2011-07-20

DIR EN GREY、暗闇に差し込む一筋の光明

 最高傑作との呼び声も高かった前作『UROBOROS』から2年9カ月、通算8作目となるアルバム『DUM SPIRO SPERO』が完成。日本を含む世界21カ国でほぼ同時にリリースとなる本作は、渾沌とした暗闇とその中に差しこむ一条の希望の光を想起させる。

──アルバムタイトルはラテン語の格言で“息ある限り希望を捨てず”という意味だそうですね。

薫 これは外に向けたメッセージであると同時に自分たちに向けたものでもあって。バンドを始めて15年、アルバムは今回が8枚目となるわけですが、どういったものにするかといった中で、葛藤や悩みがありました。そこで、新しい何かを作り出すことによって先が見えてくるんじゃないか、という希望をこのアルバムに託した部分があるんです。俺たちにその気持ちがあったからこそ、聴いてくれる人たちに“自由に捉えてもらっていいよ”と言えると思うし、アルバムのタイトルにすることができたんじゃないかと。

Die 最後の最後にこの言葉が出てきた時に、まるで導かれるかのようにスッと決まったんです。きっと、俺たち自身が求めていた言葉だったんでしょうね。アルバム完成間近の頃に震災があって、このまま制作作業を続けるべきか否かという判断を迫られる局面で、俺たちは“ここまで作り続けたんだから必ず完成させる!”という決意を持って作業を続行したんです。その経験があったこともタイトルに重みを持たせているように思います。

──楽曲のプリプロダクションの方法がとてもユニークだったそうですね。詳しく教えてください。

薫 ひとつの大きな部屋に全員が集まり、それぞれがMacにその場でアイデアを演奏して取り込み、そのファイルを中心となるメインのマシンに送る。それをマニュピュレーターが土台となる曲に貼り付けていくという方法でした。お互いのアイデアを確認しながらアレンジがどんどん変化していくんですけど、同じ部屋にいるのに全員ヘッドフォンをして違う方向を向いて、会話も一切ないという(笑)。

──そういった曲の作り方とも関係あるのかもしれませんが、アレンジの複雑さと音の重ね方は、ライヴでの再現を想定していないように感じました。

Die そういう縛りは一切ないんで。まったくライヴのことを考えていないということはないけど、スタジオでの作業中はそういう意識を超越してますね。

薫 “ライヴでどうしようかな?”と頭の片隅で考えてるけど、思い付いたものはしょうがないや、って(笑)。

──今回は京さんのヴォーカルが特にバラエティーに富んでいますね。グロウル、スクリーム、ハイトーン、クリーン、しかもそれらが重なっていたり。これ、ライヴでどう再現するんだろうなって思いました(笑)。

薫 歌ってくれって言われるんですよ。実際はそんな簡単にはいかないですけど(笑)。

Die “誰かが歌ってくれるなら、このアレンジにしようかな?”とか言われるとイヤとは言えない(笑)。その時は“誰かが歌うんだろうな”ぐらいの気持ちなんだけど、実際に誰が歌うか決める時になると“うーん”って(笑)。変なリズムで入ってきたりすると手元がおろそかになりますからね。

──アルバムの制作期間中にはライヴもかなりの本数やっていますが、ライヴで曲を試すようなことはないのですか?

薫 ないですね。曲に関する情報をあまり教えたくないんですよ。曲の存在を知られたくない(笑)。初めて聴いた時に全てが初めての状態で聴かせたいんです。こうして取材をしてもらっていますけど、本当は発売前に喋っていろんな情報を知ってもらいたくもないんですよ(笑)。

──それは申し訳ありません(笑)。「DIFFERENT SENSE」と「VANITAS」の2曲にギターソロが入っていますよね。ここ最近のDIR EN GREYにとっては珍しいと思うのですが。

薫 「DIFFERENT SENSE」は俺、「VANITAS」はDieが弾いています。ここ何年かは、曲が始まったら一番手前にヴォーカルが絶えず存在するという曲がほとんどだったので、たまには違う人間の空気感が前に出ることがあってもいいかなと思って。そうすることでこのアルバムが持つリアルな感じに持っていけるんじゃないかなと。

──あと、これだけ曲の展開が複雑だと、特にドラムの録りは大変だったのでは?

Shinya ドラムって他の楽器よりも先に録るから、曲ができてから録りまでの時間がそんなにないじゃないですか。その間に、暗記力を発揮して憶えるんです(笑)。

──アルバム全編に渡り、ヘヴィなサウンドでありながら、これまで以上にクリーンで、それぞれの楽器の音が鮮明に聴こえましたが、これはチュー・マッドセンのミックスによるところも大きいのでしょうか?

薫 録りの段階からある程度音の位置を決め込んで作っていったのはあるけど、彼のミックスは一発目が帰ってきていきなり満足でした。予想以上にはまっていて。

Shinya 「LOTUS」の時はミキシングエンジニアと何度もやりとりをしなければならなかったけど、今回は一発目からいきなり好みの音でしたね。だから、やりとり自体がとても早かった。

Die 今までになかったぐらいの衝撃を受けましたよ。自分たちが目指していた音に極めて近くて。ひとつひとつの音がクリーンで早い。ものすごいスピードで音が飛んでくる。

──アルバムを完成させた今、それぞれの目にはこのアルバムはどのように映っていますか?

Die 自分が完全に外部の人間として見たら、聴いたことがない音なんじゃないかな。こんな世界見たことない、って。

Shinya …不思議なアルバム(笑)。

薫 まだ客観的になれていなくて。正直、どういうアルバムか分かっていなですね。個人的には勝負に出たアルバムという部分が大きいんです。自分が信じた道をわりとストレートに出したつもりなんで、反応が怖いというのはあるかな。それが本当にバンドとして正解なのか、まだ自分の中で分かっていない。アルバムとしてのバランスを無視してやりたい放題やった感が強かったし。自分たちにしかできないバランス感覚で成り立っていると思うので、それをみんながどう捉えるかが、気になるといえば気になります。

取材:金澤隆志

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