2018-02-08
ANTHEM〜パワーメタル戒厳令〜は関東HR/HMをけん引し日本において“NWOBHM”を提示したANTHEM、入魂の一作

1カ月にわたってお送りしてきた日本の1980年代HR/HMシリーズ。いつも以上に独断でお届けしてきたわけだが、今回で一旦、中締め。またいつか機会があれば、ニーズがなくとも再会するのでご容赦あれ。今回は関東シーンの雄、ANTHEMのデビュー作を紹介する。
関西に負けない革新性と独自性を貫き、のちの音楽シーンにも影響を与えたそのサウンドをスピリッツを分析してみよう。
■神楽坂から生まれた関東HR/HM
日本においてHR/HMが定着した1980年代。その火付け役は間違いなく関西の音楽シーンであった。LOUDNESSの前身であるLAZYが大阪の出身であるし、先月の当コラムで紹介したEARTHSHAKER、44MAGNUM、NOVELAは全て関西のシーンから現れたバンドだ。メンバーも概ね大阪生まれだった。この辺はもともと関西のシーンを彩っていたブルースロックが下地となり、それが派生していったから…という見方もできるだろうし、関西(というか大阪)ならではの派手好きが転じたものだという人もいる。いずれにせよ、ある時まで日本のHR/HMは完全に西高東低だったと言えるが、当時とて関西以外のバンドたちも決して手をこまねいていたわけではない。東京のSABBRABELLS、札幌のFLATBACKER、名古屋のSNIPERといったバンドたちがそれぞれ独自のカラーを発揮し、自己主張を始めていた。
1984年にリリースされた、伝説のオムニバスアルバム『HEAVY METAL FORCE Vol.1』にその発露を垣間見ることができる。本作はライヴハウス、ロックハウスEXPLOSION(現:神楽坂 TRASH-UP!!)が自らのレーベルを立ち上げ、当時、東京で活動していたバンドたちの音源を集めた、言わば東京のHR/HMの威信を全国に問うた作品。東京・六本木のS-KENスタジオでギグを行なっていたバンドたちが結集した『東京ロッカーズ』というオムニバスライヴ盤が1979年に出ているが、ジャンルこそ異なるものの、『HEAVY METAL FORCE Vol.1』もそれと同様のスピリッツを持っていたのだろう。2000枚限定で、10ミリメートルを超える分厚い木製ボックス入り、ステッカーや缶バッジも特典に付いていたというから、当時のスタッフの並々ならぬ意気込みを感じられる作品だが、その音源のオープニングを飾っているのがANTHEMである。
■関西と同時時期に関東を盛り上げる
ANTHEMは1981年、リーダーである柴田直人(Ba)が中心となって結成された。ファンならばよくご存知かと思うが、ANTHEMはメンバーチェンジの激しいバンドで、結成から2年後の1983年にギタリストが福田洋也(Gu)へと変わり、その翌年にはヴォーカリストが脱退。1985年に坂本英三(Vo)が加入し、同年、坂本、福田、柴田、そして大内“MAD”貴雅(Dr)という4人でメジャーデビューを果たしている。デビューがEARTHSHAKER、44MAGNUMより若干遅めで(ともに1983年デビュー)、この辺にも西高東低が関係しているのかと思ったら、どうもそういうことだけではないらしい。
1984年、EARTHSHAKER、44MAGNUM、そしてMARINOという関西HR/HM勢が新宿LOFTでライヴをやった、その名も“関西なぐり込みギグ”なるイベントがあった。ANTHEMはそこに参加し、その共演をきっかけに44MAGNUMやMARINOのツアーサポートを務めることになったという。さらには、前述の『HEAVY METAL FORCE Vol.1』発表後、デビューの打診があり、EARTHSHAKERの石原慎一郎がアドバイザーになって、デモテープを作成し始めていたというのだ。そこで前任ヴォーカリストが脱退。オーディションで坂本に後任が決まるまで半年間、活動休止を余儀なくされたというから、デビューアルバム『ANTHEM~パワーメタル戒厳令』は1984年7月のリリースだが、メンバーチェンジがなかったらMARINOと同時期のデビューでもおかしくなかったであろう。つまり、ANTHEMは関西勢と同時期に日本のHR/HMシーンをけん引したバンドと言っていいのだと思う。
■日本の“NWOBHM”を代表するバンド
さて、そのデビューアルバム『ANTHEM~パワーメタル戒厳令』。ひと言で言えば、とても勢いにあふれたアルバムであると思う。M3「LAY DOWN」やM8「BLIND CITY」といったミディアムもあるにはあるが、基本的には堅めのギターリフがグイグイと楽曲を引っ張るナンバーがほとんどで、M4「RACIN'ROCK」やM9「STAR FORMATION」といったシャッフルが典型だが、リズムはやや前のめりなほど突っ込み気味である。それがとてもスリリングで、本作がデビュー作であることを考えると、メジャーシーンに立ち向かう彼らの意気込みを体感させられるようでもある(M4とM9がミディアムといっても、このアルバム収録曲内で比較してミディアムということであって、他のバンドなら十分に速い部類に入るかもしれない)。
