2017-09-07

“ロックの王様”へと覚醒した真心ブラザーズが魂を解放した名盤中の名盤『KING OF ROCK』

真心ブラザーズ 15thアルバム『FLOW ON THE CLOUD』が9月13日にリリースされる。読者のみなさんは真心ブラザーズにどんなイメージをお持ちだろうか? 今も高校野球の応援曲としてブラスバンド部で演奏されることが多い「どか〜ん」? ♪モルツ、モルツ、モルツ、モルツ♪で知られるサントリーモルツのCM曲「モルツのテーマ」? あるいは、山下智久が歌った「SUMMER NUDE '13」の原曲「サマーヌード」? はい、そのくらいのイメージしかない貴方。そんな方は、今回紹介する『KING OF ROCK』は必聴ですよ。

■グツグツに沸騰した“何か”がある

「9月に真心ブラザーズ(以下、真心)の新作が出るので、その時期の邦楽名盤に真心を入れましょう」と担当編集者から連絡があったのは7月のことだったか。正直に告白すると、筆者自身、1stアルバム『ねじれの位置』と、倉持陽一(現:YO-KING)のソロ1st『倉持の魂』とはわりとよく聴いた記憶はあるが、それ以後はきちんと真心ブラザーズを聴いたことがなかったのもあって、「やっぱ、「どか〜ん」が入っている『ねじれの位置』か、「サマーヌード」の入っているヤツですかね?」と、今思えば不誠実にもほどがある不遜な応答。すると、ほとんど「あんた、寝ぼけてるんですか?」と言わんばかりの勢いで、「真心の名盤を挙げるなら『KING OF ROCK』しかないです! 一度、ちゃんと聴いてください!」とピシャリ。対面していたら掴みかかられたのではなかろうか。電話で良かった。「そんなら聴いてみますか」というわけで、真心の5thアルバム『KING OF ROCK』の音源を入手。…確かに。詳しくはこれから解説するが、一聴して彼らのターニングポイントとなった作品であることは分かったし、しっかりと真心を聴いてきた人が本作を推すのも理解できた。また、担当編集者氏が掴みかからんばかりの勢いで、熱く語ったことも分かった。そこも十分に理解できた。うつる人には確実にうつる──このアルバムにはその類の何かがあり、それはグツグツに沸騰しているのであった。

そもそも、アルバムタイトルの“KING OF ROCK”からしてすごい。冷静に考えると、“ロックの王様”なんて題名、なかなか付けられるものではない。内容が伴わなければ、ロックミュージシャンの名折れ、なんてもんじゃ済まない。大きなお世話ながらそう思ってしまうほどの豪快なタイトルだ。しかし、結論から言えば、本作はまったくそんなことはない。その音を聴けばそう豪語するのは分からなくもないし、いい意味で“言ったもの勝ち”と言ったらいいか、そこに乗った歌詞からは当時の真心(というか概ね倉持陽一)のタフな精神状態がうかがえて、このタイトルを付けたことにも納得させられる。

■振り切ったロックサウンド

まず、音の面から『KING OF ROCK』を見ていこう。オープニングはアルバムに先駆けてシングルリリースされたM1「スピード」だ。ヘヴィかつブルージーなギターサウンドで幕を開け、ハードファンクに展開。音色は60年代ロックを意識していることが、The Beatles「Drive My Car」の《Beep beep'm beep beep yeah》を口ずさんでいることでも分かる。印象的なギターリフが全体をけん引。サビがキャッチーなのはそれまでの真心にも見られたことだが、圧しの強いサウンドに当時のリスナーは驚いたに違いない。あとで収録曲のほとんどが一発録りであることを知ったが、この「スピード」の冒頭部分であったり、途中で若干ギターがだれる様子は明らかに一発録りならではの臨場感がある。ちなみに「スピード」のシングル盤では、カップリングでRCサクセション「気持ちE」をカバーしているというから、『KING OF ROCK』がド頭からロックに振り切っているのは確信犯的だったと言える。

