2012-12-20

【flumpool】目の前の君に向けた3rdアルバム『experience』完成!

 flumpoolが2年振りのアルバム『experience』を完成させた。この間にリリースしたシングルを含めた14曲は、彼らの意識の高まりを指し示す仕上がりになっている。みんなではなく、ひとりひとりに届けたいという思いを受け取ってほしい。


 【そこに笑顔の可能性があるなら自分たちが音楽をやる意味がある】

──タイトルが“experience”ですけど、前のアルバムからの2年間の経験を詰め込んだ、ということになりますか?

山村「その通りです。この2年間の経験をしっかり音楽にしなきゃいけないと思いました。もともとは、アルバムのために曲作りを始めたわけじゃなくて、2本のツアーを回りながら、今伝えたいことはこれだ!って自分たちが納得できるような曲を作っていった感じです。」

──ツアーの経験が大きかったようですが、今までのツアーとは違った感触を得られたのでしょうか?

山村「違いましたね。シングルで出した「Because… I am」っていう、今作にも収録している曲を軸にして挑んだツアーだったんですけど、震災があって、みんなで頑張ろうっていう2011年があって、それから2012年をどういうふうに生きていくかを考えている中で、僕らはバンドとして何かを見付けていくんじゃなく、まずはひとりひとりがスキルアップしなきゃいけないし、自分が出す音に責任を持って届けなきゃいけないと思ったんですね。自分ができることを探すんじゃなく、できることをやるツアーにしたいと。だから、失敗もあったし、悩むことも多かったけど、「Because… I am」っていうものを掲げたからには、生温いライヴをやっちゃいけないと思ったし。常に初日であり、最終日だと思ってやっていたんで。一本ライヴが終わるごとに倒れそうになったけど、何か精神的には次のライヴに向かっているっていう感じでしたね。」

──「Because… I am」は、《生まれてごめん これが僕です》というフレーズが印象的で、シングルだと刺激が強すぎると思うくらい鋭い楽曲ですけれど、相当な覚悟があったんじゃないですか?

山村「相当でしたね。ただ、ツアーでは一期一会を感じていたので、自分たちにとって今しか伝えられないこと、個に立ち帰って胸を張って生きていこうっていう…だから、今までの僕らの優しいイメージを覆してでも、もっと挑戦的に物事を発信すべきじゃないかなって。それで、強い言葉も多いんです。賛否両論あるとは思いましたけど、今の世の中において人にものを届けるには、自分から踏み込んでいかなきゃいけないと思うんですよ。サッカーで言うと、ペナルティエリアの外でシュートを打つようなことは違うと思っていて。ペナルティエリアの中でしっかりぶつかって、届けていかなきゃいけないと思うんですよね。そういう覚悟はしていかなきゃいけないし、受け入れられない人には届け続けなきゃいけないと。そう思って書いた曲です。」

──確かに、優しいイメージがflumpoolにはあると思うんですけど、そういうことは気になっていたのですか?

小倉「イメージをどう持たれてるかは置いておいて、「Because… I am」っていう曲は、flumpoolっていうものを曝け出してくれる楽曲になりましたね。」

──曝け出す曲っていうところと、生身でぶつかっていくライヴっていう現場は、シンクロしているような感じはしますね。

小倉「ツアーが始まった直後は、上手いこと噛み合っていなかったところもあったんですよ。楽曲とのバランスとか、お客さんとのバランスがとれていないところも多少あったりはしたんですけど、それが徐々にいい感じになっていって、今まで以上にこの楽曲に見合ったように自分たちを曝け出せるようになっていったんで。そういう意味ではシンクロしていきましたね。」

──阪井さんはメインの作曲家として、どんなイメージでアルバムに向かっていきましたか?

阪井「作りたい曲を作ってきた2年間だったんで、特にアルバムに向けてどういう曲を作るとは考えていなかったですね。」

──コンセプトがなかったという?

