2017-12-21

安全地帯の出世作『安全地帯II』にバンドの矜持と時代の変遷を見る

勘のいい読者ならずともお気付きかもしれないが、当コラムは“結成○周年”や“デビュー○周年”といったバンドの代表作を取り上げることが多く、今年もさまざまな周年アーティストを紹介してきた。それならば、この人たちのことを忘れちゃいけない。ご紹介が遅れて申し訳ない。今年5月に初のオールタイム・ベストアルバム『ALL TIME BEST』をリリース。11月にオリジナルアルバム全14タイトルの再発。そして、11月23日と24日に日本武道館2デイズ公演、さらに12月9日には香港公演を成功させた安全地帯である。1stシングル「萠黄色のスナップ」のリリースが1982年だから、今年デビュー35周年。玉置浩二(Vo&Gu)のソロを含めてヒット曲の多い大御所バンドなので、改めて彼らのことを述べるのも何か憚られる感じではあるが、今回は1984年に発表された出世作と言える2ndアルバム『安全地帯II』を紹介しつつ、そのバンドの特徴を語っていこうと思う。

■シングル集のようだが、 それだけではない

アルバム『安全地帯II』は、最大のヒット曲である4thシングルM1「ワインレッドの心」から幕を開け、アルバムの先行シングルだったと言える5thのM2「真夜中すぎの恋」に続き、そこから1曲挟んでのちに6thとしてカットされたM4「マスカレード」、さらにもう1曲挟んで5thのカップリングM6「…ふたり…」と流れていく、パッと見はさながら初期シングル集のような作りだ。とにかく頭から「ワインレッドの心」「真夜中すぎの恋」なので、ぼんやりとしかバンドのイメージを持ってないリスナーでも“これぞ安全地帯”と感じるに十分な作品と言える。しかし、今回、改めて聴いたところ──というか、正直に白状するとアルバムとしてちゃんと聴いたのはこれが初めてだったのだが──なかなか興味深い側面も垣間見れるアルバムである。レコードとはよく言ったもので、当時のバンドの状態、状況をうまい具合に記録していると思う。

■玉置浩二の圧倒的な存在感

安全地帯を語る上で本当に改めて言うことではないが、でもそこを無視してはこのバンドを説明できないもの──それは玉置浩二のヴォーカル、その圧倒的な存在感である。まずそこから語ろう。ここを読んでいる方の中によもや氏の歌を聴いたことがないという人はいないだろうが、もしいるとするなら、こんな駄文を読むのはすぐに止めてYouTubeとかでいいので玉置浩二の歌声を聴いたほうがいい。百聞は一見に如かずではないが、どんなに美辞麗句を並び立てても、その形容が氏の歌の素晴らしさを上回ることはないと思う。徳永英明やコブクロの黒田俊介が“日本一歌が上手い”、スキマスイッチの大橋卓弥が“最も尊敬するヴォーカリスト”と評しているというし、EXILEのATSUSHIがその歌唱力に圧倒されて玉置の自宅マンションに訪問して歌唱指導を受けたという逸話もある。当代随一のヴォーカリストたちがリスペクトの念を惜しまない姿勢からも氏のすごさが分かろうというものだ。その情感たっぷりに歌い上げるスタイルは「恋の予感」「悲しみにさよなら」「碧い瞳のエリス」「夏の終りのハーモニー」(※井上陽水・安全地帯名義)、「じれったい」と楽曲を発表する毎に、より迫力を増していった印象はあるが、もちろんそのヴォーカリゼーションは本作でも十分に堪能できる。