M2「高い空」を挟んで登場するM3「愛」もハードファンク。これもどこか振り切ったようなテンションで、ブラスも入りソウルフルに仕上げているし、全体的に大分派手なでウンドが聴ける。ボブ・ディランのカバーで、2011年に“真心ブラザーズ+奥田民生”名義でセルフカバーしたM4「マイ・バック・ページ」は素直なフォークロック。桜井秀俊が手掛けたM5「上手な眠り方」はアコギ中心のバンドサウンドだが、サイケっぽい音作りを加味しているのは流石に『KING OF ROCK』の雰囲気だ。M6「すぐやれ 今やれ」では『スパイ大作戦』的な(『Mission: Impossible』ではなく、あくまでも『スパイ大作戦』と言ったほうがしっくりとくる)ワイルドなギターリフが聴ける。グルービーなナンバーM7「マイ・リズム」はシャウトが多用されて、どことなく“忌野清志郎ミーツLed Zeppelin”な印象だ。ヒップホップ的なM8「マイ・ガール」、カントリー調のM9「忠告」に続く、M10「今しかない 後がない」も桜井秀俊作詞作曲のナンバーだが、これもモロにサイケデリックなサウンドで、The Beatles『Revolver』を彷彿させる外音がロックファンをニヤリとさせること請け合い。M11「STONE」は本作でもっとも強烈だ。歌詞は後述するが、Led Zeppelinばりのハードロックが徐々にテンションが高まり、ハードコアパンク的ブラストで《チ●ポから石が出た》を連呼するさまは完全にイッちゃってて実に素晴らしい。M12「日曜日」はレゲエで馬鹿明るくも辛気臭くもなく、日本的な叙情性があって、それでいてしっかりポップという絶妙なバランス感覚がとてもいい。フィナーレはM13「スピード2」。M1「スピード」のバージョン違いで、円環構造で締め括られるというのも、若干「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band (Reprise)」や「Sgt. Pepper Inner Groove」みたいな感じで、古のロック名盤へのオマージュを感じるところだ。

ザッとその音を振り返ってみたが、サウンドは容赦なくロックであることが分かる。真心はもともとバラエティー番組内の一コーナー“勝抜きフォーク合戦”から出て来た2人組だし、それゆえにか初期はフォークデュオ的な楽曲も少なくなかったから、そのイメージを強く持っていたリスナーはまず『KING OF ROCK』の音に驚いただろう。また、そのフォークデュオ的なスタイルの中にも見え隠れするロックな匂いを感じ取っていたリスナーは、“真心、覚醒”、あるいは“真心、解放”といった印象を強くしたかもしれない。

■フリーダムな表現で躊躇のない歌詞

歌詞は圧倒的に覚醒感、解放感が全開である。いや、ほぼそれだけだ。まず、前述のM11「STONE」が凄まじい。

《俺のチ●ポから石が出た 小便に混じって三つ出た/腹の強烈な痛みで目が覚めた/すさまじい激痛 とにかく痛い痛い痛い》《腹が痛くないって こんなに気持ちいいものか/生きてるって素晴らしい 街がきれい 人間っていいなぁ/どこも痛くないって こんなに幸せなんだね/全身に力がみなぎる テレビでも見よう/またひとつ俺は大いなる進化をとげた》《神様っているんだね 幽霊とUFOもいるに違いない/神様ってきっといるよ 幽霊とUFOもいるよ/俺は体の中で石を作る男》。

これは尿管結石になった倉持がその時のことについて歌っている内容だという。尿管結石のことを綴った歌詞は後にも先にも、おそらく「STONE」だけだろう。前代未聞である。だが、その内容自体にはあまり意味はないだろう。大事なのは、この上なくフリーダムな表現と、それをすることに何ら躊躇が感じられないところだと思う。《またひとつ俺は大いなる進化をとげた》のだから《神様っているんだね 幽霊とUFOもいるに違いない》と結論付けているが、そこに明確な根拠はない。元よりロジックも破たんしている。でも、そこがいい。その根拠が自分自身の中にしかない感じこそがロックなのである。少なくとも倉持はそう言っているかのように聴こえる。

