2017-10-31

インスタ映え<フォトジェニックなアーティスト5選

「咲いた花なら散らねばならぬ恨むまいぞえ小夜嵐」というのは「佐渡おけさ」にも出てくる都々逸ですが、最近は“この一瞬を永遠(データの残る限り)に留めて置きたい”という愛惜ではなく、バズりそうな事象を記録する傾向が高いらしいです。しかしですね! 同じ画像や動画でも「この夜はとても楽しかったんだよ」と過去を追体験できるものと「これめっちゃ“いいね”されたんだよ」と数字を懐古するものと、明白な違いはあるわけで! どうせスマホがバキバキになるリスクを背負ってでも撮影するなら、嫌なことは何もかも忘れて没入できるような音楽への恍惚感や昂りも一緒に封じ込めてほしいのです! 所詮フォロワーは買えるしFacebookの“いいね”は催促できるし、たとえ火傷覚悟で炎上狙ってもアイドルの「おはよー☆」には勝てないので!

■1. 「デスコ」(’12)/女王蜂

新体制になって久しいというのにこの曲をピックアップするのもどうかと思ったのですが、キャパ100人程度のハコでCD–Rを売っていた頃からその瞬発力は別格だったなぁと省みると、どうしても避けるわけにはいかず。長すぎる手足を持て余すことなく機敏に操っては止め、美しい視線で最後列や隙なく覆い尽くすアヴちゃんのキャパシティー、不敵な笑みを浮かべながら飄々と毎回異なるアレンジをパフォーマンスする演奏隊にいつも震えたものです。横ノリのダンスミュージックに縦ノリのラウドロックを容赦なくぶち込んだキラーチューンは、ジャンルやカテゴリーを大掴みしながらもふわっと不時着させるのではなく、自身の血肉を通わせて我が物にしてしまう女王蜂の鮮烈なセンスを、まざまざと見せつけます。


■2. 「ミッドサマー・イブ」(’16) /涼風真世

宝塚トップスター時代は変幻自在の七色の声と、観客全員の眉間を撃ち抜くかのごとき強靭な歌唱力で“歌の妖精”と称された涼風真世様。松任谷由実が作曲を手がけた「ミッドサマー・イブ」は、愛らしい相貌と男役ならではの凛々しさが共生した比類なきキャラクターを存分に発揮した代表作のひとつ、『Puck』の劇中歌です。現役時代は主人公・パックの溌剌とした少年めいた無垢さと片思いの萌芽の切なさを、オーケストラにも負けないほどの気迫で表現していましたが、アルバム『Fairy』に収録されているバージョンは、アコギ1本のシンプルなアレンジによる二重奏。退団して20年以上経ってなお、“円熟味”と有り体の文言で飾るのをためらうほどの風通しのいい清々しさと、衰え知らずのみずみずしさが堪能できます。

■3. 「キャノンボール・フロア」 (’17)/caino

『ナカイの窓』にも登場した“沖縄のスカート”cainoの高良豊の体格がスカートの澤部渡とかぶるというのはさておいて、重厚感と野趣あふれるビジュアルとは打って変わって、俗世を断ち切るハイトーンヴォイスと、ゼロ年代のポストロックやエモの系譜を匂わせるポップネス、シティポップの汽水域まではみ出しつつも孤高を貫く野放図なユーモアがなんともキュートなステージが素晴らしいのですが、前述の通り沖縄在住なので、なかなかライヴを観る機会がないのが惜しい。「キャノンボール・フロア」なんて、ビキビキのギターのカッティングから扇情的なリズム隊の波間にダイブして、不意打ちのような懐かしいスキャットに紛れて、日常を見失いそうになるペシミズムを抱いたままミラーボールの下で躍り狂うのに打って付けのディスコチューンなのに!


■4. 「ライカ」(’14)/HOMMヨ

『昭和元禄落語心中』の雲田はるこ先生がTシャツやフライヤーのデザインを手がけるHOMMヨ(オム)。女性のみの3ピースバンドですが、クールなビジュアルはパティ・スミスのようであり、幽玄的な存在感はボビー・ギレスビーのようであり、ガレージパンクの骨にニューウェイブやグランジで肉付けした楽曲はノスタルジーをかき立てつつも、“どこにもなくてどこへでも行ける”音楽のみで“ガールズバンド”の規格を淡々と打ち壊しては拡張する潔さが最高。この「ライカ」は、スプートニク2号に乗船して宇宙に飛び立った犬のライカをテーマに据えた楽曲です。2拍子のパーカッシブなギターと、静謐に燃立つ青い炎のようなしなやかで削ぎ落とされた歌声が描くふたつの孤独の交差を掬い上げるリズム隊の光の粒子のようなスケール感には、いつも心臓を押し潰されそうになります。


■5. 「酒呑童子」(’15) /オワリズム弁慶

“皆殺しディスコ集団”オワリズム弁慶のメンバーは流動的で、ライヴに出演するのは大体20〜30人、さらに美術スタッフや撮影班もいて、最新作『七転∞万起』の参加人数に至っては150人だそうです。そんなにミュージシャンが集まればプログレとジャズとファンクとヒップホップをごった煮した楽曲が生まれるのも必然というもので、もっと言えば地鳴りのごとき低音が脈打つトライバルなダンスミュージックをこれでもかと連射される上に和装のダンサーがライヴハウスで所狭しで踊り狂えばこっちの足も落ち着かなくなるというもので、加えて《今宵はこのまま夢を見たい まだ まだ 踊り足りない》なんてパンチラインを繰り出されたら完全に歌と体が同期して理性の箍も吹っ飛ぶというものです。現在ツアー中なのでお目にかかる機会もふんだんにありますが、踊り子さんはお触り禁止なので気をつけろ!






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