2013-02-20
【サカナクション】サカナクションの在り方は 全て“表裏一体”という言葉で説明できる
前アルバム『DocumentaLy』から1年半。今や日本の音楽シーンきっての革新者であり、オピニオンリーダーとなったサカナクションのニューアルバムがいよいよリリースされる…のだが、取材当日までに作品は完成しなかった。それでもインタビューに応えてくれた山口一郎(Vo)の表情には、一点の曇りもなかった。
──現段階(2 月1 日)でシングル3 曲を含む6 曲を聴かせてもらっていて。一郎くんと話しながら、可能な限りニューアルバムの全体像に迫れたらと思っています。
「よろしくお願いします。」
──レコーディングは想像以上に難航している感じなのですか?
「いや、オケはもう全部できていて。あとは歌詞と歌録りだけなんですけど。それが間に合わなくて。このアルバムのテーマは“表裏一体”なんですね。表と裏を担う曲があって、「僕と花」「夜の踊り子」「ミュージック」というシングル3曲と「深い青」( 仮タイトル) という4曲が表側にある曲なんです。」
──いわばアルバムの入口ですね。「深い青」は久しぶりにギター ロック的なアプローチが押し出された、すごくキャッチーな曲で。
「そうですね。これはシングルの他に表を担える曲にしようと思ってできた曲で。今朝できました(苦笑)。だから、ホントにみなさんに聴いてもらうまでに時差がないんですよね。で、表裏一体の最も裏側にあるのが、「INORI」という曲なんです。」
──「INORI」は日本を代表する電子音楽家であるAOKI takamasa氏と共作した、かなりディープな曲ですが、ヴォー カルは一郎くんのハミングのみの、ほぼインストナンバーといっ ていいかたちをとっている。ダンスミュージックならではの深淵な美しさと生々しさ、徐々に浮かび上がるダイナミックなド ラマ性が素晴らしいですね。
「これがアルバムの1曲目になるんですけど。「INORI」はサカナクションの未来になる曲だと思っていて。僕らにとって、まさに“祈り”のような存在なんです。で、表と裏の隙間を他のアルバム曲で埋めようと思っていて。」
──資料には“『sakanaction』(仮)”とタイトルが記されているんですけど、このままセルフタイトルでいく可能性もあるのですか?
「今回はサカナクションの5人をアルバムの中で濃密に表現していて。それがしっかりイメージしやすいのは、サカナクションの“sakanaction”なのかなと思うんですけど。他のタイトル案は、「INORI」から派生するイメージが沸いているんですけど。いずれにせよ、明日、明後日には決めないとヤバい(笑)。」
──“表裏一体”というテーマに行き着いたのはどういう流れで?
「ここまでアルバムを5枚出して、サカナクションって一体どういうバンドなのか、改めて客観的に考えたんです。そして、アルバムごとに掲げてきたテーマが、ひとつのキーワードにつながることに気付いた。それが“表裏一体”だったんです。フォークソングとクラブミュージックを混ぜ合わせるという音楽的な試みも、果敢にメディアにアプローチしながら作品やライヴではクリエイティブな高みを目指すというスタイルも、全てが“表裏一体”という言葉で説明できると思った。じゃあ、今のサカナクションが表現できる表裏一体を一枚のアルバムで追求したらどんな作品ができるんだろう?と思って。このアルバムを聴くことで、今までのサカナクションとこれからのサカナクションを感じてもらえたらいいなって。」
──今作は一郎くんの部屋で自宅レコーディングを敢行したんですよね。それは、メンバー5 人が一丸となって表裏一体における裏を研ぎ澄ますための試みだと思うのですが。
「5人で共有するものを濃くするためですね。やっぱりスタジオで曲を作ると、どうしても仕事っぽくなるし、人に受け入れられるものを作らなくてはいけないという、ある種の縛りが無意識に働くから。この期間に2、3回部屋の模様替えをしましたからね。そうすると、メンバーみんなの部屋になるんです。今では爪切りがどこにあるかとか、僕よりメンバーのほうが知っている(笑)。僕らはリスナーが理解できない音楽は絶対作ったりしない。でも、最高の表裏一体を表現するためには、僕らが本当に面白いと思ったり、カッコ良いと思う音をみんなでしっかり見極めないといけないと思った。それをやるもっとも適した場所が僕の部屋だったんです。」
──「ミュージック」が顕著だけど、歌詞の面では音楽を追い求める一郎くんの姿とバンドの立ち位置、そして時代との対話を 交差させること、それをこれまで以上に突き詰めている印象がありますよ。
「うん。そういう感じを突き詰めているし、その結果、歌詞はより抽象的になった。今回は、言葉のリズムが意味を上回っているんです。音からイメージして言葉を紡いでいるから、言葉に余白がないとサウンドの意味やクラブミュージック感が希薄になってしまうんですよね。」
──言葉がサウンドの意味を奪ってしまうと。
「そう。音の世界を狭めてしまう。特に「ミュージック」はそのバランスが難しかった。」
──アルバム完成までにまだその作業が――。
「7曲分もあるんです(苦笑)。」
──ちなみに残りの7曲はどんな音を纏っているのですか?
「すごくグルービーです。自分でも“こんなルーキーが出てきたらヤだな”って思う曲ばかりですよ。ちょっと嫉妬するなって。」
──改めて、このアルバムで何を切り開きたいですか?
「今この時代、この瞬間に僕らがどういうことを考えて、どういう戦略を立てて、どういう感情で音楽を作っているのか、このアルバムに全て込めます。それをリスナーにもきっとリアルに感じてもらえると思うし、日本の音楽シーンに対してワクワクする人が増えたらいいなと思う。」
取材:三宅正一
(OKMusic)
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