2026-05-12
話題のV系バンド「色々な十字架」 LINE CUBE SHIBUYAでの5周年記念ワンマンライヴレポ
汝は社会的耽美楽団こと色々な十字架を讃仰しし者†。
今年1月、大手ホームセンター・カインズが運営する情報サイトにて『カインズの歌を無断で作ったヴィジュアル系バンドに連絡をとってみた』という、なんとも興味深い記事が掲載されSNS上にてバズった件を皆様はご存知だろうか。
そう、そのお騒がせヴィジュアル系バンドこそが色々な十字架となる。
ちなみに、カインズホームの歌として世に広まったのは2024年11月にリリースされた彼らのセカンドアルバム『1年生や2年生の挨拶』に収録されていた「LOST CHILD」で、実に1年以上のタイムラグを経て楽曲が突如バズったことになるが、そもそも音楽ファンの間における色々な十字架は近年かなり注目を集めてきた存在だと言えよう。
しかも、いわゆるバンギャ界隈のみならず同業ミュージシャンたちや音楽業界関係者の間でも彼らに対する評価はなかなかに高い。
そんな色々な十字架は、先だってヒューリックホール東京にて初のホールワンマンライヴ[5th ONE-MAN SHOW「タケノコ狩りなどで山に行く際の専門性のあるリュック ON STAGE!」]を2月に開催し、なんとチケットは見事に完売。
それを受け、このたび追加公演として行われたのが自身最大キャパとなるLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)での[5th ONE MAN SHOW「タケノコ狩りなどで山に行く際の専門性のあるリュック ON STAGE! ~彩縁~」]だったのだ。
なお、2月の本公演時と同様に開演前のステージには“1曲目は座ってお楽しみください”との案内がLEDヴィジョン上に表示されており、開演と同時に今回の追加公演へと至った旨を解説するナレーション&映像が場内へと流されたあと、まずはフロントマン・tinkが下手側の客席ドアから颯爽と登場!!
そして、ひとしきり客席内通路を歩きながらセリフを発したあと、tinkはスタッフの用意した箱馬の上に立ちアカペラで♪ここはチャリの里~♪と歌い出し、その場にはミュージカルのような雰囲気が醸し出されていくことになったと言っていい。
ここで歌われたのはそのまま「チャリの里」なるタイトルを冠した楽曲で、曲中ではステージ奥にしつらえられた障子がスライドオープンし、ベーシスト・misujiと下手ギタリスト・kikatoが2ショットで見参すると、それぞれのセリフに合わせてのポージングを展開。
そのあとにはこれまたミュージカル的な風情でパフォーマンスしだしたのだから、全くもって面白い。
いや、2月にもほぼ同じ流れを観てはいるので正確には「何度観ても面白い」という表現の方が正しいような気もする。
程なくしてtinkがステージまで辿り着くと、今度は上手ギタリスト・tacato.とドラマー・dagakiが障子から出現。
結果、めでたく5人全員が「チャリの里」を熱唱するという構図がLINE CUBE SHIBUYAの場に生まれたわけだ。
ヴィジュアル系バンドのライヴを観にきたはずなのに、気付けばミュージカルのようなものを見せられている…というこの謎事態は、つまり色々な十字架の仕組んだある種の罠であり、深い沼への入口にもなっていたと考えられはしまいか。
もし、ほんの少しでも「いったい我々は今この場で何を見せられているのか?」と受け手側が感じていたならば、今宵の勝負は既に決まったも同然だった可能性がある。
とはいえ、それでもまだまだこれは追加公演のオープニング場面に過ぎない。
再びのナレーションをはさんだあとには、いよいよ実演奏曲「大きな大きなハンバーグ」が始まり、バンド側から“しし者”と称されるファンらはtinkから発せられた「皆の者、起ち上がるのだ!」という号令を受けて、一斉に古典的スタイルで“咲き”始めることに。
なぜ古典的スタイルなのか、という点については明確な理由がある。それは色々な十字架の生まれた経緯とも関係している話で、このバンドは“90年代V系リバイバルバンド”という基本コンセプトに沿い活動をしてきたことに由来する。
たとえば、前述した「大きな大きなハンバーグ」がROUAGEをオマージュした楽曲であることはメンバーも公言していることで、そこを前提としている以上はオーディエンス側も“90年代のノリ”を再現することにより、ライヴとしての完成度が高まるのは当然のこと。
