2017-03-07

POLYSICS、結成20周年記念ライブで“ここからまた新しいスタンダードを作っていく”と宣言

3月4日に結成20周年を迎えたPOLYSICSが、同日豊洲PITにて『20周年 OR DIE!!! All Time POLYSICS!!!』を開催した。

今から20年前。まだ10代だったハヤシ少年は「シンセとギターがあるから何か面白いことしようぜ!」と盛り上がり、幼馴染とバンドを結成。わいわいデモテープを作り、ライブハウス新宿JAMのステージに立ったのだった。それが1997年3月4日。ポリシックスが生まれた日である。

そこから20年、ポリは熱心なファンに恵まれるバンドであり続けてきた。もちろん初期はイロモノ扱いだったし、日暮愛葉には目の前で「3回見たら飽きる」と言われたそうだが、同じくニューウェイヴ/テクノポップを愛する大人たちがいち早く理解を示し、DEVOを知らない若者たちも「何これ超おもしろい」と笑顔で飛びついてきた。そして、彼らが3回で離れていったかといえば全然違った。なぜかといえばハヤシが毎回手を変え品を変え、面白い選曲と、楽しいパフォーマンスと、ぶっとんだ新曲を提供していたからだ。

「手を変え品を変え20年ずっと」というのは大変な作業に思えるが、ハヤシを筆頭とするメンバーはいつだって楽しそうだった。この日のライヴは「サニーマスター」の開始と同時にスクリーンが始動。過去のアー写やジャケ写が次々と現れたが、メンバーの容姿は驚くほど変わらない。バイザーだから当然だというツッコミは置いておくが、いつの時代も嬉々として揃いのツナギを着込み、何か面白いことを企んでいる笑みを浮かべる、あるいは珍妙なポーズを取っているのは、本人たちが面倒くさがっていてはできないことだろう。そうやって月日を重ね、ファンは共に歳を取り、さらに若い層がどんどん加わっていく。PITのフロアをざっと見渡せば、10代から20代、30〜40代、もしかしたら50代も? という感じで、なんとも客層が広いことに改めて感心する。ティーンからオッサンまで、全員が「Buggie Technica」で意気揚々と振り付けをキメているのは、珍妙だがとても素敵な光景だ。

初期のナンバーを一気に5曲畳み掛けたあと、「トイス!……トヨース!」というハヤシのMCを経て、フミとヤノは通常のオレンジツナギをさっと脱ぎ捨てる。現れたのは白ツナギのフミと黄色ツナギのヤノ。それぞれインディーズ時代、メジャー移籍直後の衣装である。どよめく観客。20年前の「Buggie Technica」は懐かしいどころか今もフレッシュなのに、ツナギの色に関しては妙にノスタルジックな気持ちになる。そんな自分の心境に自分でウケてしまった。曲はそうじゃないのに衣装だけは懐かしいなんて、ポリにしか通用しない話だろう。ここからは、20周年を意識した本日限りの特別セット。シングル曲や定番曲ではないものの、それぞれの時代を象徴してきたナンバーが、当時の衣装とともに次々と再演されていく。

「ENO」で久々の緑ジャケットを披露したハヤシ。リズムマシーンをバックにひとりアコギで歌い上げた「COMMODOLL」。その間姿を消していたフミは「カジャカジャグー」のジャケでお馴染みの黒ツナギ&バイザー姿に変わっており、ヤノは3rd『FOR YOUNG ELECTRIC POP』時代の白ツナギだ。キュートなエレポップの名曲「Code4」が聴けるのも久しぶり。ファンはもちろん満面の笑みだが、考えてみれば、シーケンスを使って曲間を繋ぎ、それぞれ自分の動きを把握しながら頻繁にお色直しを繰り返すというのは大変な労力。お色直しといっても結局ツナギなのだから、必要ないといえばそれまでである。だが、それをやるのがポリシックス。それをやるからこそポリシックス。いつだって手を変え品を変え、他人から見ればどうでもいい細部にこだわりながら、毎度お客さんを驚かせる面白いアイディアを投げ続けてきた。この演出はポリの意地でありプライドなのだろう。そして一一。

ハヤシが「微妙に懐かしいだろ〜!」と赤ツナギで登場し、「Tei! Tei! Tei!」が始まった時の興奮はちょっと忘れられない。コアファン以外からはイロモノと見られていたポリがライヴアクトとして急成長するのは、赤ツナギのジャケでお馴染み、「Tei! Tei! Tei!」から幕を開ける5th『Now is the time!』からである。ヤノが加入し、海外での評価も高まり、日本でも急激にファンが増えていった時代。ヤノ、フミ、カヨ、ハヤシの4人はもはや鉄壁のメンバーに見えたし、カヨの呑気なリコーダーが印象的な「I My Me Mine」はMVのインパクトも含めて代表曲のひとつになった。その後、初の武道館公演とカヨ卒業までの数年間が、バンド史上ひとつのピークだったことは間違いないと思う。

