺激的でした。

光村 「バイシクル」はエレクトリックシタールを使ったんですよ。この曲もそうですけど、今回は前から何となく頭の中に抱いていたけど鳴らしていなかったものを全部鳴らせたのが自慢(笑)。「極東ID」なんか、本当にそうです。今時ロックバンドでこんなにブラスが豪勢に入っているのって、めずらしいですよね。トレンドは無視して、自分たちの中にくすぶって存在していたものをかなり鳴らしました。

──「業々」のヘヴィロックな感じは意外性がありました。

光村 やっと対馬くんの本性が出せました(笑)。

対馬 昔、そういう音楽をやっていましたからね(笑)。レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンとかリンプ・ビズキットとかを。ニコではやらないジャンルだと思っていたんですけど。今回やってみて思ったのは…“懐かしい”(笑)。こういうサウンドに対して勘が鈍っているのも感じましたけど。

光村 「業々」をやるにあたって、非常に頼もしかったですよ。俺にはないフレーズが出てきましたから。このジャンルにおけるマナーを心得ていましたね。今まで彼の中のそういうジャンルをせき止めていたことを申し訳なく思いました(笑)。

──でも、この曲はロックンロールの香りも強いから、やっぱりすごくニコっぽいですよ。

光村 この4人でやっていると、どこかでねじ曲がっている感じが自然と出ますね。「極東ID」もジャジーなギターをリクエストしたんですけど、そこを勉強するところから始まったし。そういう曲は多いですよ。「恋をしよう」は一朝一夕でできるジャンルではないことが、やってみて分かりました。

古村 俺なりの成りきりをやりました(笑)。

光村 フルくん(古村)がデイヴィッド・T・ウォーカーに成りきっている感じのフレーズですね(笑)。

古村 でも、決して成りきれていない(笑)。よく聴くとやっぱり違うというのが面白さなんだと思います。

光村 こういう感じが俺らの世代なのかもしれない。今っていろんな音楽の情報が2回クリックしたくらいで、いとも簡単に得られるじゃないですか。だからこそ生れる面白いいびつさみたいなものが、俺らの世代の面白さ。それを本当にありのままに出すっていうのも、俺らのリアル。それが一番リアルなやり方だと思っているんですけどね。

──でも、いろいろやっても独特のニコ節がちゃんと一貫して確立されているじゃないですか。例えば、黒っぽくて、英語的なノリも感じる歌の乗せ方は、すごくニコ節を感じるポイントです。僕は桑田佳祐さん的なものを感じているんですけど。

光村 中学の頃から大好きでしたからね。影響はあると思います。正統に継承しているバンドは案外いない気もするんですよ。

──ニコの持ち味が高密度で反映されたアルバムですけど、振り返ってみて改めて感じることは何かあります?

光村 “人が何を感じて、どう人と関わって生きていくか?”、そこを音楽を土台として表現したアルバムですね。イメージしていたように、ひとつの国が出来上がったように思います。これからいろんな新たなものが出てくると思いますけど、このアルバムは4人の現時点での決定版だと言えると思います。

対馬 自分のプレイの変化も感じます。フェスとかで「手をたたけ」をやった時のみんなの反応の良さを感じてうれしくなったこともプレイに影響を与えた気がします。より高みを目指そうという気持ちも強まったし、シンプルで伝わりやすいものの良さが実感できたので。あと、このアルバムを作ったことで、今後に向けての課題がいろいろ見えたのもうれしいです。俺とフル(古村)が作詞に挑戦することだって、今後あるかもしれないですよ。そして、“こんな歌詞を歌うのは嫌だ!”っていう曲がみっちゃんから出てくる可能性もないとは言えない(笑)。新バージョンの「衝突」?

──「衝突2」(笑)?

対馬 あるかもしれないですよ(笑)。

古村 俺は今回のアルバムは、今までで一番強いアルバムになったっていう印象ですね。バンドとしても、いろんなジャンルのサウンドも含めて、すごく強さが増しているのを、このアルバムを聴くと感じます。ギターソロも頑張りました!

対馬 ボリュームがでかいし(笑)。

古村 多分、前作の倍くらいの音量です(笑)。

坂倉 成長できたアルバムですね。自分たちにとっても大きい意味を持つ一枚です。アートワークとかに関しても、今まで以上に自分たちのイメージをかたちにできましたし。トータルですごく気に入っているアルバムですよ。

取材:田中 大

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