2012-12-20
【特撮】大人になると歌詞も衝動よりも技巧に走るところがある
昨年6月にアルバム『5年後の世界』で5年振りに再始動した特撮が、ニューアルバム『パナギアの恩恵』をドロップ! 特撮らしくもあり、さらに振り幅も広げた新作について大槻ケンヂ(Vo)に語ってもらった。
──前アルバム『5年後の世界』の取材時、リリースツアー後は何も決まっていないとおっしゃっていただけに、こんなに早く新作が聴けるとは思っていなかったです。アルバムの出来栄えやツアーの手応えが良かったから、その勢いで今作ができたという感じですか?
「いや、これは…メーカーから“出さないか?”って話をいただいて、“出しますよ”って返したという(笑)。でも、ライヴなり、アルバムが各方面に評価された結果だと思うので、そういう意味では“勢いに乗った”と言えるかもしれないです。」
──前作はセルフカバーが中心でしたが、今作は新曲ですしね。今作を作る際に何かビジョンはあったのですか?
「前作も何曲か新曲を作ったんだけど、ちょうど3.11の東日本大震災や原発の事故があったんで、それに影響された部分がかなりあったんですよ。あと、自分の書く歌詞を読み返してみると、やたら人が死んでしまったり…まぁ、今回も死んでるんですが(笑)、ダークな面があるなって。なんで、メンバーに“今回は明るい歌詞にするからね”って言っておいたんです。そしたら一番多く曲を作ってきたナッキー(NARASAKIの愛称)の曲に、哀愁のあるメロディーのものが多かったんですよ。“あれ、なんで? どうして?”って訊いたら、歌詞が明るくなるから曲調は哀愁を帯びたものにしたんだと。そのほうが楽曲的に活きるみたい。なるほど納得。」
──歌詞はそんな楽曲を聴いて書いていったのですか?
「最後の『ミルクと毛布』は僕が作った曲なんで、それ以外はテーマを投げ掛けてくれって言われて…例えば『じゃあな』って曲は、アニメ版の『時をかける少女』の主人公の女の子が空を飛ぶように走っている絵があって、それを見せて“こんな感じの曲を作ってきてくれ”って言った覚えがあります(笑)」
──そうやって作ってもらった曲を聴いて、歌詞を乗せていく?
「ん~、でもね、“こういう詞にしよう”と思って書いてもそうはならない時が稀に…いや、よくあります(笑)。『薔薇園 オブ ザ デッド』は最初ね、中野で生まれた少女が羽田まで自転車で行って、羽田って倉庫がいっぱいあるんで、その倉庫をひとつずつ開けて見ていくっていう内容だったんですよ(笑)。だけど、今回は物語的な歌詞が多かったので、この曲は物語性のない、よく分からない雰囲気モノにしようと思って変えました。なんか怒っていて、混沌として、パンクだなってことだけが伝わればいいっていう歌詞にした。」
──逆に、物語的なものが多いのは、自然とそうなったのですか?
「小説も書く人間なので、一般の作詞者と違うところがあるんでしょうね。物語を作っちゃうんですよ。あと、物語の歌詞のほうが覚えやすい。大人になると歌詞も衝動よりも技巧に走るところがあって、そこが良くもあり悪くもありですね。」
──物語的な歌詞って、大槻さんらしいですけどね。やはり「鬼墓村の手毬歌」や「13歳の刺客 エピソード1」の歌詞は小説を書く感覚だったのですか?
「そういうところはありますね。『鬼墓村の手毬歌』はよく読むと見立て殺人のお話で、動機もちゃんとしているんですよ。ミステリーファンが聴くと“おっ、ちゃんと考えているんだ”って思ってくれるんじゃないかな。」
──「13歳の刺客 エピソード1」の物語も壮大ですよね。
「エディ(三柴 理の愛称)がすごい曲を作ってきたからどうしょうと思ったんだけど、エディは『大江戸捜査網』のテーマ曲が好きだから時代劇でいこうって(笑)。で、今回の歌詞って少年少女…特に少女の誕生から巣立っていくまでを見守っていくような歌詞が多かったので、これもそういうものにしようと思って、『13人の刺客』という映画があったから“13歳の刺客”にしてみようと(笑)。姫も13歳で、刺客も13歳で、そんなふたりの逃避行もので、お父さんが自分を裏切った息子に対して13人の刺客を揃えて…ってところで“to be continued”となるんでしょうね(笑)」
──そういう絵が歌詞を書く時に浮かんでいたのですか?
「“SFは絵だ”って言った人がいたんですけど、僕も“歌詞は絵だ”って思っているところがあって。“こんな絵柄がリスナーの目の前に広がればいいな”と思っているところがあるんですよ。」
──あと、先ほど話にも出た「ミルクと毛布」は大槻さんが作られたとのことですが、どんな曲を作ろうとしたのですか?
「これはね、僕は40代半ばにして突如アコースティックギターの弾き語りを始めたんだけども、コードをいくつか覚えたから曲を作ってみようと思って作った曲なんですよ。だから、最初は特撮用じゃなかったんだよね。初めてギターで曲を作ったからどうかなと。でも、今回のアルバムのテーマにもはまったので良かったなって。」
──歌詞も同時に?
「レコーディングのちょっと前に書いたのかな。生まれて初めてギターで作った曲なので、たどたどしくなったんですね。そのたどたどしさが子守唄っぽいと思ったんで、こういう歌詞になったってのはありますね。だから、この曲で始まって『じゃあな』で終わると、ひとりの生命の誕生から巣立っていくまでを描けて、コンセプチャルになったんだけど、ナッキーが『薔薇園 オブ ザ デッド』で始まりたいって言うから…僕も近頃は頑さがどんどんなくなって、“それも、いいね”って(笑)」
──「薔薇園 オブ ザ デッド」で始まるのは特撮っぽくて良かったですよ(笑)。そんな本作ですが、さらに特撮の振り幅を広げ、深めた感じがありました。
「充実感ってものが、特撮を始めた頃って疾走感や爆発感…ライヴにおいても全力を使い切ることで得ていたんですけど、充実感ってそれだけではないだろうって。抑制された中での音楽的な充実感もあってしかるべきじゃないかと思ってるんですね。今回、爆発感も疾走感もありますけど、エモーションをコントロールしている部分が多々あるので、そこが新機軸なんじゃないかな。ギラ付いた部分があまりない…まぁ、みんな大人だからなぁ(笑)」
取材:石田博嗣
(OKMusic)
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