2011-09-20

the GazettE、今だからこそ求められる、純度の高い“毒”

 実に2年3カ月振りとなる、待望の新作アルバム『TOXIC』を完成させたthe GazettE。このタイトルが意味する“有毒さ”は、そのままこのバンド自体を象徴するものでもある。RUKI(Vo)と麗(Gu)が、その“毒”の正体を明かす。

 【一生のうちの“一瞬”に近い時間が 封じ込められた理想通りの自信作】

──まずはアルバム完成の手応えから聞かせてください。

RUKI パッケージも全部出来上がった状態で手元に届くまでは気が抜けないというのがあるんですけど、全体的に考えて理想通りのものができたという感覚ですね。なんかこう、自分の中で曖昧な状態にあった理想が具現化されたというか。

麗 理想通りのものであるのと同時に、感情移入しやすいアルバムになったなというのがあって。ここまでヘヴィでハードな音楽というのは音楽シーン全体からすれば隅のほうに位置するものということになるだろうけど、今の自分たちにとってはこれがど真ん中だし、心地良いし、表現もしやすい。自分たち自身と温度のズレがないから、このあとツアーに向かう上でもモードを切り替えるような必要はまったくないはずだし。

──このアルバムに向かう上での理想というのは、具体的にどんなものだったのでしょうか?

RUKI とにかく「VORTEX」(2011年5月25日発売シングル)が自分の中でヒットだったんですね。去年は年末の東京ドーム公演に向かう一連の流れというのがあって、実際にドームが終わったあとで作ったあのシングルを通じて、改めて自分たちのど真ん中にあるものを確認できたというか。そこからアルバムに向かおうとする中で、自分にとって確実に人生の自信作と言えるもの、細部にまで渡ってそう言えるだけのものにしたいという気持ちが強くなってきて。それはもう音質とか曲の性質、曲順とかそういった細かいことも含めた全部について。

麗 うん。結果“the GazettEと言えばこのアルバム”と言い切れるようなものであってほしいというのがあった。実際、「VORTEX」を作ったことで、自分たちはこの方向性で勝負できるんだという確信が得られたところがあったんです。世界に向けて、これが自分たちだと言えるような個性を確立できたというか。それを、このアルバムでは推し進めていかなければならないという使命感みたいなものが自分たちにはあって。

RUKI そこで功を奏したのが、いわゆるアルバム用の曲というのを短期間のうちに作ったことですね。「REMEMBER THE URGE」(2011年8月31日発売シングル)を録り終えてから、一気に作ってきたんですよ。自分たちでも不思議なくらい曲が続々と生まれてきて(笑)。あらかじめアルバム像みたいなものが頭にあったから、作りやすかったというのもあるんだけど。

麗 ごく最近になってから作った曲ばかりだから、まだ自分たちにとってもフレッシュさがあるんですよね。結局、これは前アルバム『DIM』からの時間の流れを全てパッケージしたような性質のものではなくて、むしろほんの一瞬にすぎないような短い期間の自分たちを詰め込んだもので。だからこそ、まとまりがいいんじゃないのかな。ただでさえシングル曲の多いアルバムになることは最初から分かっていたわけで、それによってイメージがバラけることになるのは避けたかったし、アルバム用に新たに作る曲については同じ匂いを持ったものにしたかった。

──その匂いについて、何かキーワードみたいなものは提示されていたのですか?

麗 いや、まったくない。言葉が提示されることはいつもないし。

RUKI うん。要するに、無言のうちにみんな同じ方向を見てたということだろうと思う。

──カッコ良すぎるじゃないですか、それは!

RUKI ハハハ! でも実際、そうだったんですよね。

麗 バンドは企業とか会社ではないから、いちいち会議をしたり、何かをホワイトボードに書き出したりしなくても、普段の会話からお互いの考えてることを汲み上げながら自然に確認できてるものなんですよ。だけど、アルバムを作ろうとした段階で、それが分からなくなってしまった時はバンドが終わってしまうんじゃないかと思う。お互いがなぜそういう曲を作ってきたのかが理解できないような状況に陥った時に。

──逆に言えば、今のthe GazettEにそうした不安要素は皆無だということですね。そして、肝心のアルバムタイトルについて。“TOXIC”という言葉の意味合いに関しては、ストレートに“有毒な”というニュアンスで解釈して問題ないのでしょうか?

RUKI うん。この言葉だけはあらかじめ「VORTEX」の頃から自分の中にあって。自分たちが向かっていくものを象徴してるというか。言葉の響き自体もいいし。選曲会が終わった段階で提案した時も、誰からも反対意見は出ませんでしたね。

麗 このアルバムに相応しい言葉だと思う。作品のことだけじゃなく、俺たち自身を象徴してるというか。悪い人間の集まりとか、そういう意味じゃないですよ(笑)。結局、怒りだとか、何かに対する疑問だとか、そういったものが常に原動力になってるわけですよ。自分たちに対しての不満というのも当然あるし。そういうもの全てを指して“毒”と称してるようなところもあるんです。結局、そういうものがないと前には進めない。ハッピーな要因だけではちょっとずつしか進めない。毒によって成長してきた部分というのが確実にあると自分では思ってるから。