阪井「今まではあったんですけどね。今作に関しては、あえてコンセプトは掲げず、この2年間の経験を全て詰め込んだっていうところですね。今思うと、2年前にはできなかったような曲もあるし。ツアーもあったし、震災もあったし、生活をしている中で変わってきたとは感じました。」

──震災は作曲家として影響を受けましたか?

阪井「その直後に曲を作ったりもしましたけど…どういう変化かっていう答えはないですね。でも、自分の気持ちの中で変化はあったし。あんな時だったから、いろんな音楽を聴いて、励まされて、それで人生が変わった人もいただろうし、自分たちもそんな音楽を作りたいと思って始めたので、改めて原点に戻れたところはありましたね。」

──山村さんは、作詞家としてはどうですか? 特に1曲目の「どんな未来にも愛はある」の《ただ、あなたが笑ってくれるから 僕は生きてゆける》っていう歌い出しは、今のflumpoolの指針のような一節だと思いましたよ。

山村「この曲は震災があった後、最初に書いた曲なんです。実際に被災地に行って、「証」を合唱してくれる中学生に会ったんですけど、そこで出会った子が“自分の身の周りにはもっと苦しい人がいる。だから、自分も本当は悲しいけど、そんな場合ではなくて、この歌を通して、誰かを勇気付けたい”って言っていたんです。その姿を見ると、僕らが歌って人が喜んでくれるんじゃなく、人がいてくれるから僕らは歌うことができるっていう、そういうことを思ったんですよね。そこに笑顔の可能性があるなら、自分たちが音楽をやる意味があるって。そういう時に、じゃあどういう曲を歌おうかって考えて、できていった曲なんですね。」

──かなりダイレクトに影響が表れていますね。

山村「まぁ…震災があったから変わったということは、僕はあんまり言いたくないんです。っていうのも、震災が起こる前から世界ではいろんな大変な出来事が起きていて、苦しんでる人や悩んでいる人がたくさんいたわけだから。だけど、震災は身近すぎましたから、やっぱり考え方や感じ方が変わったんですよね。震災までは、目の前の人に“明日もこいつに会えるかな?”なんて思ったことはなかったから。やっぱ平和だったんでしょうね。震災によって、当たり前が当たり前じゃなくなってしまいましたから。」

──これまでもflumpoolは“みんなの歌”的な楽曲を生み出してきたと思うんですけれど…。

山村「今回はむしろ“みんなの歌”よりも掘り下げていくことが、僕らの使命だと思ったんですよね。ツアーでも十万人近くの人と向き合ったんですけど、実際に届けたいのはそこにいるひとりひとりで。たくさんの人を動かせなくても、たったひとりでも、その人の人生が変えられたら、僕はそれでいいなって思うんです。これまでも、同じ時代に生きている人は何か共有しているものがあったから、それがムーヴメントとなってきたと思うんですよ。僕らが挑みたいのはそこで、J-POPってみんなが好きって言ってくれる歌がいいっていうイメージになってるけど、それはどうかなって。いろんな意見が出てくることが、価値観が多様化する現代においては本当だと思うし、そこで受け入れられるものを目指すべきだなって思いましたね。目の前にいる人に明日は会えないかもしれないとしたら、みんなに届けている場合じゃないだろ、って。」



 【バンドでストリングスの中に飛び込みたいなって思ったんです】

──なるほど。だからなのか、ポップなんだけど濃い楽曲が多いですよね。「Answer」はストリングスが入っていますけど、いわゆるJ-POP的な柔らかさを加味するためではなく、クラシックのようにアグレッシブに煽られるようなアレンジになっていて。

