2012-03-20

高橋 優 - “自分の声”“自分の主張”“自分の想い”

 コンスタントなリリースと2度のツアー。“ハチャメチャでした”と語るほどに、活動の幅広く過密なスケジュールを重ねた昨年。そんな中、衰え知らずの制作意欲を詰め込んだ作品が届いた。今あるべき姿、『この声』。


【初めて聴く人はビックリするかもしれない】

──さて、11カ月振りのアルバムとなるわけだけど、意識的にアルバム作りに入った時期というのは、いつ頃なの?

「1stアルバム『リアルタイム・シンガーソングライター』ができた直後に強く思ったのが、“もっと向かいたい! アルバムというひとつの作品を作りたい!”という感覚だったんです。だから、直後のシングル『誰がために鐘は鳴る』の制作段階では、すでにアルバムに向かってるっていう意識でいましたね。」

──すごい忙しかったと思うけど、スランプ的なものもなく書けたのかな?

「も~ハチャメチャでしたね、去年は。だから、スランプに陥る時間もなかった。とにかく何でもいいから曲作りはする!っていうことはしていたので、苦しかったんですけど、苦ではないというか…変な日本語ですけど(笑)、それが救いにもなってたかな。生みの苦しみはあるけど、やってて楽しいというか、そこが自分の軸になってるような生活をしてましたね。スリルもだけど、やり甲斐みたいなものも感じてました。」

──なんか、肩の力が抜けて懐が深くなったような作品に感じたけど、良いアルバムを作るための“良い”と思う部分に対しての考えっていうのは…

「より自分がしっかり出てるアルバムにしたいっていうことですね。街で流れていて、“何だろう、この曲?”って思えるかどうかもひとつの大きなテーマとしてあったけど。でも、それと同じくらい大事なのが、タイトルにもある通り“自分の声”“自分の主張”“自分の想い”、そういうものをしっかり出せてるかってことでしたね。あと、バンドサウンドを楽しみたいっていうのは強くありました。」

──そのバンド感はオープニングの「序曲」から表れてるね。このインストというか、イントロを付けたのは?

「聴き始めのテンションってすごく大切だと思っていて、そのアルバム全部のイントロにもなるし、当然、1曲目のイントロにもなるって思ったら、もっと印象的にしたいなって。でも、辿ってるメロディーラインは『蛍』なんですよね。『蛍』はツアーの後にできた曲なんで、やっぱりライヴでやる感覚をかなり意識して作りましたね。」

──ライヴのオープニング、SE的なワクワク感あるよね。そして、「蛍」の導入部に刻まれるアコギと、変則のドラムパターンと…前半3曲グッとくるね。インディーズ時代のアルバム『僕らの平成ロックンロール』の高橋 優、その時の衝撃が蘇ったよ。

「うれしいですね。でも、初めて聴く人はビックリするかもしれないですね。最近のシングルで知ってくれた方々には、改めての自己紹介になりますね。“自分、実はこうです”って(笑)。やっぱり、“こっちの自分”というのは出したかった。歌詞の世界観で言うと、怒りだったり、疑い…なんとなく斜めから物を見ている自分を、いなくなってないって、制作しながらすごく感じたんですよね。」

──「雑踏の片隅で」は、その世界観を特に感じるね。歌詞の“パパ大丈夫?”って、シチュエーション的にもかなりドキドキする。サウンドも、より洗練された哀愁というか、ちょっと怖い感じもした。これを書くにあたっては、何がきっかけだったの?

「ありきたりのよく観る景色を曲にしたいってところからですね。電車の中、街の中、テレビのニュース、何でもいいけど、ハプニングのワンシーンだけを偏った目線で切り取ると、被害者は誰で加害者は誰だって白黒ハッキリ付けて、はい終了!みたいなことがあるけど、そうじゃない切り口にしたかった。誰も悪くないし、誰が正義とかって、そういう話じゃないことに。で、極論を言うところから始めてみようと思って、例えば…この街の人たちがみんな仲良しだったら、ヒーローだったら、こうはならないだろう。でも、逆にみんなが悪意を持ってるってわけでもない。その中間地点、白でも黒でもないところを歌いたいなって思った。」

