2012-07-20
【高橋 優】誰もが主役になれる可能性がある
夏休み公開映画『桐島、部活やめるってよ』の主題歌として書き下ろした作品。高校生という特殊社会の心の揺れを捉え、世代を超え共感を得られる作品に仕上げた高橋 優の、心の揺れを訊いてみた。
──初の映画主題歌ということですが、内容以前に聞きたいのが、“この歌い方は、なぜ?”ってことなんだけど。荒々しいというか、我鳴るまではないけど…これが曲を仕上げる上で導き出した答えのひとつなのかな? 意識的にでしょ?
意識的ですね。この曲は、そもそも歌ってる内容が特殊なことではなく当たり前のことで“明けぬ夜はない”“止まない雨はない”とか、誰でもが知ってる当然のことなので、だからこそ、あえてそういうことを必死になって歌ってみたいと思ったんですよね。
──聴いた瞬間に“えっ”と思って。撮影現場にも行ったと聞いたけど、書くにあたって触発されたことって、なんだったのかな?
僕が撮影現場に行った時は、後半戦のクライマックスのシーンでした。で、原作も読んで、吉田大八監督とも話しをした上で、自分の中でテーマになってきたのは、“誰もが主役になれる可能性がある”というコトだったんです。今ダメって言われてる人も、いつスポットライトが当たるか分からないよって。そういう価値観の話からすると、自分自身が今の環境で丸くなりたくない、落ち着きたくないっていうのがあったのかもしれない。まだまだ自分のことを知らない人たちに、高橋 優、こんな歌を歌ってます、歌おうとしてますって、改めてゼロから始める気持ちでしたね。
──なるほどね。学校って、同じ世代だけで構成される特殊な社会だと思うけど、気持ちの中で自分とシンクロする部分は多々あったわけでしょ?
全体的にリアルに表現されてたので、すごく共感できましたね。当時の自分には音楽があったので、先生に怒られてもギター弾いて、曲作って歌ってたり…そういう意味では、しがみつくものはあったと思う。ただ、集団で動くっていうのが好きじゃなかったのもあって、“ちぇ~っ”みたいな感じで、裏でぶつぶつ言ってる奴の気持ちっていうのは、すごい分かる(笑)。でも、どっかで長いものに巻かれたいというか、あのグループに属してれば問題ないみたいな気持ちも分かるんですよね。その辺の人間模様には、共感を持ちながら観てましたね。あの感じっていうのはいつの時代も変わらないんだなって(笑)。クラスの中でどうこう、小さな社会の中で派閥を作って生きていかなきゃいけないとか、しがらみをかいくぐっていくとか、自分というものの存在証明っていうテーマは、この映画に関わる前から自分の中で常々考えてることだったので、この世界観にはスッと入り込めましたね。
──書き上げたことで、何かしら気持ちの整理ができたような部分ってあるの?
整理とか気持ちが落ち着いた部分とかはないですね、ただ、視点が変わってきたことには気付いてます。主観的に“こう思う!”ってことだけではなく、“セクハラ先生にも明日はあるんだぜ”みたいな視点になってきたのが、自分が大人になってるのか、曲を書く上で自然にそうなったのか…。でも、そこに余裕はないです。整理されてなくて、必死になって歌ってる状態だと思います。“そういう視点だけじゃないぞ! こっちにも、そっちにも視点はあるぞ”って。それこそ、我鳴ってるというか(笑)
──ムリに主観を押さえてるってことではないよね。
じゃないですね。逆に今、主観を改めて歌いたいですもん。自分勝手な歌というか、完全に自分目線で偏った歌というのは、絶対に自分は歌わなきゃいけないと思ってるし、歌いたい。ただ、主観を歌うには勇気が必要だと、今は思ってます。語弊があるし、誰かが傷付いたとしても恐れないで言わなきゃいけないし…って。知らないで書いてる分には純粋でいいけど、知った上でそれを意図してやるっていうのは、意味合いが変わってくると思うんですよね。策略や、わざとらしくなっちゃいけないし、“私が傷付いてもいいと思って書いたのね?”って言われたら、“はい”って言わなきゃいけない。“そのつもりで書きました”みたいな、それは勇気がいることだなって思うし、すごくしんどい。
──確かに、しんどいだろうし、勇気が必要なことだと思うね。さて、カップリングの「旅路の途中」なんですが、求めている本当の成功ではないにしても、なにかしらの満足は手に入れてモノを見てるような雰囲気があったのね。これ何かのために書いた曲だったりするのかな?
友達のために書いてます。水泳でオリンピックに出る入江陵介くん、彼に宛てて応援歌を書いてみたんですよね。
──そうなんだ。このサビのフレーズ、《途中の今も2度とは来ないから》が気になるね。
たぶん、自分が今見つけた“成功”に似てる部分っていうのは、そこだと思います。何が起こるか分からない日々の中で、何年後かは絶対に成功するって言いながら、今を不幸せと言うのは、あまりにもったいないし、“向かってる”今のほうが価値があるんじゃないかって。何も手に入れてなくても、その途中で出逢った友達や仲間、そういう巡り合わせの一個一個が宝物だって、価値を感じるようになったのが最近なんですよね。
──やっぱり、何かしらの“満足”があるから、そういうふうな見方ができるんだろうね。
前は、成功しないと全部失敗、1等賞以外は全部一緒みたいな価値観で生きてた気がするんです。でも、そうじゃないなって感じてて…。1等賞よりも価値のある1等があるって変な話ですけど、1等を獲っても記録に満足しない人もいれば、6等でも自己ベストを更新して満足できるアスリートもいる。もし明日死んでしまうとしたら、どちらが幸せなんだろう?って。個人の満足の話をしていったら、大成功まで到達してなくっても、日々に喜びとか幸せを一個でも多く感じてる人のほうが、なんか幸せな気がするんですよね。そういったものが、日常の中にあふれてるんだってことは感じてます。
──そうですか。今後も素敵な曲を期待してます。
取材:石岡未央
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