ちなみにカヨ卒業後の「I My Me Mine」はリコーダー部分をカズーに変えることでリメイクされたが、ライヴの定番というポジションに返り咲くことはなかった。だが、本日ばかりはスペシャルバージョン。演奏中はハヤシとフミがカズーを吹いていたが、曲終わりでドラムセットを離れたヤノがおもむろにリコーダーを取り出す。カズーとハモりながらサビのメロディが演奏された瞬間は、なんというか、涙も辞さないくらい感動的だった。鉄壁に見えた4人だったのに、ひとりが去り、そこからは3人だけで続けた試行錯誤。努力はもちろんリスペクトするが、新体制のポリを見て「何かが足りない……」と思う瞬間は正直あった。だが、彼らは担当機材が増えたことで逆に自由になっていく。ヤノはドラムセットを離れて踊りやギターやMCまでを任される特異なキャラクターになったし、フミは頼もしいベーシストでありながら、ハヤシとのツインボーカル兼たまにシンセという役割をまっとうしている。リーダーはハヤシだが、彼ひとりのバンドではない。見事なトライアングルがあるからこそ、今のポリはさらに面白くなったのだ。そういう状況で聴いた久々の「I My Me Mine」。“あの時代”を再現しているのではなく、今の感覚で完全に乗り越えているのだ、と確信できるシーンだった。

20周年を振り返るこの日だけの特別セットは、炎のギタリストと化したヤノがメロイックサインを乱発しながら大暴れする「Moog is Love」で終了。そのあとはMCを挟み、全員が定番オレンジツナギに戻って通常コーナーへ。通常といっても、異様なテンションで名曲や定番曲が飛び出すハイライトの連続だ。意味などないのに大合唱が巻き起こる「カジャカジャグー」や「Let’s ダバダバ」。いつものビール一気飲みコーナーが大盃の日本酒2本(!)に変わっていた「ワチュワナドゥー」。そして「Shout Aloud!」と「URGE ON!!」でトドメを刺す圧倒的なバンドのエネルギー。終わってみれば本編は全34曲。なんと濃厚でせわしなく、バカバカしくも揺るぎないプライドに満ちた時間だったのかと頭がクラクラした。

そしてアンコール。定位置ではなくステージ中央に集まった3人は、一気にオレンジのツナギを脱ぎ捨ててみせる。現れるのは鮮やかなイエロー。そう、メジャー第一弾『NEU』の頃を思い出す黄色ツナギである。初心に戻るという意味も、20周年の今日がまた新たなスタートだという心意気もあるのだろう。そうして始まったのは新曲の「Tune Up!」。サビにある“I’m ready to go〜”という歌詞が、珍しく意味のあるメッセージに聴こえてくる。明るく、頼もしく、堂々と響き渡った“I’m ready to go〜”。これが20年目のポリの合言葉か。この日、20周年を記念した対バンツアーが行われることが発表されたが、それ以外のイベントや祝い事は当然まだまだ用意されていることだろう。

「ここから、また、新しいスタンダードを作っていこうと思っています」。そんなハヤシの言葉が、ずん、と胸に染みた夜だった。

photo by 三吉ツカサ
texr by 石井恵梨子

■【セットリスト】

1. サニーマスター
2. Buggie Technica
3. PLUS CHICKER
4. go ahead now!
5. XCT
6. A・D・S・R・M!
7. Poly-Farm
8. Hot Stuff
9. FOR YOUNG ELECTRIC POP
10. MAD MAC
11. ENO
12. Digital Coffee
13. Young OH! OH!
14. COMMODOLL
15. Code4
16. Tei! Tei! Tei!
17. 人生の灰
18. POLYSICS OR DIE!!!!
19. I My Me Mine
20. Moog is Love
21. Lucky Star
22. Rocket
23. カジャカジャグー
24. 発見動物探検隊
25. ピーチパイ・オン・ザ・ビーチ
26. How are you?
27. Let’s ダバダバ
28. ワチュワナドゥー
29. Dr Pepper!!!!!
30. 怪獣殿下 ~古代怪獣ゴモラ登場~
31. シーラカンス イズ アンドロイド
32. MEGA OVER DRIVE
33. Shout Aloud!
34. URGE ON!!

EN1. Tune Up!
EN2. Baby BIAS
EN3. Electric Surfin’ Go Go
EN4. SUN ELECTRIC
EN5. Buggie Technica

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