2013-05-20

【ジン】真っ直ぐジンであることが何よりカッコ良い

 バンド結成10年、3作目にして実に5年振りにリリースされるフルアルバム『For The Seeker』はジンにとって新境地であり、また、ついに打ち立てられた金字塔とも言えるだろう。すなわち、もっともジンらしい。マスタリング終了後に聞いた彼らの意志。それは今なお揺るぎなく、そしてとても軽やかだ。

──5年振りのアルバムが完成した、今の率直な心境を。

ひぃたん「いやもう、これが売れなかったら嘘でしょう! それぐらい自信たっぷりです。」

ハルカ「実は今回が初の完全セルフプロデュースなんですよ。全員が“もうこれ以上はできません”って堂々と言えるぐらいのアルバムにしようっていう、それぐらいの気合いで臨んだので。長い期間、ずーっと揉んできた曲もたくさん入ってるし、まさにジンの5年分が全部詰まったアルバムだな、と。」

ひぃたん「言わば、純血だね。」

──4人だけで作ってみたいと思い始めたのはいつ頃?

MOTOKI「前作のミニアルバム『エンジン』を出した後ですね。」

ハルカ「いろんな経験をした上で、より自分たちだけの力を試したい気持ちが強くなったんです。僕もすごく燃えて、自宅に籠ってデモを作りまくってました(笑)。」

哲之「ハルカがまた面白いデモを作ってくるんですよ。“マジか!?”みたいなデモも(笑)。いや、超カッコ良いんですよ! 超カッコ良いけど、今までにない要素がいっぱい詰まってて。」

──そこで躊躇はありませんでした?

哲之「やっぱり新しいことをしたいじゃないですか。聴いてくれた方、待っててくれた方を“え、ジンってこういうこともやるの!?”ってちょっと驚かせたくて。シングルにもなった「RIZING」が初の英語詞っていうのもそうで。新しいものをどんどん取り入れて、自分たちのものにして出していこうと。」

MOTOKI「「RIZING」を初めてライヴで披露した時、サビでバーッとお客さんの手が挙がったんです。びっくりしたけど、嬉しくて。自分たちの考えてることが伝わったんだなって。」

ひぃたん「どんどんやっていいんだなって改めて思えたよね。」

哲之「そう言えば、「RIZING」ってなんで英語詞になったの?」

ハルカ「俺が最初っからひぃたんに英語で歌ってもらいたいなと思って曲を作ってたからね。」

ひぃたん「はじめは超渋ったんですけど(笑)。でも、私も新しいことにチャレンジしてみたいし、だったらハルカが構想してるものに寄せてみてもいいかなって。書くのはものすごく大変だったけど、思いのほか英語がジンに馴染むっていうのは素晴らしい発見でしたね。今回、世界に向けても楽曲配信するんですけど、これはちゃんと闘える一曲になったな、と。」

──「Tonight」のファンクなアプローチも好きです、とっても。

ハルカ「「Tonight」は本当、昔からずっとやりたかったことがやっとかたちにできたかなっていう曲なんです。1stアルバム『レミングス』にも2ndアルバム『クオリア』にも、ちょっとファンク調の曲は入っているじゃないですか。あれって実はこの曲みたいな感じを目指してたんですよ。当時はまだ実力も経験も知識も足りなくてできなかったことが、今回は予想を上回って作れたから。このアルバムの中でも何気に重要な曲で、コイツがないとなんか成り立たないんだよなっていう気がすごくする。」

哲之「俺はこれ、単純に大変だった(笑)。ちょっとした悪戯心でリズム遊びをしてたら“それ、間奏で使ってみようよ”って採用されちゃって、すっごい汗が出ましたね(笑)。」

──このリズムはかなり面白いと思ったな。

哲之「そうなんです、スリップビートっぽいというか。アイディアがピリッと効いたカッコ良い曲になったなと。でもこれ、ギターもベースも結構大変でしょ。ほんと、バッキバキ。」

ひぃたん「楽器を初めたてのバンドマンがとりあえず挑戦して儚く散るヤツだよ、これは(笑)。」

──この曲に限らず、今回の曲たちってイントロにしろ間奏にしろ聴かせどころ満載というか、相当、楽器隊が暴れてますよね。「RIZING」のアウトロなんてもう。

ひぃたん「アウトロ、長い長い(笑)。」

ハルカ「シングル曲だけどこれだけアウトロ付けちゃいました、みたいな(笑)。たぶんジンがやらなきゃ誰もやらないだろうし、何より俺らがやりたいし。“やっちゃお、やっちゃお!”っていう。」

