2013-11-20

【amazarashi】キーワードは“伝える”“メッセージソング”

 2013年2作目のアルバム『あんたへ』は、amazarashiが、これから向かう方向を示す羅針盤のような作品になった。“メッセージ”を高く掲げ、飽くなき前進を続けるバンドの内部に今何が起きているのだろうか?

 【活発な活動の中に見える “実在するバンド”への歩み】


 2013年のamazarashiの活動は、これまでとは異なる新たな試みを交えながら、例年以上に活発な印象を刻んで現在に至る。4月にリリースしたアルバム『ねぇママ あなたの言うとおり』はオリコンCDチャートで初のトップ10入りを果たし、それに続くツアーでは渋谷公会堂2デイズを成功させるなど、ライヴバンドとしての存在感も大いにアピール。8月には初めてのフェス出演となる『RISING SUN ROCK FESTIVAL』や、9月にはTK(from凛として時雨)との対バンライヴも開催。さらに秋田ひろむとして中島美嘉に楽曲提供したことも大きな話題を呼んだ。特にライヴでは秋田ひろむをはじめメンバーの姿が以前よりもくっきりと見えるようになり、謎めいた存在感がより実感を伴ったものになりつつあるというのが、2013年のamazarashiを語る上でひとつの結論と言っていい。

 そして、前作からわずか半年で届いたニューアルバム『あんたへ』。秋田ひろむの念頭にあったのは“伝える”“メッセージソング”ということで、ここで聴ける言葉がこれまで以上に聴き手の心に寄り添い、励まし、親密な呼びかけのように感じられるのは、そうした秋田ひろむの意識の変化がなせる技だ。匿名希望のバンドから、実在を証明するバンドへ。今回は再び秋田ひろむにメールインタビューを試み、『あんたへ』にまつわる彼の思いをたっぷりと語ってもらった。


 【初めての能動的なメッセージに “リスナーに対してのけじめ”がある】


──新作の話に入る前に、今年のこれまでの活動について振り返らせてください。初めて夏フェス『RISING SUN ROCK FESTIVAL』に出演したのはどんな体験でしたか? そして、出演することで何か意識が変わったことは?

「正直お客さんが来るのかどうかも心配だったんですけど、たくさんの人が観てくれて嬉しかったです。普段のamazarashiとは違う盛り上がりがあって楽しかったですね。意識が変わったとかはないんですけど、フェス特有のプレイの仕方があるんだな、と思いました。あとは、いろんなバンドを観て回って、いろんなやり方があるなーと思いました。」

──中島美嘉さんのシングル「僕が死のうと思ったのは」は初めての楽曲提供でしたが、バンドとの違いなど、どんなことを感じた経験でしたか?

「曲提供の話が来た時点で何曲か聴いてもらって、その中で「僕が死のうと思ったのは」は絶対中島さんに合うだろうと思ってたら、実際歌ってくれたんで嬉しかったです。完成した音源を聴いた時も間違いなかったなと思いました。ただ、僕は作家にはなれないなと思いました。歌の譜割りとか、言葉の詰め込み方とか、自分で歌う時は適当に雰囲気で歌ってるんですけど、人に提供する時はもっとかっちり作らなきゃいけないんだなーとか、いろいろ勉強になりました。」

──9月30日の恵比寿リキッドルームでのTK(from凛として時雨)とのツーマンライヴについても伺いたいのですが。これも珍しい試みでしたが、やってみてどんなことを感じたかを教えてください。

「スタイルというか、音楽的に別物のようで意外と近い部分もあったりして、お客さんが静かに聴き入るライヴの感じとか、結構合うところもあって良かったです。演奏的には、もうみなさんすごい人たちなんで、なんか盗んでやろうと思ってリハも本番も観てました。」

──ニューアルバム『あんたへ』の話に入ります。前作『ねぇママ あなたの言うとおり』から8カ月という速いペースですが、前作が出る前から制作を始めていたのでしょうか? 『あんたへ』の構想がスタートしてから制作に入るまで、どんな経緯があったのか教えてください。

「今回は出したい曲が溜まってたので、わりとすんなり曲は決まって曲作りを頑張った感じはないんですが、前作が完成したあたりから、漠然と次はどうしようかなというのは考えていました。「あんたへ」をアルバムの中心にしたいと考えてたのが始まりです。」

──その「あんたへ」を聴き直したことが、このアルバムへのきっかけだと聞きました。その時どんなことを思ったのか、改めて教えてもらえますか。

「アマチュア時代から毎回歌ってた曲なんですが、ずっと忘れてて、次のアルバムのことを考えながら昔の曲を聴いていたら「あんたへ」が流れて、久々に聴いたのもあってすごい客観的に聴けたんですよ。自分が作った歌じゃないみたいな感じで。それで言葉がスッと入ってきて、自分で感動しちゃって、これは絶対リリースしなきゃダメだと思いました。僕は自分のことを客観的に見るのが苦手なんですけど、なんか昔の自分に励まされているような感覚になって、これしかないという気持ちになりました。」

──その他の曲を、完成した順番に教えてください。そして、それはアルバムへ向けてのコンセプトやテーマに沿ったものだったのか知りたいです。

「「あんたへ」と「ドブネズミ」は昔作った歌です。「終わりで始まり」は前回のDVDで弾き語りで入ってたので、多分、去年か一昨年くらいの曲です。それ以外の4曲は最近作った歌です。「あんたへ」を中心に考えて、何となくメッセージ的に近くてバリエーションがあるように曲を選びました。何となく僕の中で“メッセージソング”とか“伝える”ということがキーワードでした。」

──1曲ずつ話を聞かせてください。「まえがき」には《これからのあんたへ捧ぐ》という、2曲目につながるフレーズが出てきます。この曲は、どんなふうに作った曲ですか?

