2013-08-20

【阿部真央】ありのままの自分であることに自信が持ててきた

 セルフタイトルにしてもいいぐらいに、“阿部真央”というひとりの人間…いや、女性を感じた最新アルバム『貴方を好きな私』。なぜそういう作品になったのか、本作が生まれた背景などさまざまな角度から探っていった。

 前の作品よりも 自分が好きなものになった

──前アルバム『戦いは終わらない』はすごくポジティブで、新しい阿部真央を感じたし、そのアルバムのツアーでそれを実感したのですが、その後に発表されたシングルが「最後の私」と「貴方が好きな私」で、正直言って“あれ、また戻った?”って思ってしまったんですね。なので、まずは前のアルバムを作って、そのツアーが終わって、何が見えたのかをうかがいたいのですが。

「暗くなっちゃったからね(笑)。でも、あのアルバムはあのアルバムでツアーが終わった時に完結した感じがあったんですよ。だから、それを引きずるわけでもなく、それに類似した作品を作っていこうというわけでもなく…でも、今までのシングルとかもそうなんですけど、暗いものを出したら次は明るいものを出すっていうことをやってきたんで、自然とポップなものを出したら次はちょっとハードとか暗い感じにしたいっていう波が自分の中であったのかなって、今では思いますね。でも、「最後の私」は歌詞の内容とかファルセットのところとかは、今まで自分が書いてきたものとは全然違うと思っていて。メロディーラインも変わったと思うんですよね。その後に書いた「貴方が好きな私」もそうですけど、ファルセットを多用する曲が多くなってきてるので、それは変化だなと思っています。あと、歌詞の面では丸くなったというか、相手に感謝する…自分が傷付いてるにもかかわらず、“あなたに会えたことを大事に思ってます”みたいな…幼い頃の私が聴いたら綺麗事だって思うようなことを(笑)、本当に思うようになったっていう。そういう変化はあると思いますけど、それってただ単に私が年齢を重ねて丸くなったのかなって。」

──その歌詞の部分ですが、逆に気持ちの深い部分というか、より痛い部分が出ているのように思ったのですが。

「それは嬉しいですね。憎んで終われるほうが楽ですからね。自分の中で納得しながらじゃないですけど、いろんなことを許しながら諦めていくことって、ただ単に怒って終わるよりすごい辛いって思ったんですね。だから、そういうことを実際の恋愛で感じながら、自分の中で変化したんだなって思います。」

──恋愛によって大人になっていくということですね(笑)。

「ね(笑)。究極の人間関係なんで。」

──そんな「最後の私」と「貴方が好きな私」が先にあって、今回のアルバムに辿り着いたという感じですか?

「そうですね。「貴方が好きな私」なんか不思議で、曲を書いた時に“これは絶対に次のシングルだ”って思ったんですよ。その時点でアルバムのことはあんまり頭になかったんですけど、私の中で相当インパクトが強い曲だったんですね。だから、阿部真央が今後世の中にアプローチしていくやり方として、“そこを歌詞にするの!?”みたいな乙女心というか、エグい部分? そういうものを目指したいっていうのを年始にマネージャーさんと話してましたね。その流れでやりたいと思ってました。アルバムのタイトルも一文字変えるだけにしてみたりとかね。」

──アルバムも「貴方が好きな私」のモードだったと?

「そうですね。でも、アルバムは曲の世界観よりも音をどうやって作っていくかを考えていたかも。要は、「貴方が好きな私」は歌詞では女性に共感してもらえるようなものにして、音にこだわりたいと思ったんですよ。極端ですけど、歌詞を聴くのは女性で、音を聴くのは男性だっていう意見に行き着いたんで、歌詞は歌詞で今まで通りこだわるんですけど、音にもこだわってみようって。よりカッコ良くすればいいんじゃない?みたいな単純な考えだったんですけど、「貴方が好きな私」はすごい音にこだわれたんで、アルバムもその延長でってのはありましたね。別に、最先端の音を求めたわけではなく、“この曲にはこの音”って自分が納得できる状態で絶対に出そうって決めたというか。」

──音にこだわるというのは、前のアルバムの時にほぼセルフプロデュースでアレンジもアレンジャーさんと密にやられていましたが、やはりあの経験が大きい?

