2017-12-05

マック、西友、ファミマのラジオ、夜に生きる人のための5曲

「三千世界の鴉を殺し、主と朝寝がしてみたい」は『三枚起請』にも出てくる都都逸ですが、ライターやエディターはどうしても宵っ張りになりがちです。まず取材やクライアントありきで動くと否が応でも自分の作業をこなすのが深い時刻になってしまい、また世間が白川夜船の深夜や早朝のほうが街そのものが静かなおかげで集中しやすいのです。吹き墨色の闇に紛れ、道路を掃除する洗浄車や、ぼんぼりのような投光器の白い灯りを浴びて工事に勤しむ人々の姿を見ながら、ああでもないこうでもないと練り上げた言葉のいくらかが、明け方には誰かに届きますようにと願いながら、キーボードを打っては消し、打っては消し。ですので、今回は大体そんな感じです。

■1.「お嫁においで2015 feat. PUNPEE」(’15)/PUNPEE

朝4時まで営業している行きつけの某カフェ&バーは、ごくたーまにPUNPEEの名を世に知らしめたこの曲をかけてくれます。瞬く間にヒップホップドリームを掴み取ったPUNPEEが、日本のヒップホップ史を切り開く閃光のごとき才覚とこれまでのキャリアの練度や精度が撃ち込んだ結果、半世紀以上に及ぶ歴史の中で数多のアーティストにカバーされてきた和製ハワイアンの名曲は、結婚に悩む男の戸惑いに穴を開ける福音となりました、王道的なビートに乗せて蟻の縦列のように紡がれるユーモラスなリリックに《夕日も暮れてきた頃 じいちゃんの部屋から また聞こえたよ》という前振りから、透明な音の隔たりを経て届く《僕のお嫁においで》のサンプリングは、この一曲を朗らかな笑顔で受け止める“エレキの大将”の懐の深さを感じさせます。


■2.「And She Was」(’85) /Taiking Heads

24時間営業のスーパーやファストフード店のBGMが意外と侮れないのはすでにあらゆる媒体のさまざまな記事で立証済みですが、近所の西友もソフトロック〜ポストパンク率が高くてついつい聴き込んでしまうので、寝間着同然の格好をした不審者が長時間フラフラしていても怖がらないでください。トーキングヘッズの大名盤にして入門書でもある『リトル・クリーチャーズ』に収録されている「And She Was」は、ポップな肌触りにコーティングされたオーソドックスなニューウェイブやアートパンクを漂泊するシンプルな構造、ワンセンテンスごとに拡張してゆく“彼女”と情景がパズルのピースのようにパタパタとはまり、自分の存在すら忘れてしまいそうなひとりぼっちの夜の密度を成層圏の彼方まで上げてくれます。

■3.「How Are You Getting Home?」 (’77)/SPARKS

夜中に“もうやだ、書けない!”と自暴自棄になると、オールナイトイベントやっているライヴハウスか映画館に駆け込むしかないじゃないですか。ないんだよ! そうしてんだよ! 名画座で『ホーリーナイト』観てたら劇中で唐突にスパークス流れるんだから眠気も吹っ飛んだよ! 50年近い年月にわたって息を吸うようにコンスタントに名盤を放ち続ける怪物っぷり、歳を重ねてもはち切れんばかりの鈴生りのポップネスには、否が応でも胸が高まりますからね。ラッセルのファニーなヴォーカルに呼応するかのごとく律動するロンのキーボードは、プログレッシブなのにダンサブルで、過剰なまでの多幸感に演出された舞台に閉じ込められた演者と化すしかなくなるのです。それにしても、海外アーティスト来日公演のチケット代ってもうちょっと安くならないんですか!

■4.「Speaking Gently」(’16) /BADBADNOTGOOD

深夜にパソコン持ち込んで長居しても怒られないお店でローテーションを組むと必然的にどこにでもあるマクドナルドも入るのですが、最新のR&Bやアシッドジャズが天井のスピーカーから降ってくるたびにいちいち手が止まるので、そろそろ外したほうがいいかもしれません。インストゥルメンタルバンドBADBADNOTGOODのメンバーは、全員まだ20代半ば。デジテルネイティブ以降の情報の海を遊泳し、ジャズやヒップホップの鉱脈を探り当てながらも“どちらのジャンルともつかない”未知数の不可思議さを光らせています。「Speaking Gently」は浮遊感と神秘性でピカピカに磨き上げられたシンセサイザーの旋律がリフレインし、無人のビル街を潤色するエレガンスに満ちています。パステルカラーで彩色されたキュートなイラストが印象的なMVも堪りません。


■「東京狼少女 -Tokyo Luv Story- feat.LUVRAW」(’15) /VIDEOTAPEMUSIC

そして、4時とか5時にコンビニでコーヒーを買って終わりとなるのですが、この時間帯のファミリーマートのラジオが意外に聴き逃せないラインナップであることをここ2年ほどの間にようやく知りました。DUB MASTER Xとピアニカ前田、さらにYOUが参加した原曲の匂い立つようなアーバンさを継承したVIDEOTAPEMUSICのカバーがまだ薄暗い早朝から聴けるなんて、こんな贅沢ないですよ。残影の揺らぎとともに伸びるスローテンポのベースを背骨に、ビアノ、シンセ、ピアニカ、スティールパン、トランペット等の胸焼けするほどの大量のパートがスポットライトを浴びては静かに消えるというのにちっとも気忙しくなく、都会の真ん中で寒色の空を見上げても、見知らぬ異国のバラ色の朝焼けに思いを馳せても梅雨ほどのブレのない美しいポップス。こんな偶然に身が引き締まるような思いは、デジタルの紐付けから逸脱した時でないと味わえないのです。

TEXT:町田ノイズ



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