月明かり照らされ浮かび上がる洋館。
蔦が絡まる壁と、飾り窓。
窓際に飾った花の中で、
一際赤く大きな薔薇の花が揺らめく。

ここは夢の城 愛の楽園
すべて忘れて おやすみなさい

飾り窓を覗く彼の頬が、
薔薇色に染まって滲んでゆく。

「見つめてしまった。」
「想ってしまった。」
「恋してしまった。」
「あの人に。」

「出逢ってしまった。」
「求めてしまった。」
「愛してしまった。」
「あの人を。」

「あぁ…。」

何も知らないまま、闇夜にとける逢瀬。
「私を抱いて。お好きになさって。」
濡れた空気が喉にべったりと張りついて、
喘ぎながら意識が遠のいてゆく。

ここは夢の城 愛の楽園
指からませて  堕ちてゆきましょう

みるみる痩せ細り、
涸れて果ててゆく自らに気づかず、
夢をみる。

そっと触れる素肌。
「もっと近くにきて」
甘く混ざる吐息。闇の中。

「そっと くちづけて」
「もっと強く抱いて」
そして息を止めて。永遠に。

そっと触れる素肌。
「もっと近くにきて」
甘く混ざる吐息。闇の中。

甘やかに痺れ、形を変えてく。
もう戻れはしない、薔薇の宵闇。

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