2018-01-25
NOVELAがプログレッシブ・ハードロックを見事に具現化したデビューアルバム『魅惑劇』
今週は1980年代を彩ったバンドのひとつ、NOVELAのデビュー作『魅惑劇』を取り上げる。ハードロックバンドの勢いがあった関西ロックシーンにおいて、いち早く頭角を現し、当時すでに衰退を始めていたとも言われるプログレッシブロックを堂々と鳴らした強者たちだ。一説にはビジュアル系のルーツとも言われている存在であり、このバンドもまた十分に再評価に値するレジェンドであろう。
■“花のXX組”と“○○世代”
ある一定の時期に才能の秀でた人たちが大勢台頭することがあって、のちにそれが“花のXX組”と総称されることがある。その人たちが同年齢であったりすると“○○世代”と言われることもある。もっとも有名なところでは“松坂世代”や“マー君世代”だろうか(後者は“プラチナ世代”と言われることもあるし、過去には“ハンカチ世代”とも呼ばれたこともあるとか)。“松坂世代”は先日、中日ドラゴンズへの入団が決まった松坂大輔選手と同学年のプロ野球選手で、藤川球児、和田毅、村田修一らがその代表格。“マー君世代”は田中将大、前田健太、坂本勇人、そして斎藤佑樹らがそれにあたる(前者は昭和55年会、後者は88年組、あるいは88年会とも言われる)。
また、大相撲には“花のサンパチ組”や“花の六三組”という初土俵を踏んだ年が同じ年の力士の総称もあったりする。こういった呼び名はスポーツ界に限ったことではなく、青池保子、萩尾望都、竹宮惠子、大島弓子、山岸凉子ら昭和24年前後生まれの女性漫画家たちを指して“24年組”とも言われるし、芸能で言えば、80年代のアイドルシーンにはこのカテゴリーが多々ある。松田聖子、河合奈保子、柏原芳恵、岩崎良美らの“80年組”、中森明菜、小泉今日子、掘ちえみ、松本伊代らの“82年組”、中山美穂、斉藤由貴、南野陽子、浅香唯らの“85年組”がそれ。1985年生まれの蒼井優、満島ひかり、宮崎あおいに加えて、綾瀬はるか、上戸彩、相武紗季、戸田恵梨香らをもって“85年組”とする向きもあるようだし、宇多田ヒカル、椎名林檎、aiko、浜崎あゆみは“奇跡の98年組”と言われているようである。
さらには、明確な総称こそないが、バンドで言えば、94年にメジャーデビューしたGLAY、L'Arc〜en〜Ciel、黒夢、97年デビューのLa'cryma Christi、SHAZNA、FANATIC◇CRISIS、MALICE MIZERも同時期に同世代の秀でた才能が集結した例であろう(まだまだあるが、キリがないのこの辺で…)。
■関西HRシーンの先駆け的存在
さて、大分前置きが長くなったが、EARTHSHAKER 、44MAGNUMと続けてその名盤を紹介してきた本コラム的としては、1980年前後に関西で結成され、その後にメジャーデビューを果たしたハードロックバンドたちに上で述べたような才能の集結を見る。上記2バンドの他、LOUDNESSもそうであろうし、X-RAYやMARINOもそのカテゴリーで括ってもいいだろうだが、このシーンを語る上で欠かすことができないバンドと言えばNOVELAであろう。結成こそ上記のバンドたちと同時期だが、メジャーデビューがもっとも早かったのがNOVELAであった。その意味でもこのシーンでの先駆けと言えるわけだが、これはバンドの出自にも起因している。
NOVELAは当時すでに関西のハードロックシーンでは名を馳せていた山水館(1974年結成)とSHEHERAZADE(1977年結成)とのメンバーが結集したバンド。もともとデビューする予定だったSHEHERAZADEの音楽性にレコード会社の上層部が難色を示したことから、その頃、解散したばかりだった山水館のメンバーを加えて新バンドとすることで話題性を高めようとしたという。つまり、界隈のバンドの中でもキャリアは上だったのである。メジャーデビュー後、大阪のスタジオでの練習終わりにメンバーは、当時、出演していたライヴハウスにもよく顔を出していたというが、そこのカウンターでドリンクを出していたのがEARTHSHAKERのギタリスト、石原慎一郎だったという(とはいえ、上下の関係ではなく、友人の間柄だったようだ)。NOVELAはSCHEHERAZADEから参加した平山“Teru”照継(Gu)、五十嵐“Angie”久勝(Vo)、永川“Toshi”敏郎(Key)、秋田“Eijro”鋭次郎(Dr)と、山水館から参加した高橋“Yoshiro”ヨシロウ(Ba)、山根“Mock”基嗣(Gu)の6人編成。それが100パーセント、メンバーの意思であったかどうかはともかく、実力派バンド同士の合体はそれをリアルタイムで経験したリスナー、オーディエンスにとってはドリームチームの結成であった。
■プログレにハードロックを ほどよくブレンド
NOVELAの音楽性はプログレッシブロック。長大な楽曲、変拍子、転調、シンセサイザーの多用、コンセプト性を持ったアルバム構成等、まさに所謂プログレの特徴に準じていると言ってもいいスタイルであることは間違いないのだが、もともと山水館とSHEHERAZADEとが持っていたHR色も程良くブレンドされており、メンバー自身が自称していた“プログレッシブ・ハードロック”という表現がぴったりくるようだ。少なくとも1st アルバム『魅惑劇』はその呼称が似合う。端的に言うと、上記のプログレの特徴を損なうことなく、印象的なギターリフをうまく取り込んでいる。
