その朝彼はベッドに腹這いになりながら
大きく手を伸ばすと
消え去ってしまった彼女の
温もりを探すことから始めてみた
中途半端に使い古された衣類の上に
太陽の光は静かに散らばっている
彼は ようやく開けた眼に
一番最初に焼きついたそれらが
今日を占うもののように思えたし
いや今日というよりも彼の人生そのものを象徴しうる
一番大切な確かなものに思えてならなかった
山のような労働
こぼれ落ちるしたたかな汗
彼は次に体のあちこちに少しずつ力を配ることを始めた
時々 色々な思いに力がまけてしまいそうになるが
主観性が客観性であることを認識すると
それからまた力を入れてみた
目覚めてから彼は
一度も呼吸を感じなかった
これが死かと思うほど安らかな感覚は
やがて現実というものに嘔吐しながら激しく突き刺さり
腹這いの彼の体が半分に折れ曲がるような苦痛の中
今日に生まれた
次に彼は太陽の光を追いかけることを始めた
跳ね返ったり吸い込まれてしまう太陽の虚像は
彼の頭を混乱させ
彼がいかにのろまで

なんて間の抜けた人間かを
その度に思い起こさせてくれた
笑うことを失ったビルの残像は
幾度も重なり合い
埃のような自分の影を見失いそうになった
彼が15本目のたばこに火をつける頃
太陽は沈みかけた
デコボコな地面に不器用に建てられたビルの陰に
駐車違反の車は飲み込まれてゆく
彼にとってそれらは
自分自身の行方を象徴しているようでならなかった
物が壊れてゆく小さな物音がこだまし
街中に響き渡っていた
彼のかざした手に死がのしかかる
生きるという空しさに涙がこぼれた
おごそかに街の生け贅が捧げられ
太陽は沈んでゆく
人の心の欲望という奴を彼は考える
ほんの少しでも楽な姿勢を取るために
体をくねらせながら
彼は何度も何度も欠伸をした
欠伸をして伸ばした手の先に
しなやかな風をまさぐり
彼には何が始まりで何が終わりなのか
すっかりわからなくなっていた
横たえた体の先には
まだ現実がひかかっていた

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