しかも──マイナー…というと語弊があるかもしれないが、歌もギターも解放感100パーセントという感じではなく、どこか密室的というか、内向的な旋律である。また、ギターソロが長い。いや、単に長いということでなく、ちゃんとドラマチックで、よくある歌の添え物といった感じではなく、ギターがしっかりと主役を張っている印象だ。M1「WILD ANTHEM」のソロが分かりやすいと思うが、ギターソロパートが2ブロックに分かれて展開する。ポップスに慣れた耳では“まだ続くの?”といったふうに聴いてしまうかもしれないが、概ねそんな感じなので、ここにもバンドの矜持であり、意地を見ることができる。とにかく攻撃的というか、アグレッシブさが漲っているのだが、この辺は彼らが1970年代後半の“NWOBHM(=New Wave Of British Heavy Metal)”の影響を受けたことも関係しているのだと思われる。このムーブメントを標榜したバンドたちへのオマージュを感じさせるサウンドもさることながら、文字通り、新しいブリティッシュヘヴィメタルを目指したと言われる“NWOBHM”と同ベクトルの精神性で、ANTHEMは日本のシーンに立ち向かった。その魂が音源に込められたのだろう。
■歌詞に宿る様式美にとらわれない魂
それは収録曲の歌詞にも表れているように思う。この時期の日本のHR/HMには、サウンドは文句なしにいいのだが、歌詞に閉口させられるものも決して少なくない。“Sex,Drug and Rock'n'Roll”はロックの基本で、様式美としてアリっちゃアリだし、それを無下に否定はしないが、“それにしても、もうちょっとどうにかならなかったのか…”と思わせられるものも少なくない。だが、『ANTHEM~パワーメタル戒厳令』は少し趣が異なる。そこに名買うな意思があると思えるのだ。
《GET OUT! もう聞きあきたぜ お前の声/JUST NOW! うごめいてる 頭の中/すべてを打ち砕くのさ夢からさめた BLACK JACK》(M5「WARNING ACTION!」)。
《昴(たか)ぶる気持ちをおさえては何もできやしないぜ/体中かけめぐる熱い物が欲しいのさ/何かがはじまるぜ空を見上げろ/今こそ立ち上がれ足を踏みならせ》
《STEELER BREAKER すべてを変えてしまうぜ/限界はないのさそいつをブチ破れ/STEELER BREAKER 拳をふりかざせ/すべて 手に入れたら GET AWAY》(M10「STEELER」)。
ここでも前のめりなくらいに、ブレイクスルーを欲する姿勢が綴られている。それが即ち、シーン云々ではなかろうが、冒頭で述べた同時の西高東低の勢力図であったり、そもそもまだHR/HMが日本では一般的ではなかった状況だったりを考えると、やや深読みしてしまうこともご理解いただきたい。まぁ、実際にはその読みは的外れかもしれないが、アルバムのオープニングを飾る、自らのバンド名を冠したM1「WILD ANTHEM」にて下記のようなフレーズをサビに持ってきている点に、ANTHEMが様式美にとらわれたバンドではないことの証左がある気はする。
《WILD ANTHEM 吹きあれる嵐のように/果てしない最後の叫び/OH WILD ANTHEM/PLEASE GIVE ME ACTION》。
彼らの決意が感じられると訴えだと思う。
■神楽坂から全国へ、世界へ
何よりも何度もメンバーチェンジを繰り返しつつ、ここまでバンドを継続していることにもANTHEMの心意気は感じられる。後年、柴田はバンドに新しい化学変化を起こすためにメンバーチェンジは必要であるとの趣旨の発言をしている。1992年に1度解散し、2001年に再結成しているものの、結成から37年、デビューから33年を経たバンドである。その年月だけで考えたら、仮に初期のナンバーだけを繰り返すノスタルジックなバンドになったとしても、往年のファンは非難はしないであろう。歌謡曲にはそういう人たちがたくさんいる。だが、ANTHEMは決してバンドの現状に満足することなく、未だ成長を止めないのである。その姿勢は本当に素晴らしいと思う。
また、これは直接ANTHEMのことではないが、ANTHEMを始めとする関東ヘヴィメタル勢の熱を受け止めて、冒頭で紹介したオムニバス盤『HEAVY METAL FORCE Vol.1』シリーズを世に出したロックハウスEXPLOSION(現:神楽坂 TRASH-UP!!)の尽力と、このライヴハウスが後世に及ぼした影響について触れて、拙文を締め括りたい。『HEAVY METAL FORCE』はその後シリーズ化され、『III』にはX(現:X JAPAN)、Saber Tigerが参加したことは好事家たちの間では有名な話。『Vol.1』もそうだが、『III』も中古市場で高値で取引されている。
そうした関東HR/HM押しが効いたのか、無名だった頃のGLAYが定小屋にしていたのも、これもまたファンの間では有名な話だろうし、最近では(というほど最近でもないが)ゴールデンボンバーが出演していたことでも知られていると思う。現在の神楽坂 TRASH-UP!!も一風変わったV系バンドやアイドルが出演することが多いそうだが、35年前の関東でもHR/HMは間違いなくメインストリームのそれではなかったはずで、そうした傍からは変わり者と見えた者たちの流れが連綿と続いて、それが今や国内はもちろんのこと、世界を席巻するに至っているのは痛快ですらある。これもまた素晴らしい。
TEXT:帆苅智之
アルバム『ANTHEM〜パワーメタル戒厳令〜』
1985年発表作品
<収録曲>
1.WILD ANTHEM
2.RED LIGHT FEVER
3.LAY DOWN
4.RACIN'ROCK
5.WARNING ACTION!
6.TURN BACK TO THE NIGHT
7.ROCK'N'ROLL STARS
8.BLIND CITY
9.STAR FORMATION
10.STEELER
【関連リンク】
『ANTHEM〜パワーメタル戒厳令〜』は関東HR/HMをけん引し、日本において“NWOBHM”を提示したANTHEM、入魂の一作
Anthemまとめ
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