2013-04-22
【LOVE PSYCHEDELICO】目の前に広がる日常こそが美しい
3年3カ月振りとなるニューアルバム『IN THIS BEAUTIFUL WORLD』が完成した。世界的なパーカッション奏者のレニー・カストロも参加した本作は、震災を受けての思いやここ数年の経験が生きたフレッシュな仕上がりとなった。
──久々のアルバムですが、間が空いてしまったという感覚はそこまでないですか?
KUMI「その間にシングルのリリースもライヴもあったし、自分たちのペースで気持ち良くやれてますね。」
NAOKI「スタジオにもずっと入ってたしね。そんな中での震災は、やっぱり大きな出来事でしたけど。」
──それは楽曲にも表われてますもんね。
NAOKI「今回のアルバムは震災直後に作った「It's You」「Beautiful World」からスタートしてるんです。あの当時って、誰もがいろいろ悩んだと思うんですけど、最終的にはみんな自分の仕事にもう1回意味を見出していきましたよね。僕らの場合はそれが音楽だった。とはいえ、直接的なメッセージを発信するのは僕ららしくないかなと。僕らじゃなくて、聴いてくれた人が主役になれる音楽。聴くとちょっと心が強くなれたり、前向きになれたりする…そういう音楽のあり方を目指すようになったのはありますね。」
KUMI「「Beautiful World」はかなり苦労したけどね。言葉が自分の中でまとまらなかった。でも、映画『任侠ヘルパー』のタイアップのお話をいただいて、また曲と向き合ってみた時に、このカオスな状態でいいって思えたんです。カオスをカオスのまま表現するからこそ見えてくる真実というか。うまく言葉にはなってないかもだけど、確信はちゃんとあるから、そこを感じてほしいですね。」
──今の日常とリンクして聴こえるアルバムだと思います。
NAOKI「タイトルに“I N THIS”とあるのも、まさに日常を意識したものだから。“WORLD”って言葉にすると壮大だけど、理想郷みたいな話ではないんです。制作も日常の中での閃きを大事にしつつ、常に5、6曲を並走する感じでやってましたね。ドラムとベース、アコギを録っておいて、他の曲に手を付けてることが多かった。で、アイデアが浮かんできたらまたやってみるっていう。これまではアレンジの手順や終着点のビジョンが全て見えてから作ってたので新鮮でした。」
──今作は従来からの持ち味と、この数年で得た経験とがうまくマッチしてますよね。
KUMI「前アルバムの『ABBOT KINNEY』で私たちのルーツを見直すことができたから、今回は音楽や楽曲とよりフラットに向き合えたと思います。」
NAOKI「前作を録る時はナーバスなところもあったんですよ。ちゃんと求める音になってるかが気になってたし。」
KUMI「その前のアルバム『GOLDEN GRAPEFRUIT』も音への探求がテーマにあったんです。自分たちのスタジオを持ったのもあったし、ここ5、6年はそんな感じだったよね?」
NAOKI「憧れの音を手に入れるミッションだよね。この数年は大きかった。フラットに作れたのは、ある程度のノウハウが手に入ったからですね。鳴らしたい音に対してのセッティングの仕方もだいたい分かってきて、それが短時間でできるようになったとか。」
──フレッシュな気分のせいか、ファンキーな曲、ポジティブなものも多いですよね。
KUMI「狙ったわけではないんだけど、作ってる途中に明るい曲が多いなって思ってた(笑)。」
NAOKI「取り立てて新しい楽器や手法は使ってはいないんですよ。でも、「No Reason」ならイントロのリフとか、ギターのブラッシングとエレクトリックピアノの組み合わせとか、ちょっとしたスパイスを入れることで今っぽいサウンドにできるなって。そうした試みを要所要所で楽しんでやれたのも良かったです。」
──「Good Days Ahead」もすごく好きです。
KUMI「ちょっぴりシニカルだけど、楽しんで書いてます。あの曲のベーシックはセッションで録っちゃったんだよね。エンジニアの山田(信正)さんがドラム、NAOKIがベース、私がアコギで。」
NAOKI「そうそう。ペダルスティールやバンジョー、ピアノとかは後から重ねていったんです。」
KUMI「で、歌はラップっぽく乗っけてみました。こういうユーモアもアルバムには欲しいなって。」
NAOKI「ボブ・ディランみたいなフォーキーさのあるものになると思ってたら、想像以上に陽気な曲に仕上がったのも面白くて(笑)。」
──全曲で言えることですけど、楽器のバランスや音の重ね方が独特だなって思いました。NAOKIさんがギターソロをほとんど弾かないのも関係してるかもですが。
KUMI「パーカッションはかなりたくさん入ってますね。最近では、ストリングスもそんなに録らない人のほうが多いのかな?」
NAOKI「大変なんだと思うよー。みんなシンセサイザーにしちゃうからね。確かに、こういうアルバムってあまりないのかも。ギターに関しては、パーソナルを出すよりも匿名性を大事にしたいんですよ。“やっぱりNAOKIのギターだよね”ってことよりも、単純に“あの曲のイントロがカッコ良い”って言ってもらえればいい。そのほうが曲のグルーブを崩さずに聴き手のイマジネーションを広げてくれるような気がするから。」
──最後の「Bye Bye Shadow」についても聞かせてください。
KUMI「実はアルバムを意識して作った唯一の曲なんです。今回はキャッチーな曲がたくさん揃ってて良かったんだけど、起伏が激しいというか、終わりに相応しい曲がないことに途中で気付いて。シンプルにいい歌メロと素朴さがあって、平常心に戻れるようなものが欲しかったんだよね。」
NAOKI「日常や人生をフラットに捉えた曲で締めたかったというか、1曲目に戻れる感じもあるし。」
KUMI「悲しみも喜びも体験するのが人生だし、いろんなことがあるからこそ楽しいし、美しいんだと思う。そういうことを淡々と歌った曲ですね。」
──アルバムのリリース後は久々の全国ツアーもありますね。
KUMI「レニーと一緒に回れるのが一番の楽しみですね。今までの曲もアレンジを変えてやることになるから、全然違った印象で聴かせられるんじゃないかな。」
NAOKI「過去作を含めていろんな曲をやりたい。『ABBOT KINNEY』もレニーと何曲か録ったのに、ライヴではまだ 一緒にやれてないから楽しみです。」
取材:田山雄士
(OKMusic)
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