バンド側の意思と、それを尊重する“しし者”たちの愛が重なることで、色々な十字架の白サバト(ライヴのことを指す色々な十字架ならではの用語)には、懐かしき古(いにしえ)の空気が漂うわけだ。
また、このあとに続いた「繋がれた脳と線路という名の檻と赤」は音にcali≠gariや彩冷えるの香りをまとわせる一方、歌詞では世界的に有名な人面付き蒸気機関車を主人公にしたCGアニメの内容を彷彿とさせる世界観が表現されていたり。
かと思うと、疾走感あふれる「ごぼう」では現D'ERLANGERのkyo/現L'Arc-en-Cielのyukihiro/元THE MAD CAPSULE MARKETSの室姫深が在籍していたことで知られるDIE IN CRIESのサウンドをモチーフに、歌詞ではどういうわけか雑なスタンスの婚活アドバイザーが描かれるという最高なトンチキぶりを発揮。
もっとも、色々な十字架の全歌詞を手掛けるtinkの持つ特性についてはこれまでの経歴を知れば多少は腑に落ちる点があったりもする。
もともと彼はティンカーベル初野の名義で動画配信をするクリエイターであり、ギターロック系バンド・she might be swimmerではベーシストとして活動しているほか、かつてM-1やキングオブコントにエントリーした経験まであるのだとか。
要するに、tinkは生え抜きのヴィジュアル系バンドマンというわけではないうえ、ティンカーベル初野として発信してきた作品たちもシュールレアリスムに満ちたものが多いことを考えると、一連の“何を食って育ったらこのような言葉たちを発想することが出来るのか?”という疑問に対する回答らしきものを見つけられなくもない。
なおかつ、色々な十字架に関してはtink以外のメンバーも全員“生え抜きのヴィジュアル系バンドマンではない”ところも大きな特徴で、kikatoはタカユキカトーの名義でジャンルを問わずアレンジ・作詞・作曲を手掛けるアーティストであり、tacato.はナカネタカトの名義でソロ弾き語りやThe Mellow Suicides(演劇+音楽)でも活躍。
dagakiは金子タカアキとしてsheeploreやKRISHNVなどで、やはりヴィジュアル系とは全く異なるバンド活動にも参加している。
くわえて、misujiの中の人はピンクシガレットのイトウリョウにして、本人いわく「ヴィジュアル系はほとんど通ってきてない」そう。
だが、それでいて5人が色々な十字架で体現している“90年代V系”の解像度は極めて高い。
さかのぼれば2020年4月のエイプリルフールに、ネタ企画として「良いホームラン」のMVを公開したことが色々な十字架の始まりであったが、misuji以外の面々は各人ともヴィジュアル系に対する造詣が一様に深く、バンドとしては客観的な視点を持ちながら“90年代V系”を細かく解析し、V系とは異なる畑で培ってきたセンスや手腕を全投入して音楽制作をしているからこそ、彼らの音楽は味わい深いのではなかろうか。
中でも、tinkとmisujiが2MC体制で披露したヒップホップ色の強い「汗拭きシートで冬来けり」での“それっぽさ”は筋金入りで、バンドマンのやるなんちゃってラップとは明らかに一線を画する練度をみせていた。
やはり、こうした場面にも色々な十字架の懐深さがよく出ていたように思う。
あげく、この曲の歌詞も非常にイカれていてtinkの特殊性癖までが漏れ出ていたことに多少の危惧を感じたのは筆者だけだろうか(笑)。
言葉選びの大胆さという意味では「TAMAKIN」も相当で、このライヴの1週間前に行われた池袋サンシャイン噴水広場でのフリーイベントでは、社会的耽美楽団の社会的配慮から歌詞を改変した「TAMAKIN(全年齢版)」が演奏され、♪〜TAMAKIN♪の部分は♪〜ラクダぴーす♪と歌われていたことも参考のためここに表記しておきたい。
しかし、逆に言うと渋谷公会堂のような公共施設でも「TAMAKIN」がアリというのは実に素晴らしい話だ。
日本は自分が認識していた以上に表現の自由がまだまだ担保されている国であるのだな、と再認識するなどした。
かくして、この公演の中盤ではMALICE MIZERの「N.p.s N.g.s」に対するリスペクトが詰まった「機械じかけの変態~ラケット女王様~」で2.5次元ミュージカルの手法を取り入れたおなじみの演出を楽しむことが出来たうえ、5月20日に両A面シングルとして発売される『魚~ホットドッグ~/ミル~猩々紅冠鳥~』の2曲を続けて聴くことも叶ったが。