──グレーゾーンに切り込んで、問題定義するのは得意分野とも言えるよね(笑)。

「作った時に、久しぶりにこういうのが出てきたなって思いましたね。自分の中で大事にしたいポジションなんですよね。チームで例えるなら、ミッドフィルダーみたいな存在(笑)」

──いちファンとしても外してほしくない存在だね(笑)。全体的に、シングル以外の曲は言葉遣いが若干悪くなってたりするよね。それが良い意味でポップというか軽快で、ライヴ感覚で受け取れたりもするけど。

「そうですね。『蓋』とか『気ままラブソング』とかは、1stアルバムでは出せなかった表情なんですよね。前は、言い方もすごく気を遣っていたし、わりと偏っていて真面目だったと思うんです。でも、シリアスな話をしつつも“そういう話はもう止めようぜ”っていう自分もやっぱりいるんですよね。それをこのアルバムで多く表現できた気がしてます。新しい自分であり、改めて自己紹介するんなら、そのキャラもいるなって。おちゃらけていたり、ただブラブラ歩くんでもいいんじゃないかってね。」


【間違っててもいいから自分の思う音にしたい】

──編曲のクレジット欄に“高橋 優”というのが目立つ気がするんだけど、以前から楽曲の仕上げに関しての意見は言っていたでしょ?

「それは、“高橋 優”と書かざるを得ないぐらい、自分の考えでやらせてもらえたからなんです。意識が変わってきてて、そうしなきゃいけないって気持ちが強いんですよね。『雑踏の片隅で』『蛍』とかは、ほんとにゼロから始まって、随時、僕が指示を出すというのをやらせてもらったんです。今までは、全ての運転を浅田信一さんに任せてたんですけど、今回はハンドルとアクセルは自分がやらせてもらった感じですね。でも、必ず助け舟は浅田さんが出してくれる。音のバランスだったり、行きすぎてるものは、しっかりブレーキを踏んでくれてましたね。全て任せて、思いと違う音になったら自分の作品として自信を持てなくなってしまうという恐怖があって、だとしたら音楽的に間違っててもいいから自分の思う音にしたい。」

──逆に逃げられなくなるよね?

「そう。だからこそ、自分の作品ってモノにこだわりにこだわり抜くっていう意識が、作るごとに強くなってるんです。」

──タイトルチューンの「この声」以外は、アルバムのために書いたのかな?

「ほとんどが、去年書いたものですね。最後の『セピア』だけは10年前からあって、ず~っと歌詞も何も変わらないまま歌い続けてきた大事な曲です。」

──その「セピア」を、このアルバムのエンディングにしたのはなぜなの?

「まず、詩の世界感というのがありますね。さよならするんだけど、この絆はきっとまだ続いてる…心にいつもキミがいるって思う、ある種の別れの曲で寂しい感じもあるんだけど、十川知司さんのストリングスアレンジを聴かせてもらった時、どういう内容であれ、この曲が最後だったら締まるんじゃないかなって見えたんですよね。アルバムの終わり方はイメージとしてあって、祭りの後の余韻というか、さびしさというか…行き切って終わるというよりは、行き切ったんだけど、まだ先に何かありそうだねってことにしたかったので、結果として『絶頂は今』っていうお祭りみたいな歌の後に『セピア』を置くことで、最後に相応しく締まったなって思います。どちらかと言うと『この声』の位置のほうがすごい迷ったんですよね。どこにしようって…」

──かなり意外なところに置いたなって思った。だけど、歌詞が気持ちの流れを上手くつないでいて、良い着地だなとも思ったね。2ステージ分ある区切りの場所のように感じたけど。

「かなりそれは意識しましたね。やっぱり2ブロックに分かれてるというのは自分の中にもあって、前編後編みたいな感じはありますね。『この声』って曲は、“この声で、あなたの笑顔を引き出したい”とか、“やさしさみたいなものを考えたい”っていう選手宣誓みたいな宣言の曲だと思っていて、ライヴでやる時…路上でも、いつも1曲目で歌ってたんです。だから、『この声』っていうのは、どっか区切りになる部分に入れる曲。1曲目とか、第2章の入口とか、最後っていうのも考えの中にはあったんですけどね…」