《うだうだ考えてるとスピードが落ちる アイルトン・セナ オレのスピードは落ちていないか/じめじめ雨が降ると雪崩が起きる オレに正しい天気予報を教えろ》《オレのスピードはグングン速くなる ボーッとするお前の人生の10倍/ぼちぼち起きて何かをやれよ でも死ぬまでオレには追いつけっこない》(M1「スピード」)。
《愛が血管を流れてゆくよ/愛が君に届きますように/愛 愛 愛 愛 愛をやるよ/手にとってポケットにしまっておけよ》《ある朝夢から覚めた俺は/体に愛がみなぎっていた/どんな夢かは覚えていない/ただ魂が命を喜ぶ/死んでいく生命たちに/捧げる言葉は見当たらない/別れにひと言呼びかける/愛を忘れずに持って行けよ》(M3「愛」)。
《命は短い だからあれもこれも/すぐやれ今やれ オラすぐやれ今やれ/オラすぐやれ今やれ オラすぐやれ今やれ》《27年2ヶ月の時間を 取り戻すくらい心を開き/カール・ルイスでフルマラソン ズンズンガンガン楽して行くぜ》(M6「すぐやれ 今やれ」)。
《自惚れるくらいの自信を持つのは 楽しいじゃんいいじゃんそれで/だから友よ心通う友達よ 自惚れる位の自信を持とう》《僕の忠告を 君は無視した/僕の忠告を 君は無視した/だからさ 君は鬱に入った 君は鬱に入った》《楽しい事をしよう もっと もっと もっと もっと》(M9「忠告」)。

ブレーキを踏まないばかりか、アクセルを緩めることすらせず、どこまでも加速していく感じ。ここまで潔くも力強いと無条件に喝采を贈りたくなるほどで、“KING OF ROCK”と名乗りたくなる気持ちも理解できるし、むしろその名に相応しいと思うくらいだ。
※『KING OF ROCK』には歌詞カードがないため、上記の歌詞は正確ではないことを悪しからずご了承ください。

■しなやかさこそ、真心の真価か

さて、実はここから=『KING OF ROCK』以後が本当の真心の凄さではないかと思うので、話は若干『KING OF ROCK』から離れるが、もう少しお付き合いいだだきたい。前述の通り、本作で自らを“ロックの王様”と名乗った真心。次作『GREAT ADVENTURE』でもその姿勢は貫かれたようである。「アーカイビズム」「super no brain ultra」では相変わらずハードなアプローチを見せているし、「新しい夜明け」ではソウルミュージック要素を強め、名曲との呼び声高き「拝啓、ジョン・レノン」で倉持は自らのルーツのひとつを最大のリスペクトを込めて描き切った。ここまで来ると、やりたいことを貫くだけというか、(言葉は悪いが)好き勝手にやっていくだけだろうと、今になっても思うほどで、少なくともマーケティングやマーチャンダイジングとはまったく無縁のアーティストだろうと思う。

だが、彼らはそんなに単純ではなかった。後に真心最大のシングルヒットとなる「ENDLESS SUMMER NUDE」につながる、シングル「サマーヌード」をアルバム『KING OF ROCK』発売直後にリリースしている。これは日清食品の夏季限定商品“サマーヌードル”のCM曲として起用されているが、既存曲ではなく、CMの依頼があってから作り上げたものであり、しかもその依頼は「2週間以内に完成させてください」というものだったらしい。「タイアップなんか関係ねぇ!」という態度ではなく、外部からのオーダーもしっかり遂行し、しかもそれを大衆に届けたわけで、そのしなやかさには驚かされる。このキャパシティーの広さこそが真心の真価であり、脱帽させられるところではある。

TEXT:帆苅智之

アルバム『KING OF ROCK』

1995年発表作品



<収録曲>
1.スピード
2.高い空
3.愛
4.マイ・バック・ページ
5.上手な眠り方
6.すぐやれ 今やれ
7.マイ・リズム
8.マイ・ガール
9.忠告
10.今しかない 後がない
11. STONE
12.日曜日
13.スピード2



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