ひぃたん「いいんだよ、それで。だってカッコ良いもん。」

哲之「みんなから出てくるアイデアにしても、今までだったら“ちょっとアレかな?”ってあんまり試さないで終わっちゃったりもしてたけど、今回はとりあえず一回、やってみようって。そしたら結果は“う?ん”だったとしても、そこからまた新しいアイディアが生まれるようになって。とにかくアイディアが出るっていうことがすごく良かったし、出しやすい雰囲気だったんですよね。それで間奏とか、あれやりたい、これやりたい、になっていったという(笑)。」

──いい空気だったんですね、本当に。あと、「LONG WAY」のオシャレな横ノリサウンドにもハッとさせられました。

MOTOKI「僕もこの曲はすごく好きですね。まず雰囲気が好き。ドラムが入って、ファズのギターがバーッと入って、自分もワウを踏みながらっていうのは“新しいことをやってるな?!”って。単純に演奏してて楽しいし。」

ひぃたん「曲としてはだいぶ前、『エンジン』(2ndミニアルバム/2010年7月発売)の頃にできてたんだけどね。でも、一度もライヴでやったことないし、記憶の彼方に忘れ去られそうになってた曲なんですけど、今回、何をアルバムに入れるか話してた時にポッと“「LONG WAY」、いいよね”“そういえばあったね”って(笑)。実際、改めて演奏してみたら、めっちゃくちゃ良かったんですよ。」

──ライヴでやらなかったのは何か理由があったのですか?

ひぃたん「特に理由ってほどのものはなかったんですけど、やっぱりその頃のジンのライヴには入れにくい曲だったんですよね。今だったら表現し切れるけど、当時の私たちではちょっと浮いちゃうかなって。今このタイミングだからこそいいんでしょうね。」

──こんなにオシャレな曲にとことん内省的な歌詞が乗るっていうのがまた…。

ひぃたん「こんな救いのない歌詞、書いたの初めて(笑)。」

MOTOKI「何も解決しないっていうね。」

ひぃたん「いつもは何かしら解決してたのに、これは何も解決しないまま終わる(笑)。でも、そういうこともやってみたかったんですよ。ぜひ、水曜の夜に聴いてほしいです。例えば、落ち込んでても木曜や金曜ならもう少しでお休みだと思えるけど、水曜日って絶望的じゃないですか。“まだ全然、週の真ん中だわ?”みたいな。」

──とことん落ち込んだらあとは復活するだけだしね(笑)。歌詞でいうと「静寂の水槽」の淡々と情景を切り取るような世界観もこれまでにはなかった気がします。

ひぃたん「これは私の中で一個、ネジが外れた曲なんですよ。」

──ネジが外れた?

ひぃたん「表現者として吹っ切れたというか。もう自分の思ったままに書こう、たとえそれが誰にも分からなくてもいい、私は私の世界観を抱えてその責任を取ろう…って。分かんないって言われたら、ごめんなとしか返せないけど、でも訂正はしないよ…っていう覚悟ができた時の曲。要はクラゲの歌なんですよ、これ。水族館で見たクラゲのことを考えながら夜中にチャリをぶっ飛ばしてた時にできた歌詞なんですけど、ほんと誰のことも考えず、自分の好きなように作った歌詞だから、きっと聴いても分からないっていう人はいっぱいいると思うんですよ。」

──でも、“分からないけど、この感じが好き”っていう人もたくさんいるんじゃないかな。

ひぃたん「あ、それ最高! それでOKなんですよ。自分にとっても転換点になったちょっと特別な曲なんです、これは。」

──でも、そうやって随所に新しさを感じさせながらも、一方ではすごくジンらしいなって印象を受けたんですよね。変化球ではなく、これが今のジンのストレートというか。驚かせるにしてもビックリ箱的なものとは違うぞっていう。

哲之「ワッ! ってやるような幼稚な驚かせ方じゃなくて、新鮮に感じてもらえるアルバムにしたかったんです。自分たち自身も“うわ、ジンができることってまだいっぱいあるんだ! ”って作りながら実感できたんですよ。制作中の空気もすごく良くて、どんどんアイデアも出るし、新しいことが生まれてる時って、いろんなことがうまくいくんだなって思ったので。」

