2012-04-20

【ピロカルピン】より高く、より広く。メジャーに飛び立った第一弾!

 これまでインディーズで3枚のアルバムを発表してきたピロカルピンが、メジャーデビューアルバム『蜃気楼』をリリース。より物語性を帯び、サウンドも進歩を遂げた作品になった。

──今作『蜃気楼』はメジャーデビューの一発目になるとのことですが、メジャーデビューするお気持ちは?

松木 今まで手が届きそうで届かなかったものなので、一種の達成感みたいなものがあります。制作がすごく大変だったので、それによってメンバーの結束もより高まったと思います。

岡田 ひとつのマイルストーンというか、目標をひとつ達成できたのは大きいです。バンドとして、常にステップアップしていたいですからね。同時に、より責任感も強く感じています。

──昨年12月のライヴでメジャーデビューが発表されたのですが、今回のアルバム『蜃気楼』は、その前から作っていたものですか?

松木 以前からライヴでやっていた曲と、メジャーデビューが決まってから作った曲が入り交じっています。「タイムパラドックス」はライヴでやっていて、「未知への憧憬」はその12月のライヴで初めてやりました。あとは新曲です。

──アルバムを制作する上では、何か考えましたか?

松木 例えば、「祈りの花」はピロカルピンとしてバンドでやるよりも、私が個人的に弾き語りでいつかやろうと思っていたんです。弾き語り調のサビで始まるのですが、そういう曲って今まで出してきていなかったから。でも、メジャーデビューという大きなチャンスをいただいたので、これまではやらなかったようなことにもトライしてみようと思って。

──「祈りの花」は、すごくキャッチーな曲ですね。

岡田 スタッフのみなさんからも、良い曲だから入れた方が良いと言っていただいて、こういう曲調もピロカルピンの魅力のひとつだと再認識しました。あと、メジャーで意識したところは、歌を届けやすくするという配慮をしたこと。エンジニアの方が素晴らしくて。歌とサウンドのバランスという部分で、今回は歌がすごく聴きやすくなっています。

──「メトロ」は、地下鉄が題材になっていて分かりやすい。《始発に飛び乗れ》という歌詞が、オープニング曲にぴったりですね。

岡田 メジャーデビュー作の1曲目にしては、サウンドが少々地味かな?と思うけど(笑)、こういう踏み締めるような感じで、一歩ずついきますよ!というバンドの決意表明的な曲です。

松木 これは、絶対に1曲目にしたい!と思っていました。もともとストーン・ローゼスのような、奥行きのある世界観の曲を作りたいと思って。それで、曲がある程度出来上がった時、地下鉄がイメージにぴったりだと思ったんです。…と言っても、地下鉄のことを歌っているわけではなくて、地下鉄をモチーフにして人生の上りと下りを歌っているんですけれどね。これはぜひヘッドフォンで聴いていただいて、引き込まれてほしいです。

──「タイムパラドックス」はレゲエを採り入れた曲で。レゲエの印象がまったくなかったので、意外性が面白かったです。

岡田 イントロはレゲエだけれど、他の部分はギターロックでハーモニーもピロカルピンの王道なので…その融合がすごく上手くいったかなって。でも、僕らレゲエは普段聴かないです(苦笑)。

松木 常に何かしら新しいことを採り入れたいと思っていて。自分たちなりに消化できたら良いなと思ってチャレンジしました。ライヴでも反響があって…去年7月に初めてやったのですが、その時はちょうどドラムの荒内が入って間もない時期だったこともあってか、アンケートに“大地から鳴り響くようなドラムが印象的だった”と書いてくれる方もいました。

──「よだか」はビート感が気持ち良い曲ですね。

松木 勘の良い方は気付くと思いますが、これは宮沢賢治の小説『よだかの星』にインスパイアを受けて作りました。

岡田 宮沢賢治は没後50年を過ぎて著作権フリーになって、ネットでも気軽に読めます。なので、ぜひ読んでほしいです。

松木 前の『宇宙のみなしご』も森 絵都さんの小説から付けましたし。アルバムを聴くだけでなく、その先にもいろいろ興味を広げてもらえたら嬉しいです。

──アルバムタイトルの“蜃気楼”はどこから?

松木 歌詞は全体に“理想郷を探している旅”ということが、ひとつテーマになっています。最後の「不透明な結末」の中に“蜃気楼”という言葉が出てくるのですが、これは旅を終えた人の独白のような雰囲気になっていて。全体的に作詞をしていく上では、今回は分かりやすさもすごく意識しました。

──「不透明な結末」はアッパーで爽快なナンバーですが、《理想郷なんてない》と歌っていますね。

松木 そうなんですけど(笑)。“ない”ということが答えではないので…そこは、それぞれで考えていただければと。

岡田 バンドの置かれている状況と、少しリンクしている部分があって。それで音の面でも、歌詞の面でも、より伝わりやすく説得力があるものになったのかなと思います。“蜃気楼”と言うと、そこに行けば理想があるとか、水があって助かるとか思って、でも実際に行ったら何もなくて、さらにその向こうに次の蜃気楼が見えていて…。目標に辿り着いたら、また次の目標が待っているみたいなイメージですね。

──“蜃気楼”という言葉から想像する風景と、ディレイの効いたギターのサウンド感が、実にマッチしていますね。

岡田 そこは意識しました。“理想郷”とかストレートに付けるのもアリだけれど、ピロカルピンのイメージとも考え合わせてこれがぴったりだなと。サウンドのイメージから入ってもらって、聴き終えた時にまた違った意味を感じてもらえたら嬉しいです。

松木 そんなふうに聴いて、感じて楽しんでもらえたら、しめたもの(笑)。こういうタイトルを付けた意味があるというものです。

取材:榑林史章

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