2017-07-06
『ハチミツ』で知るスピッツのバンドとしての風格

スピッツが今年結成30周年を迎えた。7月5日には、CD3枚組に新曲3曲を含む全45曲収録した大ボリュームのシングル・コレクション・アルバム『CYCLE HIT 1991-2017 Spitz Complete Single Collection -30th Anniversary BOX-』を発表。すでにアニバーサリーの全国ツアーも始まっている。その楽曲が長きに渡って多くのリスナーに愛され続けている、国民的人気を誇るバンドのひとつであるがゆえに、もはやその解説も無粋であろうとは思うが、彼らの特徴を改めて語れるのも、こうした節目の年なればこそ。ブレイクのきっかけとなった6thアルバム『ハチミツ』を題材に、“スピッツとはどんなバンドであるのか?”という、今さら聞けない話題にあえて踏み込んでみた。
■15年近くアリーナ公演を行なわなかった理由
スピッツ結成30周年記念となる全国ツアー『SPITZ 30th ANNIVERSARY TOUR “THIRTY30FIFTY50”』が7月1日、静岡エコパアリーナからスタートした。スピッツのアリーナツアーはこれが初めてではなく、2009年、2011年、2014年、そして今回と、これで4度目となるが、シングル、アルバムともに数々のミリオンヒットを持つ30年選手としては、このアリーナツアーの回数は極めて少ないと言える。作品の売上、その認知度だけを考えれば、スピッツはこれまでドームツアーを行なっていても何ら不思議ではないバンドであろう。ちなみにスピッツが日本武道館公演を初めて開催したのは2014年。今から3年前である。これを知った時、意外という感慨を通り越して、唖然としてしまった。もはやデビューから2~3年で武道館公演を実現するアーティストも少なくないのに──。彼らが初めてアリーナツアーの開催を決めたのはそれ以前だが、シングル「ロビンソン」が大ヒットした1995年から数えても、実に15年近く経ってからのことだ。アリーナツアーの解禁はライヴハウス、ホールではチケットが入手困難であったという理由からだそうだが、それだけならもっと早く決定しているはずで、そこには音響技術も関係していたのでは?と筆者は想像する。彼らが頑なにアリーナを拒んできたのは、広すぎる会場では観客との一体感を上手く作り出せないからだったと聞いた。その一体感とは、生歌を聴いた会場の全員が肩を組んで一緒に歌うようなものではなく、バンドサウンドをライヴでできる限り忠実に再現することで、それをオーディエンスと共有するといったものではなかったか。その昔は聴く位置によって音が変わるなど、大きい会場での音響は必ずしも良くなかった。つまり、PA技術、スピーカー性能がアップしたことで、アリーナ級の会場でもある程度、納得のいく音が出せるようになってスピッツはアリーナを解禁したのではないだろうか。実際、ここ10年間はフェスを含めて大規模な会場でのコンサートが増え、音のクオリティーは確実にアップしているとも聞く。まぁ、スピッツの真意は分からないが、彼らの作品にあるバンドアンサンブル、サウンドアプローチを聴くと、この仮説もそう的外れではない気はする。
■問答無用、高水準のメロディー
ということで、その辺のスピッツ・サウンドの特徴を含めて、以下、アルバム『ハチミツ』を探っていこうと思う。まず、歌のメロディーからいこう──とか、意気込んだような前置きをしておいて何だが、草野マサムネ(Vo&Gu)の書くメロディーに関しては、少なくとも本コラムを読んでいるような音楽ファンにはもはや説明不要だろう。メロディアスでキャッチー。シングル曲として大ヒットしたM2「涙がキラリ☆」、M6「ロビンソン」、そして、シングル「涙がキラリ☆」のカップリングにもなったM4「ルナルナ」、シングル候補であったというM5「愛のことば」は文句なしで、それ以外も良質でポピュラリティーの高い歌メロばかりである。どこかノスタルジックで日本人の琴線を刺激する旋律でありつつも、だからと言って懐古的でもなく、複雑すぎず、単純すぎず、たとえマイナーなメロディーでもしっかりと抑揚があって、その上、伸びもある。聴いていて気持ちが良い。説明不要と言いながら、クドクドと書いてしまったが、そういうことだと思う。調子に乗ったついでに加えて言うなら、草野の声質と言葉の乗せ方も、その良質なメロディーをさらに秀逸なものに仕上がっていると思う。レンジが広く、シルキーなハイトーンを聴かせる一方で、低音域では独特の揺らぎを見せる天性の声。やわらかくも凛とした表情を見せるヴォーカリゼーションが歌をさらに立たせているのは間違いない。また、音符にしっかりと日本語を乗せている歌詞も目立つ。桑田佳祐や佐野元春のメソッドとは真逆というか、詰め込んだり、間延びさせたりせずに──こういうと若干語弊があるかもしれないが、誤魔化している印象がないのだ。日本語ネイティブにはメロディーがすんなり耳に馴染むメリットがあると思われ、これもスピッツの特徴と言っても間違いないと思う。この指摘が正しいか否かはみなさんの判断にお任せするが、いずれにしても、スピッツ最大のフック=掴みはそのメロディーであることは疑いようがないであろう。
■ギタリストはバンドの最重要プレイヤー