RUKI そうそう。毒々しい作品というよりも、そういった意味なんです。もちろん、歌詞でも毒は吐いてますけど(笑)。とにかくこのアルバムを一字で表そうとすれば“毒”になる。


 【自分たちが作ったセオリーや王道 それを変えられるのも自分たち】

──アルバム用に作られた楽曲について、いくつか訊きたいのですが、例えば「VENOMOUS SPIDER’S WEB」とか「SLUDGY CULT」のような激しい曲と、「THE SUICIDE CIRCUS」や「MY DEVIL ON THE BED」のような踊れるビート感の曲の共存というのが特徴的だなと思うんです。

RUKI 確かに。自然にそうなりましたね。「THE SUICIDE CIRCUS」はアルバム用の曲作りで最初に作って。この曲がひとつの基準になったというのはあると思う。

麗 かなり方向性としては違うというか、ジャンル自体が違うような曲たちだと思うんですよ。だけど、今回はそこで各々の曲の方向性に沿ってアプローチしていくんではなく、むしろ全部を自分たちの基準で揃えたというか。それが真逆の方向性のもの同士であろうと、あえて同じ方法論を当てはめているというか。もちろん説明しないと分からないような細かいところでの差別化というのはあちこちにあるんです。だけど、the GazettEがいろんなジャンルを突き詰めていくんじゃなく、いろんなジャンルを自分たちの方程式に当てはめてみたという感じ。それってかなり危険なやり方でもあると思うんです。だけど結果、全てハマったし、それがアルバム全体を通じての統一感につながったというか。

──あえて例えるならば、さまざまな料理が並んでいるんだけども、実は全て同じ出汁が味のベースになっているような感じだと。

麗 うん。だけども全部美味い、みたいな(笑)。結局は「VORTEX」でそれを見つけたということだと思う。だから、あのシングルは、いわば“秘伝のたれ”のようなもの。あれができていなかったら、このアルバムはできていなかったはずだし、こういう作り方自体ができていなかったと思う。

──今後のライヴの在り方みたいなものを意識していた部分というのもあるはずですよね? 「THE SUICIDE CIRCUS」あたりのノリは、客席の風景をかなり変えそうな気がしますけど。

RUKI うん。どうしてもお客さんのノリが画一的になりがちな部分というのがあるじゃないですか。そこで各々が勝手に乗れるようなBPMというのは意識しましたね。速い曲はそれだけで盛り上がるところがあるけど、速過ぎると誰も乗れないし。

麗 明らかに今までの曲たちとは違う感じがあると思う。だけど、それでいいと思うんです。今までのセオリーみたいなものを作ってきたのが自分たちなら、そのセオリーを変えていくのも自分たちであればいいと思ってるし。仮にそこで“昔みたいなノリのほうがいい”と言われたとしても構わない。それでも胸を張って出せるものになったんで。とにかくこれが今の自分たちであって、今の気持ちに矛盾のないものなんです。昔の曲を引っ張り出してきて作ったようなアルバムじゃないから。

──ここには昨年、東京ドームへと向かう道筋の中でリリースされてきた3曲のシングルも収録されています。でも、不思議なことに真新しい曲たちとはまったく違うベクトルを持った曲たちでありながら違和感がなくて。

麗 そこは幸運だったかもしれない。実際、そういった曲たちがあらかじめあったからこそ、いざアルバムに集中しようとした時に、“今”に忠実に作れたというのがあるわけで。

RUKI 去年のシングルたちというのは、まさに王道を攻めてたというか。ルーツも憧れも踏まえながら、ちゃんと自分たちのパブリック・イメージというのも意識して。東京ドームでやるためにはそれが必要だと思ってたんですね。でも結果、実際にやってみて、違うなと思った。

麗 うん。結局、何かをひっくり返してやろうと思ったら王道じゃ駄目なんです。まず自分たちをひっくり返さなきゃいけない。実際、バンドにとっての王道というのは時間の流れの中で変わっていくものだと思うし、結果的には「VORTEX」が今の自分たちにとっての王道なんだということに気付かされたというか。

RUKI だから、実を言えば、あの曲たちをアルバムに入れないという選択肢もあったんです。最終的に3曲とも入れることにしたのは、何かを外すことで変に意味が生まれてしまうことを避けたかったからで。ただ、今になってこうして聴いてみると、入れて良かったなと思えるし、自分でもすごく気持ち良く聴けるアルバムになっている。しかも、アートワークとかも含めて、結果的にすごく“今”を体現できたところがあるんで。

──大型ブックレット仕様の初回生産限定盤のことですよね?かなり手の込んだ作りになっているようですけど。

RUKI 一曲一曲の歌詞が画像化されているというか。曲を聴いただけでは浮かんでこないような景色の見えるものにしてみたかったんです。ここには反骨精神ももちろんだけど、自分たちの考える現実が詰まってるというか。

麗 その通りだと思う。今や、自分たちにとって『TOXIC』というのはイメージの世界じゃなくて現実なんですよ。だから、10月10日から始まるツアーでも、それが伝わるようなライヴをやりたい。そのためには、これまでとは逆の方法論をとることになるのかもしれないし。自分たちでもこの先どうなるか、楽しみですね。

取材:増田勇一

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