──確かにライヴで聴く「この声」って、“届けたい”とか“聴いてほしい”とか気持ちをアピールされてる感覚を持ってたけど、このアレンジというか…歌い出した途端のやさしい声で、心を奪われちゃった。これがこの曲の持つ本来のイメージというか、高橋くんの心なのかなって勝手に思って。

「ありがとうございます。歌い方は意識的に変えましたね。自分が主役というよりは、いろんな人の声や物音がある中での“自分の声”っていうところにしていきたいって思って。この曲の持ち味というか、言わんとしてることは、もしかしたら押し付けて“この声~!”って言うより、“こういう声”があることで笑顔みたいなものを探していけたらいいなっていう些細な提案というか…。あの歌い方はそこからきたんです。」

──はい、やさしくなれました(笑)。そして、その流れで「一人暮らし」ですが。なんか、気付くと口ずさんでるんだけど、これいいよね。

「このアルバムの中で、できた時に一番うれしかった曲ですね。」

──“人の幸せに時々焦る”っていう言葉が、なんか分かる…

「この曲は取るに足らないものを歌ってみたかったというか。アプローチとしては、パーソナルでありきたりな景色の中でも、見落としてるくらい当たり前のものを歌いたいなって思ったんですよね。身近すぎて感じることのない気持ちとか、繰り返されすぎて寂しいんだかうれしいんだか分かんない気持ち。日々メモを採ってるんですけど、それはこういう曲を書きたかったからなのかなって。誰もが見たことがあるようなものに改めて音符を乗せて歌うと、ありきたりなものがちょっと光って見えるというか。大きな価値があるような気がして。」

──ふとした時のひとりぼっち感みたいな寂しさが出てるよね。

「それはすごく表現できたような気がしてます。で、それは僕自身のことなんですよね。だからどうだって言われても、どうでもないというか…。この先、どういう曲を歌っていくにせよ、ただ自分が生きていることをロードムービーのように曲にしていくような作業ができたら、少し自分の居場所が確保されるというか、やりやすくなるんじゃないかって気がしてます。」

──全体のテーマっていうものを掲げてたりはしたの? そして、前はできなかったけど、この作品でできるようになったこととかは?

「ポジティブっていうか、自分の中にある前向きな気持ちをあえていっぱい出してますね。どのメッセージにも一貫して入ってると思う。この、前向きなメッセージを歌いたいっていうことが言えるようになったことは進歩だと思いますね。以前は、前向きなことを歌いたいからこそ、まずは暗いことを歌うってことを頑に言ってきた気がするんです。今はバランスを考えているというか。どう歌うことでそれが良いように聴こえるかっていうことがテーマになってきているので。」

──なるほどね。変化としては?

「さっき話した、編曲で自分自身が携わっていくということだったりとか、手をもっと伸ばして自分で舵取りをしていきたいって思ったところが変化したところですね。前は“お任せします”みたいな感じだったので。ただ、自分自身で携わっていきたいって気持ちが強くなったのは進歩、変化だと思うんですけど、そこから伴う孤独心というか、なんかその真の理解者みたいなことは考えないようにしてる自分がいますね。本当の意味での真の理解者、パートナーみたいな人はひとりでやってる以上、いないっていう。いろんな人に協力してもらっているし、その人たちへ感謝の気持ちは絶対に忘れちゃいけないんだけど、その中で自分の中で葛藤して戦っていかなきゃいけないっていう孤独は感じてます。」

──音楽に関わらず、アーティストと呼ばれ創造を続けていく人特有の葛藤だよね。自分の中に正解を探し続けるのは辛いだろうね。さて、初のホールツアを控えてるけど、なんとなく見えてきてるの?

「まだですね。楽しいものにしたいって希望だけかな。」

──このツアータイトルは?

「アルバムタイトルの“この声”をキーワードにしようっていうのと、僕がたまたま喫茶店で聞いた“この声って誰?”“高橋 優じゃない?”っていう会話からです(笑)」

──ふ~ん、そうなんだ(笑)。楽しみだね、必ず行きま~す。

「お待ちしてま~す(笑)」

取材:石岡未央

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