■部屋に籠って創り上げた 「ワインレッドの心」

メロディーラインも氏の歌声の艶っぽさを最大限に引き出していると思う。作曲は玉置浩二本人なのだからそれは当然だろうと思われるかもしれないが、1stアルバム『安全地帯I Remember to Remember』や2ndシングル「オン・マイ・ウェイ」、3rd「ラスベガス・タイフーン」と聴き比べると、明らかに『安全地帯II』においてはこのバンド独特のウエットさが増していることが分かる。アマチュア時代から業界内で注目を集めていたものの、デビューからしばらくの間、セールスは芳しくなかったという安全地帯。のちに「ワインレッドの心」となった4thシングルは当初、スタッフから井上陽水作曲でどうかと打診されたそうである。スタッフにしてみれば状況を立て直さんとする策だったのだろうが、玉置氏はこれを断って、1週間部屋に籠ってメロディーを創り上げたという。そこに井上陽水が手掛けた歌詞を乗せて「ワインレッドの心」となるわけだが、玉置氏は陽水氏の歌詞にもダメ出しをして楽曲を完成させたというから、その臨み方が半端じゃなかったことは間違いない。背水の陣を感じていたのかどうかは定かではないが、明らかにそれまでとは向き合い方は違ったのだろう。だからこそ、のちにつながる安全地帯のオリジナリティーが発揮されたのだろうし、それが巷にも浸透していったのではなかろうか。

と、ここまでは一般的に…と言おうか、しっかりと音源を聴かずとも語れるくらいの安全地帯の特徴だが、前述の通り、アルバム『安全地帯II』に収められているのはそれだけではない。ロックバンドとしての矜持、時代性、もっと言えばそれらを含めて過渡期ならではバンドの姿がパッケージされている。玉置氏のヴォーカルとメロディーが印象が強い、つまり歌が突出している感は否めないので、どうしてもそこがフィーチャーされるが、安全地帯はバンドである。デビュー後はその直後にドラマーのメンバーチェンジ、そして1994年に一度、武沢豊(Gu)が脱退したことがあるものの、玉置浩二、矢萩渉(Gu)、武沢豊、六土開正(Ba)、田中裕二(Dr)の5人での安全地帯だ。このメンバーでこそのバンドサウンドであり、それがあっての歌でもあろう。『安全地帯II』に限ったことではないだろうが、アルバムを聴けば彼らがバンドであることは明らかである。

■多彩かつ奔放なギターサウンド

特にギターの多彩さは特筆すべきだろう。アマチュア時代に培ったと思われるハードロックやアメリカンロック、ソウル、ファンク。80年代ならではと言えるアーバンかつUKっぽい音使い。ニューウェイブな雰囲気もあれば、オールドスクールなロックに対する確かなオマージュもある。ある意味、ごちゃ混ぜである。M2「真夜中すぎの恋」やM8「つり下がったハート」の間奏、M5「あなたに」のアウトロで聴かせるギターはハードロック的だし、M7「真夏のマリア」やM10「La-La-La」でのカッティングはソウル、ファンクだ。M3「眠れない隣人」や、それこそM10「La-La-La」にはRoxy Musicっぽい印象もあるし、UKっぽさ、ニューウェイブさは随所にある。しかも、そういった音楽要素が楽曲毎ではなく、1曲に注入されている点が面白い。具体例として再びシングルチューンを挙げるが、M1「ワインレッドの心」にもM2「真夜中すぎの恋」にもそれはある。「ワインレッドの心」は、イントロは印象的な単音弾きから始まるがAメロ、サビでは浮遊感のあるギターが全体を支配し、それでいてアウトロではスパニッシュを聴かせる。また、「真夜中すぎの恋」ではアップテンポで骨太なリズムに繊細なギターという、のちのビジュアル系にも通じるイントロで始まり、BメロではUltravox的な乾いたノイジーなカッティングを聴かせつつ、それでいて前述の通り、間奏にはハードロック的なアプローチを持って来ている。こうして文章化するとかなり奔放な、それこそミクスチャーのような印象を持たれるかもしれないが、ご存知の通り、ともにそれほど突飛な楽曲ではない。そこも面白い。こういうことができるのはバンドのポテンシャルが高く、プロデュース能力が確かな証拠ではあろうが、ここに収められているサウンドは、アマチュア時代~1stアルバムはハードロック的な要素の強かったと言われる安全地帯が80年代に出した音として考えると、さらに味わい深く感じられるのではないかと思う。

