2012-01-20

【小南泰葉】長く中毒になってくれる人に響いてほしい

 小南泰葉が2ndミニアルバム『勧毒懲悪』を全国のTOWER RECORDS限定で発売する。大学の同級生だというハジメタル(元ミドリ)ら、豪華なバンドメンバーに支えられたポップチューンだが、歌詞は過激。その真意を訊いた。

──今作のコンセプトはあったのですか?

今回に限らずなんですけど、自分の作る音源って、薬であり、毒になると思うんですね。どうしても曲が二極化するんです。真ん中がなくて。なので、どの曲でも優しい気持ちで終わらない毒を盛るんです。インディーズなのでとことん毒も吐いていますし、トガってる曲を集めましたね。

──薬であり、毒であるというのは、聴き手にとってそうしたいと? それとも自分にとって?

両方ですね。歌を歌っていない時期があって、その時は何を試しても空回りしていて、結局歌うことに行き着いたんで、自分の作る曲は全て自分の癒しになってますね。

──毒があっても癒しと?

そうですね。毒がないとじくじくしないので。なので、自分の曲で良いか悪いか判断するのは、“じくじくするか?”とか“どきどきするか?”、感覚的な感じです。

──“さらっと”や“すっと”とかではなく?

そうですね。そうやって消えていく曲は全部捨てます。

──音楽をやっていない時期は、どんな感じだったのですか?

誰よりも時間を無駄に過ごしましたね。何もしないってすごく拷問だと思うんです。あ、食べて寝てはいましたね。20歳まで音楽をやっていたんですけど、それをやめて5年くらいは音楽以外の道を探していたんです。だから、今やってる曲は溜まっているものが…パーンってなった感じです(笑)。20歳までの曲って、わけが分からんのばっかりだったんですけど、生まれ変わって作り出した音楽は何の枠にもとらわれないで、すごく…自由だと思います。

──何で20歳でやめちゃったんでしょうね。

一から人間やり直そうと思って、携帯も捨てて、住所も捨てて、家を出たんです。それで生活をやり直したんですけど…始めたことがスーパーのバイト(笑)。でも、何をやるのも、日本にいるのもしんどくなって、オーストラリアに行ったり。だから、誰かを癒そうとか思っていなくて、自分は自分に癒されたいと思っています。

──まずは、自分のために音楽をやっていると?

最初の3年くらいはそうでした。“人のために音楽やってます!”って言うのが偽善だと思っていて。でも、最近は変わってきました。今まで、“何で音楽やってんの?”って訊かれると、自分が死なないためって答えていて、それは今でも嘘ではないんですけど、それだけじゃなくなりました。私が今ここにいるのも、たくさんのスタッフがいてこそだし。だから、その経過の音源だと思います。

──曲を聴いていると、生と死の距離が近い気がしたんですね。小南さんの中に、そういう価値観があるのでしょうか?

自分の曲は、どうしても1曲に付きひとりは死んじゃうんです。自分が死んだり。『HOME』はちょっと違うんですけど、結局生死を歌ってしまうんですよね。

──生死を歌うことが、毒になり、薬になり、生きる力になる?

んー…“生きたい”とは思うし、誰も死んでほしくないんですけど、生きることは辛いことが多いじゃないですか。だから、表現したいんだと思います。自分が死んだらどうなるか、ずっと考えています。でも、生きている間は絶対に歌い続けたいし、作品をたっくさん残したい。

──歌詞に出てますけど、世の中に汚く見えることが多いから、死について考えてしまうんじゃないですかね。

世の中が汚いとはすごく思いますね。物事のピラミッドの上に立ってるのって、お医者さんだと思っていて。どんな人も医者の前では弱いじゃないですか、金持ちも貧乏人も。やっぱり、金持ちとか地位名声がある人とは、平等ではないなって思うんです。震災の後に、いろんな憶測が飛び交っていたし、その真実を知っていたのは、ピラミッドの上の人たちだけで。腹立たしかったし、不公平だと思ったんですよね。だから、『Soupy World』でも全てのものをひとつのミキサーに入れてぐちゃぐちゃにしたいって、震災の後に思ったことを歌っていて。

──でも、基本的にはポップな音楽ですよね。

如何に誤魔化せるかって思っています。

──え!?

多くの人に自分の思っていることを伝えるために、如何にポップで、如何に耳心地の良い音であるべきかは考えていて。トリックみたいに、みんな一旦騙されてほしいというか。歌詞を聴いていなかったら、すごく入口が広い音楽だと思うんですよ。でも、後で実は毒を盛られていることに気付くっていう。お侍さんが、毒を盛られた時のために、毎晩スプーン一杯の毒を飲むとかあるじゃないですか。そういうふうに、この毒がないと生きていけないって思ってもらえるような音楽を生めたらいいなって。

──じゃあ、こうやってCDを出したり、『FUJI ROCK』に出たり、表に出る機会が増えた状況をどう思っていますか?

それは一番不思議ですね。ずっと自己否定をして生きてきたし、誰かが認めてくれたり、手放しで好きですって言ってくれることって、あんまりなかったし。でも、気付いたのが、好かれる半面、嫌われると思いました。温かい音楽を作れる人がうらやましい時期があって。震災の後は自問自答してましたね。今は、まだすごく狭い範囲ですけど『Soupy World』をシングルで昨年12月に発売して、少し考え方が大きくなりました。ブログやツイッターでメッセージをもらって、自分と関わろうとしてくれる人が明らかに増えたので、一歩自分を認めてあげないとって思って。根底では、生きててしんどいなって思っている人に聴いてほしいんですね。老若男女みんなに聴いてほしいとは思っていない。狭くてもいいから、長く中毒になってくれる人に響いてほしいと思います。

取材:高橋美穂

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