2011-08-20
クラムボン、“好き”と言い続けた 結果にできたつながり
温泉旅館を舞台にして女子高校生の成長を描く人気アニメ『花咲くいろは』のエンディングテーマ「はなさくいろは」を歌うのは、これがアニソン初挑戦となるクラムボン。究極のアニメ愛にあふれた名曲誕生の舞台裏を3人が語ります!
──アニメの曲を手がけるのは、今回が初めてでしたっけ?
ミト 地上波では初めてですね。過去にいくつかオファーはあったんですけど、タイミング的に今だったのかなと思います。しかもP.A.ワークスという僕が本当に好きなアニメ制作会社があって、そのチームがやっているアニメのエンディングをと言われて、ただのいちファンがいきなり“舞台に上がっていいよ”と言われたみたいで唖然としました。もともと僕がTwitterでつぶやいていたのを見て、“やってみませんか?”と言ってくれたので、知らないうちに自分が営業していたことに気付いたんですけど(笑)。
──つぶやいてみるもんですね(笑)。
ミト そう(笑)。つぶやいたおかげでオファーが来ることは、結構あるんですよ。豊崎愛生ちゃんに曲を書いたことも、Twitterでつぶやいてるうちにいきなりオファーが来ちゃった。そんなのばっかりですよ、最近。ヘタに外に出て営業するより、Twitterで“好きだ”って伝えたほうが影響力が大きい(笑)。
郁子 どこかで誰かが見ててくれて。すごいですよね。
──曲作りはどんな作業だったのですか?
ミト 出来上がっている物語に合わせていくというのは、僕らの場合ほとんどないので、何もかもが真新しい感じでしたね。自分の中にあるものがアニメの世界観の中でどう使えるんだろう?みたいな、すごく不思議な作業でした。思ったより時間はかかりましたね。初めてじゃないかな、デモを何個も作って自分からボツにしていったのは。9曲ぐらい作ってたんですよ、実は。
──気合入ってますねぇ。
ミト 普段は3日ぐらい時間をもらって、だいたい初日には出来上がって、とりあえずもう1パターン作るぐらいですけど、今回は最初に3~4曲渡して、正式に決まってからさらに4~5曲作って、自分の中で選んで、最後に全部まとめて一個に作り上げていくみたいな。そしたら、今まで自分が想像していなかったものに仕上がった。だって、普通のアニソンと言われているもので、リフレインがないというのは致命的だと思うんですよ(笑)。
──あはははは! そうですかね。
ミト 本来はね。ユーザーのみんなが思っている機能性としては。でも、それで成立できたというのがすごいラッキーというか。エンディング曲なので、そこでストーリーをガラッと変えても駄目なんですよ。むしろクラムボンというバンドが『花咲くいろは』というアニメの中で、自分たちの持っているカラーをどこまで彼らに渡してあげられるか。それによって音楽が画になるというか、逆に画の印象が音になっているというか、有機的に混じっている感じですね。だから、一回聴いただけでは“えっ?”という感じで終わってしまうかもしれないんですよ、アニソンとして聴きたいという意識の人には。それは計画的にやったんじゃなくて、突き詰めて行ったらそうなっちゃっただけで。
──なるほどね…って、ここまでほとんどミトくんがしゃべってますけど(笑)。さすが筋金入りのアニメファンです。
郁子 あの、黙ってらっしゃいますけど、大ちゃん(伊藤大助)もアニメ大好きなんです(笑)。
伊藤 曲ができてからなんですけど、この場所(アニメの舞台となる湯の鷺駅。実際は、のと鉄道西岸駅)に写真を撮りに行きました。
ミト 他にも石川県の湯湧温泉というところで…そこは僕も行きました。1日かけて聖地を巡って写真を撮りました。
──郁子さんはアニメは?
郁子 いえ、まったく見ていなくて。ふたりが楽しそうにツアーの合間に聖地巡礼をしたり、アニメの話をしてるのを隣で見てるのが楽しかった(笑)。だから、今回お話をいただいて、映像を観た時に背景っていうのかな? 絵の綺麗さに本当にびっくりして。自販機とかこれ本物じゃないの?というぐらい。ちっちゃい時に見ていたアニメとはもう絵のクオリティーが格段に違っていて。本当に好きじゃないとできない仕事だなということもひしひしと伝わってきて。もちろん、ふたりからも伝わってくるから、とにかく台無しにしちゃいけない(笑)。クラムボンらしさとか自分らしさみたいなものは忘れて、できるだけストーリーや主人公の緒花たちに寄り添いたいなと思いました。
──歌詞には数え歌みたいなフレーズも入っているし、メロディーは優しい感じで覚えやすいし。不思議な懐かしさを感じました。
ミト 作り方はスタンダードですからね。むしろ古き良きスタンダードなアニソンのスタイルと、今の僕らの音を『花咲くいろは』というアニメに当てていったという、非常にまっとうなやり方だと思っているので。逆を言うと、そんなに特別なことはできないし、それが求められていないことも分かっていたし。焦点を求めずに、視点を変えるようなやり方で進んでいくのがクラムボンのやり方だったりするんだけど、今回はずっと一点を見つめる作業ですごくやり甲斐があったし、楽しかったですね。
──ここからクラムボンを知るアニメファンがいたら、それも嬉しいことですよね。
ミト クロスオーバーだから、今回のタッグは。『花咲くいろは』のスタッフもそうだし、ランティスとの絡みも新鮮だし、お互いに楽しくものを作れていることがみんなに届けばいいなって。ほんと、Twitterってすごいですね(笑)。
──結論はそこですか(笑)。
ミト 郁子が今回の取材でよく言うんだけど、“好き”と言い続けた結果にできたこのつながりというのはすごいねって。好きだと言って何でもできるものじゃないと思われてる中、それだけでプロセスを経たなんてことが、この世知辛い世の中にあるんだって感じてくれたら、こんなハッピーなことはないですよ。
取材:宮本英夫
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