「「あんたへ」自体は自分のために作った歌なんですが、今回入れるにあたって、外に向かって歌うべきなんじゃないかという思いがあって、この「まえがき」を作りました。これはあなたに向かって歌っているんだよ、という前口上のような歌です。」

──タイトル曲「あんたへ」について。当時、なぜこういう曲を作ったのか、そして何を言いたかったのか、今どんなふうに思っているのか…を教えてください。

「自分で自分を励ましている曲です。当時バイトしながら音楽やってて、将来のこともまったく見えなくて悶々としてて、落ち込んでいた時期に作った歌です。今、改めて聴くと自分が言われたかったことを歌っていたんだな、と感じます。それはamazarashiの曲全体にも言えることなんですが、「あんたへ」で気付かされた気がします。」

──「匿名希望」で《僕は君の代弁者じゃない》と繰り返したあと、《君の代弁者は君以外にいない》という言葉で締め括るところに強い感動を覚えました。この曲に込めた思いを知りたいです。

「「よくamazarashiの曲で励まされたとか聞くんですけど、結局、最後は自分が頑張るしかないという思いが僕の中にずっとあって、その人の弱さの拠り所になるような曲より、自分自身で立ち上がれる力を与える曲を作りたいと思ってて、こういう歌詞になりました。怒りで作りはじめた曲なんですが、自分自身がしんどくなってしまったのでこういう結末になりました。」

──「冷凍睡眠」はシリアスな現実と、どこかSF 作品のような設定とが交錯する、非常にイマジネーションを掻き立てる曲でした。この歌詞を書く時にはどんなことを考えていたのですか?そして、歌ではなくポエトリー・リーディングの長編に仕立てた理由は?

「新しい方法論を模索して作った曲で、とても実験的な曲です。もうメロディーなんかいらないんじゃないかと思う瞬間が何度もあって、実際、何度も挑戦してたんですけど、今回初めて上手くできたと思います。歌詞については、当時SF 小説を読みあさってたので、その影響があります。」

──「ドブネズミ」は、小さくても明るい確かな希望を感じる美しい曲だと思います。独白のようなこの歌詞は、どんな気持ちで書かれたものなのでしょう?

「この曲はラブソングです。でも、この世界を悲観している視点が下敷きにあります。こんな世界だけどなんとか生きていこうよ、というメッセージです。メロディーも構成も言葉もシンプルでとても気に入ってます。」

──「終わりで始まり」の歌詞は、解説を付け加える必要がないほどに純粋なものだと思いますが、どんな状況の時に書いたのかを知りたいです。特に《いつだって ここがスタートラインだよ》という呼びかけの言葉をどんな気持ちで書いたのかということを。

「辛いことも悲しいこともいろいろあっての今の自分で、その自分が今歌ってるなら、それこそがスタートラインじゃないか、という思いで書いた歌詞です。過去の自分と決別したい気持ちで書いた歌だと思います。」

──「あとがき」について。「まえがき」と連動するものだと思いますが、この曲単体としても重要な曲だと思います。希望と不安が交錯する、それでも希望が多いように感じるこの曲について、思うところを教えてもらえますか。

「アルバムの全体像をイメージした時「終わりで始まり」がエンディングだと決めていたんですけど、もうちょっと現実的な日常を生き抜いていくような余韻になればいいなと思って、僕の日常を切り取る感覚で作りました。いろいろあったけど日々は続くんだよ、っていう終わり方にしたかったです。」

──今までたくさんのアルバム、ミニアルバムを作ってこられましたが、『あんたへ』はその中でもどんな作品になりましたか? ここにだけある感覚や、今までとは違うところはありますか?

「初めての能動的なメッセージだと思います。今までの曲もメッセージソングだったと思うんですが、僕自身が“そんなつもりないよ”と言ってしまうのは、もう違うんじゃないかと思っています。リスナーに対してのけじめみたいな気持ちがどこかにあると思います。」

──最近の秋田さんの生活について。何か変化はありましたか?もしくは、これからこうしよう、と思っていることはありますか? 単純に生活のことでも、創作のことでも、どちらでも構わないので、思っていることがあれば聞かせてください。

「変化は特にないです。むつ市から青森市に引っ越したのが去年で、もう一年くらいでしょうか。相変わらずこもって曲作りばかりなのであまり変わらないです。曲作りの環境はもっと良くしたいですね。機材とか。」

──1月~2月にはツアーが決まりました。どんなライヴを観せたいか、そして今までと何か変化はありそうなのか、今思っていることを教えてください。

「『あんたへ』の世界観を過去の曲を交えて、どうやってライヴに落とし込むかを考えているところです。アルバムでの落としどころから一歩進んだ結末というか、余韻を持たせられたらなと思っています。」

──武道館などの大会場でワンマンライヴをやることに興味はありますか? そういうことも含めて、“amazarashiのライヴのやり方”について、今思うことを教えてください。

「今やってるような会場でも大きすぎると思ってるくらいなんで、武道館は想像できないですね。あんまり大きいところでやることに意味はないと思います。観たい人が集まった人数のキャパでやれるのがベストだと思います。」

──来年の活動について、何かテーマのようなものはありますか? 2014年の抱負をお願いします。

「変わらずにいい曲を作って歌えたら嬉しいです。それがずっと続けられるように頑張ります。」

取材:宮本英夫

(OKMusic)


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