ここからが重要である。では、スピッツは単にメロディーのいいバンドなのかと言うと──もしかすると彼らのシングルヒット曲しか知らないという一般リスナーにとってはその程度の認識なのかもしれないし、それはそれでメロディーの優秀さが広範囲に伝播した証左であって良きことではあろうが、賢明な読者ならご存知の通り、スピッツはメロディーのいいだけのバンドではないのである。このメンバーであるからこそ成立している楽曲ばかりであり、バンドである必然性を強烈に抱くバンドがスピッツである。個別に見ていく。まず、三輪テツヤ(Gu)のギター。個人的には実は歌メロよりも重要だと感じるのが、この人のギターである。やはりシングルチューンが聴きやすいと思うので、M2「涙がキラリ☆」やM6「ロビンソン」を改めて聴いてみてほしい。「涙がキラリ☆」のイントロのギターフレーズはサビの歌メロを超えるインパクトがあり、ド頭から「この楽曲はしっかり聴くべし!」と思わせるに十分だ。Aメロのアルペジオもいい。歌メロを殺すことなく、ちゃんと自己主張している。歌とギター、両雄が並び立っている印象だ。「ロビンソン」でのアルペジオも素晴らしい。あの楽曲のどこか物憂げな雰囲気を醸し出しているのはあのギターだ。メインのアルペの裏にもうひとつアルペがあり、さらにアコギも加わって、さながら弦楽多重奏のような構築美も聴かせる。単音弾きのギターはM1「ハチミツ」、M3「歩き出せ、クローバー」、M5「愛のことば」、M9「Y」でも聴くことができ、『ハチミツ』以降の作品でもスピッツ・サウンドを象徴するものとなっていることも言うまでもなかろう。また、これ以外にも、M3「歩き出せ、クローバー」では歪んだ音作り、M6「トンガリ'95 」はパンク的なリフ、M7「あじさい通り」でレゲエ、M10「グラスホッパー」はハードロック的なアプローチと、多彩なギターサウンドを聴かせる。三輪テツヤもバンドの最重要プレイヤーであること──これもまた間違いない。
■楽曲を引っ張り、しっかりと支えるリズム隊
続いて、リズム隊である。田村明浩(Ba)、崎山龍男(Dr)両名のバンドにおける役割も極めて大きい。これもまたシングル曲を例に挙げるのが分かり易かろう。M6「ロビンソン」。ギターがあの楽曲のどこか物憂げな雰囲気を醸し出していると前述したが、この楽曲のリズムはそれと相反するかのように躍動的で、ドラムスのフィルイン(オカズ)は若干前のめりなほどだ。歌詞に《大きな力で 空に浮かべたら ルララ 宇宙の風に乗る》とあるが、楽曲に舞い上がっていくような推進力を与えているのはリズム隊である。「涙がキラリ☆」は、まずベースラインが特徴的だ。イントロのギターが派手だからか、あるいはAメロのアルペジオがシンプルだからか、ベースラインはよく動く。歌に対する裏メロのようだ。ベースの動きがもっとも印象的なのはM4「ルナルナ」やM11「君と暮らせたら」だろうか。この辺のベースラインに耳を傾注すると、大袈裟でなく、「スピッツの楽曲はベースが引っ張っている」と確信させられるほどである。楽曲の芯の部分、特にそのポップ感を司っているのは田村のベースであると思う。ベースが動く分、崎山のドラムスは実直にリズムをキープする。とはいえ、「涙がキラリ☆」のサビでのトップシンバルの刻みであったり、「ロビンソン」で重めのシンバルをユニゾン的に鳴らしたりと、細かくアクセントを付けているため、決して単調ではない。そこが心憎い。さりげなく、歌、弦楽器を邪魔することなく、それでいて、最初からそこに備わっていたかのようであり、それ抜きでは楽曲全体が成立しないようなフレーズを入れ込んでくる。崎山龍男は、そんな職人的とも言えるドラミングを魅せるアーティストであると思う。
さて、ファンのとっては“何を今さら…”であろうが、ここまで書けばスピッツをよく知らない読者もスピッツがロックバンドらしいロックバンドであることが分かっていただけたのではないかと思う。草野マサムネの作るメロディー(歌詞も含む)に、三輪テツヤのギター、田村明浩のベースがそれぞれに絡み合い、時に別のアプローチでお互いを彩り、それらのボトムを崎山龍男が支える。誰ひとり欠けても成立しないという点において、スピッツの楽曲はバンドならではものである。ここでダメ押しをひとつ。その証拠は、他アーティストによるスピッツのカバー曲を聴けばよく分かる。おあつらえ向きなことに、アルバム『ハチミツ』に関しては、『JUST LIKE HONEY-「ハチミツ」20th Anniversary Tribute-』という、さまざまなアーティストが『ハチミツ』の楽曲をカバーしたアルバムがある。この収録曲はメロディー自体は変わっていないが、バンドアンサンブルは大きく異なるものがほとんどで、パッと聴き、違和感というか、収まりの悪さを感じるリスナーがいても不思議ではないと思う。だが、そのどこかムズムズする感じこそが『ハチミツ』収録曲本来の姿がスピッツならではのバンドサウンドで構築されている証左だし、一方、参加アーティストがコピーではなく、自らの個性と技量でしっかりとカバーした証であろう。『ハチミツ』、あるいはスピッツ・サウンドの真実を探る意味で、『JUST LIKE HONEY』は優れたトリビュート盤であるし、併せて聴くことをおすすめしたい。また、話は最初に戻るが、今回のツアー、あるいは今後のコンサートでスピッツの生音を聴く機会に恵まれた人は、そのバンドとしてのポテンシャルを感じてほしいものである(と、言われんでも目の当たりにするだろうけど…)。
TEXT:帆苅智之
アルバム『ハチミツ』
1995年9月20日発売
<収録曲>
1.ハチミツ
2.涙がキラリ☆
3.歩き出せ、クローバー
4.ルナルナ
5.愛のことば
6.トンガリ’95
7.あじさい通り
8.ロビンソン
9. Y
10.グラスホッパー
11.君と暮らせたら
【関連リンク】
元記事
スピッツまとめ
メガマソ、冬眠から目覚めた公演をDVD化
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