■“6人目のメンバー”松井五郎の端緒

サウンドが過渡期のものであった一方、歌詞においては、ここからが万人がイメージする安全地帯が始まったといってよい。「ワインレッドの心」の歌詞を井上陽水が手掛けたことは先に述べたが(続く「真夜中すぎの恋」も井上陽水作詞)、それ以外は全て作詞家の松井五郎氏が書いている。松井五郎氏は長きにわたって安全地帯の作詞を担当し、“6人目の安全地帯メンバー”とも言われたが、その端緒が開かれたのが『安全地帯II』である。
《哀しそうな言葉に/酔って泣いているより/ワインをあけたら》《今以上、それ以上、愛されるのに/あなたはその透き通った瞳のままで/あの消えそうに 燃えそうなワインレッドの/心を持つあなたの願いが かなうのに》(M1「ワインレッドの心」)。
《誘われて うなづくまでの間/そのあとで 星座の見えるベランダへ/銀のピアスならはずれてる/夜につれられてゆくなら今》《サヨナラが聞こえてきたら泣いてね/ため息は こわれた胸のささやき/どんなドレスでもかまわない/夜にはおられてゆくなら今》(M2「真夜中すぎの恋」)。
「ワインレッドの心」は玉置氏からダメ出しされて書き直したとはいうものの、やはり陽水作品には、凡人に描けないこと間違いなしの世界観が天才的な言葉遣いで綴られているが──。
《あなたは嘘つきな薔薇/いま心なくしたまま/枯れてしまいたいのなら/その胸をあずけて》《あなたは嘘つきな薔薇/身を守る棘ももたず/ためいきの理由をかくし/まだゆれ続くだろう》(M4「マスカレード」)。
《裸足のままジルバ/凍てつくつまさき/微笑みかけすぐに/心かくして/たそがれてる あなたを/燃えるように 悲しませてあげたい》《夢みながらワルツ/めまいを愛して/やさしすぎるそぶり/みむきもしない/たそがれてる あなたを/燃えるように 悲しませてあげたい》(M9「ダンサー」)。
松井作品では陽水作品にあった妖艶さはそのままに、職業作家ならではの巧みさ、いい意味でのプロフェッショナルな仕事っぷりで、安全地帯楽曲の奥行きを広げていったと言える。前述したサウンド面と相まって、リスナーに“安全地帯=大人なロック”という認識が早くから浸透したのは歌詞によるところが大きかったのではなかろうか。

また、話は少し安全地帯から離れるが、松井氏は安全地帯以外にもニューミュージック系、ロック系のアーティストにも歌詞を提供しており、BOØWYや氷室京介、吉川晃司の作品を手掛けている。BOØWYでは「Dreamin'」(布袋寅泰と共作)、氷室京介は「KISS ME」や「VIRGIN BEAT」、そして吉川晃司では「KISSに撃たれて眠りたい」(吉川晃司との共作)がその代表的な曲だが、それを頭において『安全地帯II』収録の以下の歌詞をご覧になっていただきたい。
《マリア ほほえみが胸をさす こともある/そっと投げられた イミテーションは/NO!! と言うのさ》《愛した男の数だけは/泣きだす女があらわれる/あなたの噂を気にしたら/心がかわいてたまらない》(M7「真夏のマリア」)。
まぁ、安全地帯らしくないこともない歌詞ではあるが、《マリア》や《イミテーション》や《NO!! と言うのさ》なんてフレーズはどこか上記のバンド、アーティストにも通じる匂いがなくはない(個人の感想です)。しかも、「真夏のマリア」のサウンドはニューウェイブっぽく、ギターも跳ねているので、ほんと一時期のBOØWYのようである(あくまでも個人の感想です)。まぁ、これをして、本作がBOØWYの原型だとか、安全地帯がのちのビートロックやバンドブームの元祖とか言うつもりはさらっさらないが、邦楽ロックシーンの流れというか、歴史のそこはかとない連鎖のようなものを感じて、その意味でも『安全地帯II』は過渡期を感じさせる作品である(何度も言いますが、個人の感想です)。

TEXT:帆苅智之

アルバム『安全地帯II』

1984年発表作品



<収録曲>
1.ワインレッドの心
2.真夜中すぎの恋
3.眠れない隣人
4.マスカレード
5.あなたに
6.…ふたり…
7.真夏のマリア
8.つり下がったハート
9.ダンサー
10.La-La-La




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