2017-07-31

全米1位の「フランケンシュタイン」を収録したエドガー・ウィンター・グループのデビュー作『ゼイ・オンリー・カム・アウト・アット・ナイト』

兄のジョニー・ウィンターがリリースした『Johnny Winter And Live』(‘71)に当時の僕たち中学生が痺れていた頃、弟のエドガー・ウィンターもアルバムを出していたが、当時の日本では兄のブルースフィールに満ちたスーパーギタリストぶりに人気が集中し、アメリカのルーツ音楽全般をミックスしたハイレベルのロックサウンドを追求していたエドガー・ウィンターはあまり人気がなかった。ところが、今回紹介する『ゼイ・オンリー・カム・アウト・アット・ナイト』(’72)に収録された「フランケンシュタイン」はインストでありながら全米1位を獲得し、普通のロックファンに大きな反響を呼ぶことになった。結局、本アルバムは全米3位まで上昇、エドガーの名は世界中に知られることになる。「フランケンシュタイン」以外の曲はイーグルスやドゥービーなどに代表されるウエストコーストロック・スタイルで、それまでのエドガーとは違う側面を見せてくれたのである。本作は名曲がたっぷり詰まったエドガー・ウィンターの代表作と言ってもいいだろう。

■才能あふれるウィンター兄弟

僕が中学生の頃は、ニューロックと呼ばれるインプロビゼーションを重視したロックに注目が集まっていて、中でもエリック・クラプトン、ジミー・ペイジ、ジェフ・ベックらのブリティッシュ・スーパーギタリストは大人気であった。アメリカのギタリストでは、マイク・ブルームフィールドやジョニー・ウィンターに代表されるブルースを基本としたロックギターが大いに受けていた。特にジョニー・ウィンターはブルースだけでなくロックンロールの定番を、超絶テクニックを披露しながらも分かりやすいフレージングで弾きまくるだけに、10代半ばのロックファンには大いに受けた。

テキサス州出身の彼ら兄弟は幼い頃からブルース、R&B、ゴスペル、ジャズ、カントリーなどに親しみ、10代前半からは様々なライヴ活動を一緒に行なっていたようで、特にジョニーのブルースギターは本物の黒人プレーヤーからも絶賛されるほどで、25歳の時に大手レコード会社のCBSと契約し、とにかくノリの良いエネルギッシュなギターワークで、大きな評価を得ることになる。

そして、弟のエドガーも兄のジョニーに負けず劣らずすごいアーティストだ。ジャズ、ブルース、R&B、ゴスペルなどの音楽に影響を受け、キーボードとサックスを自在に操る。ジョニーのアルバムにサポートミュージシャンとして参加することで認められ、70年にはソロアーティストとして『エントランス』でデビューするが、その音楽は兄のストレートさとは真逆で、芸術性の高さゆえに評論家受けは良かったものの、一般にはまったく理解されなかった。

ロック界の中で兄弟で活躍するアーティストはほんのひと握りであるが、ウィンター兄弟のレベルに匹敵するのは、他にデュアンとグレッグのオールマン兄弟ぐらいだと思う。ウィンター兄弟はどちらも歌がうまく、若かりしテキサスのインディーズ時代には黒人のヴォーカリストだと思われていたぐらい黒っぽいサウンドを売りにしていた。

■エドガー・ウィンター&ザ・ホワイト・トラッシュ

エドガーはソロデビュー作の音楽性が高尚すぎたことを反省し、兄ジョニー・ウィンターのストレートさを見習い、ノリの良いR&Bやゴスペルを演奏できるグループ、エドガー・ウィンターズ・ホワイト・トラッシュを結成する。このグループには優れたギタリストであるリック・デリンジャーを起用する。デリンジャーは兄ジョニーにも好かれ、ジョニー・ウィンター・アンドにも参加、巧みなギタープレイで、しばらく後にはソロアーティストやプロデューサーとしても大成功することになる。

ホワイト・トラッシュはホーンやゴスペル的なコーラスを取り入れるなど、ノリノリのロックンロールを聴かせるグループで、『エドガー・ウィンターズ・ホワイト・トラッシュ』(‘71)と2枚組ライヴ盤『ロードワーク』(’72)の2枚をリリース。個人的にはこのホワイト・トラッシュの2作品はロック史上に残る名盤だと思う。この2枚でエドガーは水を得た魚のようにやりたいことをやり、ツアーでは各地で熱狂的な支持を受けた。ライヴ盤ではリック・デリンジャーとゲストのジョニー・ウィンターがギターバトルを繰り広げているので、70sロックの醍醐味を知りたい人にはぜひ聴いてもらいたいアルバムだ。

さて、ホワイト・トラッシュが大きな評価を得たにもかかわらず、エドガーは同じところにとどまっている奴ではなく、デリンジャー以外はまったく違うメンツで、エドガー・ウィンター・グループという新グループを結成する。それが72年のことだ。

■本作『ゼイ・オンリー・カム・アウト・アット・ナイト』について

デビューソロでは知的なロックをホワイト・トラッシュでは汗臭いファンキーなロックを演奏し、多くの人が「エドガーって兄の七光りではないかも…」と思い始めていた頃にリリースされたのが、彼の新しい一面が詰まった本作『ゼイ・オンリー・カム・アウト・アット・ナイト』である。

当時、LPでの発売時はソロ作から通して4作目であるという理由から“エドガー・ウィンター・4”というタイトルでリリースされていたが、本作はエドガー・ウィンター・グループとしての初のアルバムだから、このタイトルの付け方は間違っている。まぁ、そんなことはどうでもいいが、アルバムの内容は文句なしに素晴らしい。ジャケット写真はグラムロッカーのような出で立ちのエドガーだが、内容は8割がたウエストコーストロックっぽいアメリカンロックである。

メンバーは5人。エドガーの他、リック・デリンジャー、後にボン・ジョヴィやヴァン・ヘイレンらに影響を与えることになるモントローズを率いたギタリストのロニー・モントローズ、ドラムのチャック・ラフ、ベーシストでソングライターのダン・ハートマンである。エドガーはダン・ハートマンのソフトなソングライティングを気に入っていたようで、本作では半分がハートマンとの共作となっている。ハートマンはのちにディスコヒットも出すことになるが、カントリーっぽいメロディーを書かせるととても上手いソングライターだと思う。

収録曲は全部で10曲、アルバムの最後に収められた「フランケンシュタイン」(全米1位獲得)はインストで、この曲だけが他の曲とは違うプログレのテイストで浮いてしまっている。制作者側もそれは分かっていたから最後に収録したのだと思うが、これはこれでエドガーの一面であることは確かだ。というか、こちらのほうがエドガーらしい音楽だと言えるかもしれない。なんにせよ、エドガーのシンセソロとロニー・モントローズのギターソロは絶品だ。当時はまだ存在すらしていない最初期のフュージョン音楽ではないだろうか。

■地道に活動するロックの職人

本作で世界的な知名度を得たエドガーであるが、人気に便乗してリスナーに媚びることもなく、現在に至るまで頑固なロック職人というスタンスで活動を続けている。僕はそんな彼をミュージシャンとして最高レベルでリスペクトしている。今ではエドガー・ウィンターを知る人のほうが少ないとは思うが、君がロック好きなら彼の作品を一度は聴いてみてほしい。きっと新しい発見があると思うよ♪

TEXT:河崎直人

アルバム『They Only Come Out at Night』

1972年作品



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