具体的に楽曲を見ていこう。M1「イリュージョン」。ややオペラ調というか、クラシカルというか、幻想的なハーモニーから始まる箇所はのっけから単なるハードロックではないことを印象付けているが、そこからR&Rならではのギターがグイグイと楽曲を引っ張っていく様子はHRバンドそのものだ。歌が入るとギターは落ち着くが、ブリッジの部分(と言うのも憚られるが…)では再びこのリフがドライヴしていく。ハイトーンのヴォーカルも、キーボードの音色もいかにもHRっぽい。M2「名もなき夜のために」もイントロの逆回転にこそ少しアートロックっぽさが感じられるものの、ヘヴィなギターリフと突っ込み気味のリズムはLed Zeppelinを彷彿させるものだ。M5「少年期~時の崖」は長尺で、その展開の妙も含めて、まさにプログレなのだが、中盤から聴こえてくる重いギターリフやアウトロ近くのワイルドなギターはやはりHRに忠実な印象である。また、リフだけでなく、M5「少年期~時の崖」、M6「魅惑劇」でのアルペジオにはどことなく「Stairway to Heaven」っぽさもあって(個人の感想です)、この辺のギターもまた印象的だ。
■プログレらしい長尺な楽曲も魅力
もちろん、プログレッシブ・ハードロックのプログレ部分もしっかりしている。分かりやすいところで言えば楽曲の長大さだ。前述のM5「少年期~時の崖」とその前後のM4「レティシア」、M6「魅惑劇」、つまり収録曲の半分が長尺で、それぞれ9分ちょい、約11分、14分弱ある。そして、これも前述の通り、展開もまさにプログレのそれだ。ドラマチックなイントロで始まるM4「レティシア」は、Aメロ1のバックはピアノ中心だがAメロ2からはバンドサウンドが重なるといった具合にシアトリカルな展開を見せる。リズムが3拍子であることも効いており、グルーブ感やサウンドのダイナミズムも十分に発揮されている。
M6「魅惑劇」はタイトルチューンであるからか、収録曲中、もっとも展開が劇的。「ナウシカレクイエム」的な子供の歌声に唐突とも思えるタイミングでミディアムテンポのバンドサウンドがインして(ここのドラムスはどことなく「21st Century Schizoid Man」っぽくない?)、そこに迫力あるハイトーンヴォイスのシャウトが響く。Aメロのバックはピアノがメインで、徐々にギターとシンセも加わって全体的に70年代ロックテイストを醸し出し、序盤から3〜4分でも聴き応えはあるのだが、それ以降がさらにすごい。歌がないので所謂、間奏と捉えられそうなパートだが、間奏と呼ぶにはあまりにも豪華すぎるサウンドなのである。アコギから始まり、チェンバロ~ジャジーなピアノ~フルート(多分)~キラキラとしたシンセ(多分)とつながり、そこから一転、あえて躍動感をなくしたようなピアノ、さらにまたそしてスパニッシュなアコギへと、聴きどころが満載。さらに後半、ドラムの手数も増えてバンドサウンドがよりスリリングさを増していき、メロディアスなエレキギター、シンセ、そして押しの強いヴォーカルも重なって、終幕に相応しい展開へと連なり、締め括りは讃美歌的というか、パイプオルガンのようなサウンドで、楽曲そのもの、アルバムそのものが昇天していくようなイメージだ。『魅惑劇』はアルバム全体でひとつのコンセプトを提示しているような作品ではないが、後半の長尺の楽曲群、そのドラマチックさにはプログレを自称するバンドならではの矜持が受け取れる。
■分かりやすいメロディーライン
そして、ここがもっとも重要なところだと思うが、プログレ、HRと言っても、このジャンルが陥りがちな、難解さを誇示するようなアプローチが『魅惑劇』からはあまり感じられない。決して大衆に擦り寄っているような感じはないのだが、ポップさを隠し得ないのである。そこはNOVELA自体の良さでもあろう。M3「恋はあまのじゃく」のスウィートな感じが分かりやすいポップさであろうが、これまたギターの話になって申し訳ないが、ギター全般にそれがあると思う。所謂ギターソロの単音弾きが概ねクリアトーンでメロディアス。速弾き過ぎず、誤解を恐れずに言えば、フュージョンバンドのそれっぽくて聴きやすい。このインスト的要素はその後さらにNOVELAにとって重要なものとなっていくが、その萌芽はすでに『魅惑劇』にあったと言える。
プログレバンドやHRバンドの中には当時もマニア受けする方向へいくバンドもいたと思うが、NOVELAには女性ファンも多かった。これには、彼らが多田かおるの漫画『愛してナイト』に登場するバンド、ビーハイヴのモデルになったことにも起因しているのだろうが、楽曲に分かりやすい大衆性を備えていたこともそれとは無関係ではないだろう。NOVELAに近い音楽性はMALICE MIZERやJanne Da Arc、D、あるいはある時期のTHE ALFEEにも見出せるが、1980年にそれをやっていたバンドとしてその先見の明は今も称えられてしかるべきであろうと思う。
TEXT:帆苅智之
アルバム『魅惑劇』
1979年発表作品
<収録曲>
1.イリュージョン
2.名もなき夜のために
3.恋はあまのじゃく
4.レティシア
5.少年期~時の崖
6.魅惑劇
【関連リンク】
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