ファンサの在り方としては、再び観客を着席させた「椅子の歌」でメンバーが1階席はおろか2階席にも出張して“タケノコ狩りなどで山に行く際の専門性のあるリュック”に詰め込んだお菓子やタケノコを、しし者たちに配り歩いていた姿も大変微笑ましかった。
色々な十字架はホールライヴの際にファミリー席と称したお子様連れの観客に優しい座席設定も用意しており、お菓子に喜ぶお子様たちは多かったようだ。
ただし、色々な十字架では歌詞にて〈ガキ〉が多々登場するばかりか、大抵その〈ガキ〉は主人公からひどい目にあうため、そこの矛盾と不条理もある意味では色々な十字架らしさのひとつとして捉えることは出来る。
けれども、今回の追加公演におけるひとつのクライマックスを迎えた「LOST CHILD」の内容に限っては、むしろ〈ガキ〉は広大なカインズホームの敷地内で迷った時に歌詞中の主人公から救いの手を差し伸べられる、庇護の対象として描かれている点がとても興味深い。
週末のホームセンターでよく見かけそうな凡庸なる光景を、ドラマティックな楽曲と秀逸な演奏スキルで描き出す色々な十字架の底力を感じることが出来るこの曲が、今や彼らの代表曲として親しまれるようになったことの意味はとても大きい。
もっと言えば、この「LOST CHILD」から感じられたスケール感や音楽的説得力は色々な十字架の未来を予感させるにあまりあるもので、正直「このバンドはカインズホームくらい大きすぎる場所でライヴをやるようになってもいい存在なのでは?」と感じたほど。
2023年に初めて観た恵比寿LIQUID ROOMでのワンマンライヴ[☆えびす和紙の里で行う紙漉き体験☆]の頃と比べると、tinkの歌唱力が格段に向上している点も含めて、もはや色々な十字架はホールライヴどころか、いずれ日本武道館もそう遠くないうちに射程圏内へ入れることが可能になるものと筆者は今宵の公演にふれて確信した。
それだけに、アンコールにて歌われた新曲「たけのこ狩りの行きに」の歌詞が完全にR-18的にアウトなワードをはらんだものになっていて、LEDに映し出される文字にも申し訳程度のモザイクがかかっていた様子に若干の懸念を抱いたのは事実だが、きっとギリギリでいつも生きていたいのがtinkという御仁であり、そんな彼の個性を最大限に活かせるのが色々な十字架という自由な場であるに違いない。
それに、いよいよ公序良俗の面で立ち行かなくなった時には例の“全年齢版”を持ち出す奥の手も使える。
というわけで。ダブルアンコール前の幕間映像でひとしきり笑ったあと、かつて日本武道館をライヴハウスと呼んだあの大御所バンドにどこか通ずる音像をたたえた「ご飯が食べられる古書堂で」が演奏され、ここぞというポイントでキャノン砲から打ち上げられた青い銀テープがキラめく光景を見やりながら、汝はこれからも社会的耽美楽団こと色々な十字架を讃仰しし者†として過ごしてゆくことを誓った次第である。
PHOTO:川竹ナオト
TEXT:杉江由紀
色々な十字架 5th ONE-MAN SHOW『タケノコ狩りなどで山に行く際の専門性のあるリュック ON STAGE!〜彩縁(さいえん)〜』
2026年4月30日(木)LINE CUBE SHIBUYA
SET LIST
-ここはチャリの里-
01:大きな大きなハンバーグ
02:繋がれた脳と線路という名の檻と赤
03:ごぼう
-組合員紹介の歌-
04:汗拭きシートで冬来けり
05:T A M A K I N
06:凍らしたヨーグルト
07:第13セクターの子供たちへ
08:機械じかけの変態〜ラケット女王様〜
09:魚〜ホットドッグ〜
10:ミル〜猩々紅冠鳥〜
-椅子の歌-
11:6年生を送る会
12:Highway to Tomorrow〜ダイナミッ クおもらし〜
13:LOST CHILD
14:勇気
15:GTO
-タケナオ写真家撮影の歌-
En1:たけのこ狩りの行きに・・・(仮)
En2:かなり耽美(決定)
W.En:ご飯が食べられる古書堂で
色々な十字架 公式X https://x.com/kanari_tanbi
色々な十字架 LitlLnk https://lit.link/kanaritanbi
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