おれは書き出したら止まらない詩をめざし、
最初の一行に中古車のエンジンをとりつけた

想像できなかったことも歴史のうちなのだよ、
と、ガソリンスタンドのオヤジさんが言った

何の報いだったというのだろう
この詩は最初の一行が走り出してしまったら
髪を刈るひまも 一枚のレコードを裏返すひまも
精神科医の鑑定をうけるひまもなくなってしまうのだ

それは全速力でおどり狂う びっこのダンスマラソンだ
フレーズのペダルを前車輪から除き、
ペダル付属の小歯輪を鎖で心臓にむすびつける
それからおれは二、三人の親しかった者たちへ
おさらばの挨拶ぐらいは、しておこう

いましがた
おれは、おれの留守に
おれの部屋に入ってみた
カーテンのすきまから洩れて入ってくる すじの陽の光
文字でしかなかった詩の数々

ない過去を思い出すための詩
自分に宛てた、ペンフレンド募集のための詩
一分間に十行しか読めない詩
一行と次の一行までのあいだに雑草が生えてしまった詩
孤立し、内部世界へとじこもり、
駒鳥をいたわるだけにすぎない詩
洗面器一杯のヘドより軽い詩
出会いを待つための待合室におかれてある、
なぐさめの一輪ざしの詩
車輪のついていない詩
署名するだけの詩
書かなければ忘れられてしまうと思って、
オールドミスたちがさえずりまくる詩
七人の失業者の回覧板でしかない詩
国境をこえるとただの紙屑となってしまう詩

おれはレインコートの襟を立てて 広場の片隅
空っ風に吹かれながら 言葉の引き金をひく機会を待っている。
走りながら撃つために一行のエンジンは
すでに音を立てはじめている
おれはいままで十万ページ書き 書いた分だけ失った
頭髪を逆立て ブリキ缶を灰皿がわりに 猶予と装填
すでに理性の現実態として、管理し、支配する国家をさえ
抜けだし 詩は地下水のように 血の中をはしりまわる

書くのではない 撃つのだ
そこには ホーマーの大航海も ガルガンチュアの戦争もないだろう
比喩も文法も 歴史も 内面的集団化も
アルタミラの洞窟の 百行の啓示も
予言者ヨナの くじらの腹の大暗黒もないだろう
たたみ一畳よりも大きな書物の
最初の頁の 鋼鉄の蝶番のきしみも
シュペングラーの千匹のほたるの光さえもないだろう

書くために 撃つのだと 引き金にかけた両手にかかる
世界中の夜霧のあつさを越えて おれは大鳥を撃ち
みずからの幻想の飛行船を 空中に爆破する

ランボーも ヴェルレーヌも マヤコフスキーも
ロートレアモンも、ギンズバーグも、ロルカも
エリュアールも、アラゴンも、トリスタン・ツアラも
ブルトンも たかが書物でしかなかったのだ

この歴史の薄暮に
マッチ一本で燃やされてしまう書物でしかなかったのだ

書かれたときに、詩は失われてしまった

声に出して読まれたとき それは喜劇だった

言葉の引き金を引いたとき

すでにひとたちの胸の中で、
おれは撃たれて死んで しまっていたのだから

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