2017-07-10
素性の分からない目玉集団、ザ・レジデンツがリリースした奇天烈なデビュー作『ミート・ザ・レジデンツ』
今月(2017年7月)からザ・レジデンツのドキュメンタリー映画『めだまろん/ザ・レジデンツ・ムービー』が東京・大阪・名古屋で公開されることになった。まさか、まさか…レジデンツのドキュメンタリーが日本でロードショー公開されるとは夢にも思わなかったので、今回はそれを記念してザ・レジデンツの衝撃のデビュー作となる『ミート・ザ・レジデンツ』を紹介する。
■正体の分からない覆面音楽集団第1号
今でこそダフトパンクがいるから不思議でないかもしれないが、彼らは単に顔を隠しているだけで、正体が分からないということはない。その点、ザ・レジデンツは正真正銘の“謎”の集団である。彼らはデビューしてすでに40年以上になるが、少なくとも21世紀になるまではメンバーの名前や編成などについて、一切明らかにしていなかった。
もちろん、今回のドキュメンタリー『めだまろん/ザ・レジデンツ・ムービー』でも、ザ・レジデンツ自身はいつもの目玉系の頭部にタキシード姿で登場するぐらい(僕自身まだ観ていないので断言は避けるが…)であろうと思う。そもそも、彼らは85年と今年3月の2回、来日してはいるが、観客はある種の怖いもの見たさというか、見世物感覚でライヴに臨むのではないか…そう思ってしまうぐらい、彼らの産み出す作品は一般のポピュラー音楽とはかけ離れている。
■現代音楽とフリージャズ
僕が彼らの音楽を初めて聴いたのは80年代に入ってからである。パンクやAORが終焉を迎え、シンセポップ1色になってしまったことで、人力演奏が大好きだった僕にとって、打ち込み中心の音楽が増えてしまってからはロックへの興味が薄れつつあった。しかし、そのおかげでジャズ、カントリー、ブルースといった人力演奏ベースの音楽を聴いたり、現代音楽系のミニマル音楽にも接近できたことは良かったと思う。この時に僕はザ・レジデンツの一連の作品に出会うことができたのだが、彼らの音楽がパンクロックよりも過激だという印象を持った。
ポピュラー音楽と絵画を一緒くたにするのは間違いだが、他に説明するのが難しいので、あえて使わせてもらうと、例えば、ルノアール、モネ、ゴッホなどの具象絵画がポップスやロックだとするなら、キリコ、前衛時代のピカソ、クレー、エルンスト、マグリットらはフリージャズであり現代音楽のようなものだと思う。そして、ザ・レジデンツもまた、これら前衛絵画のようなテイストを持っており、凶暴かつ静謐で、牧歌的かつ未来的な破壊力に魅せられることになるのだ。
■自主制作でのリリース
彼らの音楽は商業的ではないので、普通のレコード会社が契約するわけもなく、72年に自分たちのレーベルであるラルフ・レコードを設立、ここから数十枚にもおよぶさまざまな前衛作品を生み出していく。グループ名の“レジデンツ”とは“居住者”という意味だが、このグループ名が生まれたきっかけは次の通りである。ある時、彼らはアルバム1枚分の録音(タイトルは“ワーナー・ブラザーズ・アルバム”だったらしい…)を、キャプテン・ビーフハートの『トラウト・マスク・レプリカ』(以前、このコーナーで取り上げたので興味のある人はどうぞ)のプロデューサーに送った。そのプロデューサーはまったく興味を示さず、テープを送り返そうとしたが、送られてきた封筒に名前が書かれておらず、仕方なしに“その住所の住人へ”という意味で宛名に“ザ・レジデンツ”と書いたそうである。そして、彼らはそれをグループ名としたという。出来すぎた話だが、本当のような気もする…。
■ザ・レジデンツの芸術
彼らはロックスピリッツを持ってはいるがロックグループではない。ロック的な感覚を持った前衛芸術集団であると思う。テープレコーダーを中心に声や音の出る道具を駆使して音楽作品こそ作ってはいるが、映画制作やビデオ作品も並行して生み出している。もちろん、商業的に成功するような作品はないが、世間に媚びない作品を常に制作し続けることで、徐々に世界的に認知されるようになっていく。
彼らのアルバムで分かりやすいものを紹介すると、2作目の『ザ・サード・ライヒンロール』では有名なロッククラシックスを解体し、再構築せずに放ったらかしにしたようなサウンドが聴ける。5作目か6作目の『ダック・スタブ、バスター&グレン』(‘78)はテクノポップの元祖といっても言いすぎではないし、『エスキモー』(’79)はジャケットで彼らのトレードマークとなる目玉&タキシードが初めて登場する記念すべきアルバムだ。音の面では架空のエスキモー音楽で極寒を演出しているような不思議なテイストだ。『ザ・コマーシャル・アルバム』(’80)は1分の曲が40個収録され、無国籍風のシンセポップが聴けるのだが、ところどころにエセ民族音楽的サウンドが垣間見えるのは、彼らの音楽的特徴のひとつである。
■本作『ミート・ザ・レジデンツ』について
このアルバムが発表されたことでロック史が塗り替えられたというか、何かが変わったと思う。見てもらえば分かると思うが、この悪意あるジャケットのインパクトは今でもすごい。ビートルズはすでに解散しており、伝説の…というより、もっと神がかった存在になっていただけに、これは明らかにビートルズだけにとどまらず、ロックという音楽への冒涜であった。ただ、ジャケットと中身(すなわち音楽)はまったく関係がなく、宅録感が満載だ。それでも、安物臭さは微塵もなく、アメリカ音楽史に残る秀作だと僕は思う。音楽的にはフランク・ザッパやキャプテン・ビーフハート、そして現代音楽やフリージャズの影響がはっきり感じられ、不協和音やノイズがふんだんに使われた音作りで、知的な芸術性が漂っている。具体的にどこが良いかと聞かれたら説明するのは難しいが、個人的には何十年にもわたって聴き続けていることは確かである。
■ザ・レジデンツに時代は追いついたか
80年代、LPに変わってCDが登場したとき、ザ・レジデンツはCD-ROMによる映像作品をいち早く制作、その先進的な試みに世界的な注目が集まり、その影響で85年の初来日公演が実現したのかなと思うが、彼らの芸術が認められたというよりは、彼らの最先端テクノロジー処理能力が喝采を浴びたのだから皮肉なものである。しかし、彼らの芸術家グループとしてのクリエイティビティーは本物で、ウォーホルやバロウズらに代表される多くのキャッチーな前衛芸術がそうであるように、時代が彼らの芸術に追いつくまでは、色物として扱われてしまうだろう。しかし、彼らはそんな些細なことには決してめげず、これからもずっと反商業的で刺激的な作品を生み出し続けてくれるだろう。メロディーが美しいとか、歌詞に説得力があるとか、そんなことだけが音楽の楽しみではないことを知るだけでも、レジデンツを聴く意味はあると思うので、この機会にぜひザ・レジデンツの音楽を楽しんでみてください♪
TEXT:河崎直人
アルバム『Meet the Residents』
1974年作品
『めだまろん/ザ・レジデンツ・ムービー』上映予定
東京:シアター・イメージフォーラム 7月1日〜
大阪:シネ・リーブル梅田 7月8日〜
愛知:名古屋シネマテーク 7月22日〜
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The Residentsまとめ
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