2013-10-21
【忘れらんねえよ】この盤に全部詰め込んだから、今、歌いたいことは何もない!!
「この高鳴りをなんと呼ぶ」で大きな注目を集めた、忘れらんねえよが2ndアルバム『空を見上げても空しかねえよ』で鳴らすのは、圧倒的な“今”。今作完成に至る経緯、作品に込めた想いを柴田隆浩(Vo&Gu)に訊く。
──1stアルバム『忘れらんねえよ』から1年半。まず、前作以降を振り返ってというところから聞かせてください。
「今振り返ると、1stを作り上げた頃は音楽のこと、ロックシーンのこと、あとはお客さんのことも今以上に分かっていなくて。僕は1stがもっと世に出てってイメージしてたんだけど、全然そんなこともないし。そのあと、フェスや対バンに出陣しても、全然勝てなかったんですよね。音楽って勝ち負けじゃないけど、そこで悔しい思いもして。“俺たちだけが持ってる武器ってなんだろう?”と考えたり、トライ&エラーでいろいろ学びながらライヴしているうちに、だんだん勝てるようになってきて。お客さんが求めてるものもなんとなく分かるようになってきたんです。」
──1stの頃は自分に一生懸命で周りが見えてなかった?
「見えてなかった! だから、歌詞もそういう表現になっていて、1stでは自分のことばっかり歌ってるんです。でも、それだけじゃ突破できないことを現場で感じたし、自分のことだけ言うのも飽きちゃって。ライヴで19歳の小太りな男の子が、汗だくで涙流しながら絶叫してる姿を見た時、“自分のことより、こいつを喜ばせる歌が作りたい”と思ったんです。そこで表現が自然とシフトしていった感じでしたね。」
──今作は“キミ”という明確な対象に向けて歌ってるよね。
「そう! だから、ライヴの勝ち負けの基準も変わってきて。以前はダイブやモッシュが起きなきゃダメだとか、訳の分からないことを考えてたんですけど。本当は19歳の小太りがひとり、涙流して絶叫してたら、それだけで大勝利なんですよ! だから、レコーディングも1stの時はリズムとかピッチとか、うまく聴こえることを考えてたんですけど、今回は“ピッチはズレてるけど、すごいグッとくるよね”ってテイクを選んだり。より音楽的にもなったと思います。」
──そんな意識の変化がある中、「この高鳴りをなんと呼ぶ」では、さっそく大きな反響があって。たった1曲でバンドを取り巻く状況が大きく変わるという経験もありました。
「曲ができた時はあまりピンときてなくて、こんなに反響があるとは思わなかったですけどね(笑)。今考えると、あの曲が僕らを引っ張ってくれたのには、ちゃんと理由があることも感じていますね。でも、それを踏まえて作った「僕らパンクロックで生きていくんだ」は想像したほどの結果ではなかったりして。世の中、そんなに単純じゃないんだなっていうのも学べて。そこで冷静に世の中と向かい合えた上で、アルバムを制作できたからすごく良かったと思います。今作はシングルの集合体みたいなアルバムにしたいと思っていたし、今のバンドの健康状態だったらできると思ったし。」
──心身ともに万全の状態でアルバム制作に挑めた、と。
「うん。そこでやっぱり、善くも悪くも設計図通りにはいかないのも面白くて、今回は設計図の130パーセントくらいのものができた気がするんです。リード曲的存在の「バンドワゴン」なんて、ボツ曲でしたからね(笑)。最初イマイチだったのに、オケを録ったら“あれ? 超ヤバいじゃん!?”ってなって。歌詞が書き上がったら、“これ、アルバム背負える曲でしょう!!”って。「夜間飛行」は最初から曲があったんだけど歌詞が書けなくて、出来上がったのは一番最後で。歌録り当日まで歌詞がなくて、“ここで書け!”ってコントロールルームに閉じ込められて(笑)、ひたすら爆音でオケを聴いてたら、“みんなに受け入れられる歌詞じゃなきゃいけない”みたいな余計な思考が抜けてきて、風景が見えてきたんです。それが19歳の小太りが汗だくで泣いてる姿だったり、夜の星空をギューンと飛んでいく風景だったりして。あとは、その世界を表現してくれる言葉を探していく作業でした。」
──ずっと答えを探し求めていたら、《正解は胸の中にあって ずっと僕らを待ってた》と。そこで全部出し切って待っていたのが、《夢のようなこの世界》だったと。まさに歌詞の通りじゃないですか!
「本当だ! 今、気付いた!! 最初は、“僕がMステに出たら”とか、みんなが好きそうな、話題になりそうな歌詞を当てようとしてたんですよ。あざといんですよ、俺(笑)。危なかった、最初の歌詞にしなくて良かった!」
──ダハハハ! そういう思考も経て、もう空っぽだと思っていた心の奥の奥からドロッと出てきた歌詞が、希望にあふれるものだったというのがすごくいいですね。
「いや、そうですね。それは気付かなかったなぁ、すごい嬉しいです。頭を捻りに捻って、もう出ないっていう時に出た言葉が“夢の世界”って、ロマンチックですよね!」
──「アワナビーゼー」には、《この空と比べたら 僕の悩みはちっぽけ/なんて思ってたまるかボケ》なんて歌詞もありますが。“空を見上げても空しかねえよ”というアルバムタイトルはすごく厳しくて、すごくやさしい言葉だと思います。
「結局は“自分と向き合え”っていう、単純なことだと思うんですよね。自分の言ってることが絶対正義だとは思わないけど、今はそう言いたかったんです。今回はもう、包み隠さず言っちゃってて、“クソ野郎”とか“ボケ”とか言うのも危険だと思うんですけど、リスク覚悟で思ってることを大声で言うのがロックンロールだと思うし。みんなが普段の生活で我慢していることを、俺らが言わないと誰が言うんだ!と思って、覚悟を決めて言い切ったんです。間違ってるかもしれないけど、大声で言わないと届かないんですよ。だからもうね、出し切りました! 本当に空っぽ。この盤に全部詰め込んだから、今、歌いたいことは何もない!!(笑) ここからはアルバムを引っ提げて、世の中を旅していきます。お客さんが出してくれるCDの代金とか、聴いてくれる時に使う時間とか、絶っっ対に裏切らないものができたから! そこは信用してもらって、ぜひ手に取ってもらいたいですね。」
取材:フジジュン
(OKMusic)
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