──“For The Seeker”っていうタイトルも新鮮でした。

ひぃたん「ビビッときちゃったんですよ、“Seeker”に。」

哲之「ハルカのエフェクターにSeekerってツマミがあって。」

ハルカ「スタジオで“何かグッとくる言葉、ないかね? ”ってふたりで話してた時に、ひぃたんが“そのSeekerって響き、良くない? ”って。検索してみたら、お?っ! ! ! って。」

ひぃたん「“探求者”って超ヤバくない? これじゃん! …みたいな(笑)。あれは導きでしたね。他にもタイトル案はあったけど“Seeker”を見付けた瞬間、全部破棄しましたもん。」

哲之「“ジン”っていうバンド名を決めた時ぐらいの勢いがあったね。その時も一瞬で破棄されましたからね(一同爆笑)。」

ひぃたん「しょうがないよ、お告げがきちゃったんだから。」

MOTOKI「急にきたから若干、乗り遅れかけたけどな(笑)。」

──"Seeker" という言葉に自分たち自身が重なった?

ひぃたん「そうですね、それはすごくあります。」

哲之「それに誰もが何かしら探求してると思うんですよ。」

──言ってしまえば人はみんな、死ぬまで探求者ですから。つまりは“みんな聴け”っていう意味になりますね。

哲之「そう、タイトルを和訳すると“全員聴け”になる(笑)。」

MOTOKI「“For The Seeker ?全員聴け?”にするか。」

哲之「う~ん、ダサい!(一同爆笑)」

ひぃたん「この10年、0にも100にも振り切りながらやってきたけど、このアルバムを作っていて思ったのは結局のところ、真っ直ぐジンであることが何よりもカッコ良いんだなって。そういうすごくシンプルなところに回帰した結果、こんなに新しくて濃いアルバムができた。だったらもう、このまま私たちは探求者の道を突き進んでいく。そんな意気込みもこのタイトルには込めてます。もうブレないから、っていう。」

ハルカ「僕はやっと、ちゃんと名刺ができたなって。もちろん今までも全力でやってきたんですけど、今回は本当に“これがジンだ”っていうアルバムができたなと。とにかくジンにしかできないようなことをどんどん取り入れて、誰に媚びることなく作ったアルバムなので。」

──結成10年にして今、名刺だと言えるのがすごく素敵です。きっといい意味で大人になっただろうし、だからこそ音楽に対する想いもより研ぎ澄まされただろうし。

ひぃたん「うん、大人にはなったと思います。」

MOTOKI「道は多少、整備されたよね。」

哲之「今までがオフロード過ぎたから(笑)。」

ひぃたん「きっとそれぞれが4人のことを考えるようになったんじゃないかな。自分のパートについてだけじゃなく、ジンというバンドをどういうふうにやっていくか。そこで自分の意見が通らなくても、ジンとしてこっちのほうがカッコ良いからって思えるようになってきた。それってすっごく当たり前なことなんですけど(笑)。私は今、ようやく分かってきたんですよね。言葉じゃなくて精神的に理解したというか、やっと染みたというか。」

MOTOKI「10年かかっちゃった?」

ひぃたん「かかっちゃったねぇ。すみませんでした!(笑) でも、そういうことが分かるにつれて歌詞もどんどん自由になって、守りに入らなくなってきたんですよね。“これを書いたらこう思われるんじゃないか”じゃなくて“こっちのほうが素敵っしょ!”って。メンバーに歌詞を見せて、ああじゃねぇこうじゃねぇ言われると、ちょっと“フン!”とは思うけど(笑)、それも素直に受け入れられるようになったし。だからこのアルバムの先、次の作品はもっと素晴らしいものになるんじゃないかと思えるし、それが楽しみなんですよ。ちょっと遅いですけどね、早く気付けよって話ですけど。」

MOTOKI「…遅くないよっ。」

ひぃたん「もっくん、すごい棒読みだよ(笑)。」

──あはははは。でも、その確信はジンをさらに強くしますね。

ひぃたん「寄り道したことも、全てがこのアルバムの糧になっているので。迷いの時期は本当に辛かったけど、そのおかげで迷ってる人の気持ちもよく分かるし、絶望感を味わったからこそ、よりやさしい歌も歌えるだろうし。待っててくれたみんなにも「雷音」や「解読不能」で止まってる人にもとりあえず聴いてほしい。“あのままだと思うなよ! ”って(笑)。ジンのベストタイミングは今だと胸を張って言いたいですね。」

取材:本間夕子

(OKMusic)


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