「大きかったですね。だから、前回のアルバム作りと似て非なるところがたくさんあって。やり方としては一緒なんだけど、自分の肩の力の入りようが違うというか、今回は楽しくできたんですよ。やっぱり前回は初めてでしたからね。結果、前の作品よりも自分が好きなものになったと思うし。やっぱり考えすぎないことですね(笑)。」

──今回のアレンジもアレンジャーさんと密に話し合いながら?

「前作ほど細かく言わなかったです。私がアレンジャーさんに頼むということは私とアレンジャーさんの共作になるから、みんなの意見も取り入れるっていう気持ちになったところが大きいかな。」

──「HOPE」がオープニングですが、これはもう1曲目に持ってこようと? アルバムの幕開けに相応しい曲だと思ったのですが。

「アレンジャーさんにアレンジを頼んで、“あ、これは1曲目がいいな”と思いましたね。サウンド感がすごくカッコ良いんで。走り出したい感じ? これがアルバムの最初になるとカッコ良いだろうなと思って。で、「貴方が好きな私」は絶対2曲目って決めてたんですよ。この曲があって「貴方が好きな私」があるとつながりがきれいかもって。思惑通りですね。」

──うんうん。“あれ戻った?”という印象は、この流れで消えましたよ。そのサウンド感で、ちゃんと前に進んでいることが実感できたというか。続く、3 曲目「それ以上でも以下でもない」もガツンとしたバンドサウンドでのロックチューンだし。

「この曲に関しては深くは考えてなかったんですよ。《それ以上でも以下でもない》と繰り返すフレーズにハマったっていうか(笑)。この後に出てくる曲にもあるんですけど、フレーズを繰り返すことにすごいハマった時期があって、そういう曲を面白がって書いていたっていう。そういうのが旬だったんです(笑)。」

──そして、「どこ行った?」なのですが。

「ちょっと前に書いた曲なんですけど、別にその時そんな不幸せな恋愛をしていたわけではなくて…私の中にある恋愛における闇の部分みたいなのが、すごいうまく切り取れたなと思ってるんですけど。ちょっと自分は変なのかもと思いながら(笑)。」

──この曲の主人公は、まさに真央さんだなと思いました(笑)。で、可愛さと怖さが共存しているというか、「貴方が好きな私」の主人公とも重なるんですよね。この女の子も自分の本心が言えずに誤摩化してしまって、素直に“寂しい”と言えないから逆に冷たく当たったり。

「そうそう、なんか厄介なんですよね。ただツンってしてるだけじゃない。自分の中にそういうのがあるんだろうなと思います。素直になれないというか、素直なんだけど、変なところで素直じゃなくなったりして。そういうことに悩む女子ってたくさんいると思うんですけどね。」



 こういう作品を作れたのは 今後の自分の糧になる

──7曲目の「天使はいたんだ」は希望を感じる曲だなと。今までの楽曲とは違った相手との距離感があるというか。

「確かに、書いたことなかったかもしれないです。幸せな感じがしますよね。私、この曲すごい好きで。天使って舞い降りてくるんだなぁとか思ったりしたんですよ、いろんな人と出会う中で。それって幸せを感じた時に思ったんですよね。この曲は男性目線で歌っているんですけど、いつも男性目線の曲を書く時は、こういうふうに自分が言われたいから書いてきたんですよ。だから、こういうふうに自分のことを思ってもらえていると思えている瞬間が出てきたんだなって。《僕は絶対 君を諦めたりしない》とか《こっちへおいで》っていうような受け入れる姿勢みたいな歌を書けるようになったんだと思ったんですよね。なんかその辺も、大人になったなぁって(笑)。ひとつこういう作品を作れたっていうのは、今後の自分の糧にはなりますよね。」

──これまでとテイストが違う曲ということでは、「返して」もなのですが…電気グルーヴかと思いましたよ(笑)。

「そうー! もうね、ハマっちゃって。ああいう曲を私も書きたいって(笑)。完全にインスパイアされてます。」

──テクノポップというか、EDM サウンドであっても、メロディーがいいのが阿部真央らしさなんですけど、歌詞が…(笑)。

「歌詞に関しては全然意味はないです(笑)。《三万円》《還元セール》の繰り返しから始まって、“還元”っていうことは返すってことだから、タイトルも“返して”になって(笑)。友達に聴かせたら“こういう曲作るんだ~”って。で、 “三万円、三万円、さんまは三枚おろしがいいな”って、その人が歌い出したんで(笑)、それも歌詞にしようよって。だから、そんなふうにふざけて作ったような曲なんで、メロディーのことは何も考えずに作ったから、そうやって言ってもらえると嬉しいですね。もちろん、曲として作るなら本気でやったほうがカッコ良くなると思って、歌ももちろん本気で歌って…めちゃめちゃ時間かかりましたよ、こんなに歌詞少ないのに!」

