2012-10-20
【ピロカルピン】自分たちを見つめ直し、未来へ橋渡しする作品
5月にアルバム『蜃気楼』でメジャーデビューを果たしたピロカルピンが、それからわずか半年でメジャー2作目となるアルバム『まぼろしアンソロジー』をリリース。自主制作時代から大切にしてきた楽曲と新曲を新たにレコーディングした、ピロカルピンの過去と未来をつなぐ作品となった。同作について松木智恵子(Vo&Gu)が語ってくれた。
──今回はインディーズ時代の曲も収録していますね。
「インディーズ時代からさらに遡った、自主制作時代の曲ですね。メジャーデビューする前から、いつか自主制作時代の曲を録り直したいという気持ちがすごくありました。本当に初期の曲なので、初期衝動的に作ったものだったりしたし。当時はあまり曲作りをしたことがなかったので、自分の中から出たものをそのままやっているみたいなところもあって。そういう意味では非常に純粋で、二度と作れないものだと思います。でも、今回はその当時とメンバーも違いますし、技術も成長していて、さらに新たな環境になって当時やれなかったこともやれるようになって。その上でアレンジをやり直しているので、表現の幅も広がり、ある意味でまったく違ったものになっていると思います。今回、自分たちはどういうバンドなのか、見つめ直すことができたというのも貴重な体験でした。」
──自主時代の曲は「桃色のキリン」「人魚」「カンパネルラ」の3曲ですが、これらを選んだ理由は?
「バンドの方向性を決定付けた重要な曲だったので、絶対にこの3曲だろうと。ファンの方からも聴いてみたいという声がたくさんあったし。実際、この発売が決まってから“聴けて嬉しい”という声をいただいています。」
──リアレンジする作業はどうでしたか?
「今あるものを再度練り直したわけですが、本当にこれでいいのかと、必然性を検証していくような作業でしたね。いつもアレンジは緻密で根気のいる作業ですが、今回はさらにという感じでした。」
──1曲目の「桃色のキリン」ですが、これはどうして桃色と出てきたのですか?
「子供の頃に好きで読んでいた絵本のタイトルで、桃色の画用紙で作ったキリンが動き出すというお話があって、内容がリンクしているわけではないけど、子供の頃を思い出して書こうと思って取りかかった曲なんです。もともと私は、何かこういうことをメッセージしようとか、そういうことは考えなくて。メロディーやサウンドとの相乗効果で、楽しんでいただければと…」
──ちなみに、お話のキリンは最後にはどうなるのですか?
「あくまでお話なので、何かオチ的なものがあったかどうかではなく…ただ、お話の自由な世界が私の心に与えてくれたものが、かたちになったのがこの曲なのかなと思っています。」
──「人魚」も童話から?
「はい。『人魚姫』は最終的に泡になるのですが、そういう不幸な結末に対するアンチテーゼをテーマにして書きました。」
──人魚姫がかわいそうだと?
「何となく、腹立たしかったのだと思います(笑)。サウンド的には、人魚というところから海の感じ…水面に光が当たってキラキラとするさまや、波が打ち寄せてくるようなものも意識してアレンジをしているので、ぜひそこも含めて聴いてください。」
──「カンパネルラ」は、やはり『銀河鉄道の夜』から?
「そうです。子供の頃に一度読んで、大人になって読み返す機会があったんですね。子供の頃は深くまでは考えずに読んでいたので、こういう解釈だったのか!と、結構驚いたところがあって、それがきっかけで書こうと思いました。三拍子の曲をと思って作ったら、雰囲気にそういう歌詞がとても合うなと思ったんです。それぞれの心に、銀河鉄道の星空をイメージして聴いてほしいです。」
──「カンパネルラ」は、生や死とかを暗喩していますか?
「何で生きてるのか? 死んだらどうなるのか? …それは他の作品の曲でも多くて、そういう意味では一貫していると思います。きっと私が仏教的な世界観に興味があるからだと思うのですが…」
──何かそういう興味を持つきっかけが?
「いえ、特にはないですけど。お寺とか神社の雰囲気や空気感が好きだったりするので、そういうところかな、と。」
──仏像が好きな女の子が増えてると聞きましたよ。
「ああ、“仏女”って言うんでしたっけ。私はまだそこまで極めているわけではありませんが、その気はありますね(笑)。ただそれは私個人の話なので、それをメンバーと共有してサウンド面に反映させようとかはないです。」
──「獣すら知らぬ道」は新しい曲ですが、メロディーがいつになく明るい感じがして、バンドとして新しいところに向かっているんだなという感じを受けました。
「はい。まさにそういう気持ちを込めています。サウンド的にも大陸的なロックをテーマに作りました。メンバーとも、今までありそうでなかった曲だねって話をしています。」
──「火の鳥」は?
「ツアーでは演奏していて…ピロカルピンの未来への橋渡し的な、次につないでいく曲として、最後に入れました。」
──でも、曲順は単に古い順にとかではないですよね。
「新しいとか古いとかまったく考えずに、すごく感覚的な感じで並べました。一個一個の曲が独立しているので、曲間もいつもより長めに空けてありますし…」
──では、“まぼろしアンソロジー”というタイトルは? ファンの間でまぼろしとされていた曲という意味も…。
「そういうのもあって、それをまぼろしのままにしてはいけないという。それと『桃色のキリン』とか『人魚』とか架空の存在を歌ったものがいくつかあるというのもあるし。単純に訳すと、幻想短編詩集という意味になります。ピロカルピンの過去とこれからの未来をつなぐ短編集といえる作品だと思います。」
取材:榑林史章
(OKMusic)
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