小倉「仰られた通りで、今までも僕らはストリングスを使ったアレンジをやってきましたけど、バラードだったり、柔らかい雰囲気の曲だったんですよね。で、これと似て非なる曲で「reboot~あきらめない詩~」があって、アッパーなんですけどストリングスが入っているっていう。ただ、それもバンドが中心にあって、ストリングスが囲んでいるようなイメージだったんですよ。それはそれで良かったんですけど、こうやってツアーを回ってきて、演奏のレベルは上がってきているんで、バンドでストリングスの中に飛び込みたいなって思ったんですよね。楽曲的にもドラマチックにしたかったので。ツアーの前だったら、こういうアレンジをやっても僕らのほうが負けていたかもしれないですよね。それが、こうやって長いツアーを経ることによって、負けない自信が付いたっていう。そことは、こういうアルバムができたっていうところにもつながってきますけどね。」

──バンドが鍛えられたから、バンドだけでアレンジするっていうやり方もあると思うんですよ。それがflumpoolの場合、他のものに飛び込んで強度を知らしめるっていうのが興味深いです。

小倉「そうですね。今作を聴いてくれたいろんな人に“バラエティー豊かだね。それでもバンドっぽいよね”って言われるんですよね。自分でも聴いていて、バンドとして筋が通ったアルバムになったなって思ってたんで嬉しかったですね。どんなアレンジをしてもバンドサウンドが立つので、こういうアルバムになっていったっていうか。」

──阪井さんは、アレンジに関してはどう思っています?

阪井「いろんな曲にチャレンジしたいっていうのはありました。今まで、曲作りをギターと歌だけでやっていたんですよね。でも、この2年間でできることがどんどん増えていったんです。自分でストリングスを打ち込むこともできるようになったり。機材も増えたし、知識も増えたし、自分の頭で考えていたことをかたちにできるようになったんです。だから、自分がこういう曲を作りたいっていう理想まで近づけるようになったし、今までやっていなかった曲も作れるようになったんで。」

──特にチャレンジを果たせた曲を挙げるとすると?

阪井「「イイじゃない?」ですかね。曲はいつもメロディーから作るんですけど、この曲は自分の中でアレンジができていたんで、歌なしでホーンとかまでがっつり固めていって、そこからメロディーを乗せていったんですよね。」

──だから、動物的に踊れるような感覚があるのかもしれないですね。歌詞のエロい感じもマッチしていていいです。

山村「ツアー中に作っていて…バカになるじゃないですけど、昨日の苦しみや明日の悩みは、今日を楽しむためにあるんだと思えばね、何でもいいじゃない?って。ある種無責任に楽しむのが、ライヴの開放感だと思うので。そこをいい具合に歌詞にしました。」

──アルバムを通して、遊び心あり、シリアスありっていうflumpoolらしさが堪能できるという。

山村「そうですね。「イイじゃない?」から「Across the Times」は、特に温度差があるっていう(笑)。でも、ライヴっぽいんですよ。「イイじゃない?」の後にMCを入れるかな、とか想像できるし。」

──セットリストを考えるように曲順も作ったのですか?

山村「いや、そこまで、これでライヴを組めるようにとかは考えていなかったですけど、メリハリの付け方はセットリストに近いものがあると思いますね。」

──最後がささやかに「36℃」で締め括るところもいいですね。

山村「最初と最後の曲は、早い段階で決まったんですよ。広い愛を歌う「どんな未来にも愛はある」から、部屋で歌うような「36℃」に向かう流れは、ツアーでたくさんの人と向き合って、でもやりたいことはひとりに届ける音楽だって思った心情が表れていますね。」

──今作のリリース後にも、年明けには横浜アリーナと大阪城ホールでライヴが予定されていますが。

山村「2か所っていう限られた場所での開催ですけど、全国からみなさん来てくれると思いますので、その時だけしか感じることのできないライヴを観せたいですね。」

尼川「ホールで長いツアーをしてきたので、そういうライヴをアリーナでもしたいと思います。」

──アリーナという巨大な会場ですけど、さっき仰っていたようにひとりひとりに届けるようなライヴになるといいですね。

山村「そこは挑戦ですね。一番後ろの人も、一番楽しんでいるって思えるようなライヴにしたいです。」

取材:高橋美穂

(OKMusic)


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