──遊ぶからには本気でやらないとね(笑)。

「そうなんですよ。すごい嬉しいです、そうやって言ってもらえて(笑)。」

──そういう曲があって、また無常観のある「怖い話」なのですが。

「この曲も“無い、無い、無い”ってお風呂でずっと言ってて…やっぱり繰り返す系にハマってたんですよ(笑)。“ 無い、無い、居場所など”って何も考えずに口ずさんでいたから、“ 何がないのか?”“ 居場所がないっていうのはどういうことなのか?”って考えて…その後のAメロの《僕らは試されていたんだ》っていうのが出てきたから、学生の頃のこと…ちょっとした嫌がらせを受けていたことを思い出しながら、“ あぁ~、イライラしてきた!”と思って(笑)。“許してないんだよ”っていう。」

──でも、その想いは最後に自分に返ってくるんですよね。それが「最後の私」のところとも似てると。

「そういう落とし方にハマっているのかもしれないですね、今。」

──あと、この曲で出てきた“居場所”という言葉なのですが、アルバム中に何回か出てくるので、常に真央さんは居場所を求めてるのかなとか思ったり…。

「すごい思ってる! 自分の存在を許してくれる場所とか、自分っていうものを許してくれる存在をすごく求めてる。で、それは家族でも友達でもなく、恋人とかパートナーになる人に求めてしまうんですよ。だから、全面的に私という存在を許してくれて、認めてくれるような人を求めていて、それが出てるのかもしれないですね。「怖い話」は友達との関係の中での経験を歌った曲ですけど、昔から“居場所”という言葉にはすごく敏感かも。」

──そういう“居場所”というのは、そこに自分を居させてもらうわけじゃないですか。だから、“捨てられる”という不安感が常にあるから、そういう言葉も歌詞に出てくるのかなと。

「なんで分かるんですか!?(笑) それに関してもいつも思ってて、好きな人ができたとしても、すぐに“嫌われるんじゃないか”とか、“捨てられるんじゃないか”とか思いがちなんですよね。やっぱり自分に心底自信がないんですよ。だから、自分が自分の居場所になってあげられないっていうか。誰も別に頼らせてくれないわけじゃないし、むしろやさしい人のほうが多いと思ってるんですね。ただ、自分というものに心底自信がないから、自分を許してくれる居場所をすごい求めていて。そういうのは本当に弱さだと思うし、それは私独特のものだなと思ってて。そういう私だからいろんな曲が書けるというか、女子のみんなに共感してもらえるような曲が書けているから、“今はこれでいいや”ってやっと思えるようになってきたんですけど、根底にはそういう枯渇した部分がずっとあるんでしょうね。」

──歌詞の書き方が変わって、より自分の気持ちの深いところが出るようになったから、そういう根底の部分が見えてくるんでしょうね。

「見えてくるようになったのかも。怖いよー(笑)。でも、隠してるわけではないから、そうやって見つけてもらうと嬉しいですね。」

──そんな今回のアルバムを作って、どんな自分が発見できましたか?

「無理のない自分かな、今回は。前回のアルバムはね、すごい自信を持って“自信作ができました”とか言ってたんですけど、虚勢を張ってた部分もめちゃめちゃあったと思うんですよ。制作の段階から自分が真ん中に立ってやるっていうことで、すごい責任を感じていたし。かつ、私はプライドも高いから、人に馬鹿にされないようにとかもあって。でも、今回はそういう部分がまったくないし、楽にやれている自分をアルバムを作っていく中ですごい感じていたんですね。あと、楽曲もストレスなく、楽しく生み出せたし、そういうアルバムについて喋れてる自分に対しても無理がない。ありのままの自分であることに自信が持ててきたのかなって思いますね。」

取材:石田博嗣

(OKMusic)


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