2012-07-20

【シド】自分たちの中でアツいものを表現しつつ良いメロディーを出し続けていきたい

 一昨年に東京ドーム公演を見事完遂して以来も、バンドとしてスケールアップを続けるシドのニューアルバムがついに完成した。“良いメロディー”を軸に“自由”な音楽を追求する彼らの独特な音楽観を、本作『M&W』の制作秘話をもとに探ってみよう。


 【得意分野で全曲書くとどうなるかそういうワクワク感があった】

──現在開催中のツアーはタイトルが“『M&W』 preview”ということで、『M&W』収録曲もすでに披露されているのですか?

マオ はい。アルバムの新曲でやってるのは、「ドレスコード」と「gossip!!」ですね。あと、シングル曲もやってます。

──ライヴで初披露してみて、手応えはいかがですか?

マオ 悪くないですね、全然。ウチのお客さんは飲み込みが早いので(笑)、新曲をやっても、曲の半分ぐらいまでいけばもう自然とノッてるというか。最初は戸惑ってた感じの人でも、最後は笑顔になってくれてたり。

──今回の新曲では、今の話にあった「gossip!!」などは特にライヴでは盛り上がりそうな気がします。曲の中のギターとベースの掛け合いなどは、ステージでふたりが向かい合いながらパフォーマンスする画が浮かぶようだし。

明希 そうですね。ギターとベースの見せ場からドラムへ…みたいなアプローチは今までの曲ではあんまりなかったんで、やってても新鮮です。パートそれぞれの見せ場みたいなものは今までも曲の中にいろいろあったんですけど、ああいうモロな感じの見せ場はなかったっちゃあ、なかったかもしれないので。

Shinji あと、この曲は演奏する側としては非常に難しい曲で、最近ようやくしっかりノレるようになりましたね(笑)。一見パンクっぽい感じもする曲なんですけど、実は結構難しいことをやっていたりするので。

──そういうライヴ映えしそうな曲からテクニカルなアプローチ、シングルにもなった「冬のベンチ」などのメロディアスな曲まで、すごくバラエティーに富んだ楽曲が展開されているなという印象を今作からはまず感じました。みなさんの中では、テーマやコンセプト的なものを何かしら持って制作に臨まれたのですか?

マオ 今の話みたいなライヴっぽい感覚を意識しているだけでもないし、逆に“CD”らしい感覚を意識しているだけでもないし…あんまりライヴライヴしちゃうと、曲調も偏ってくるだろうなと思うんで。ウチらの場合は、シングル曲を軸にして、“こういう曲が足りないね”みたいなのをそこへどんどん埋めていくっていうやり方なので、“今回はこういうコンセプトで~”っていうことはあまりないんですよ。だから、今回のアルバムに対してあったのは、まず単純にその時にメンバーそれぞれのアツい曲を入れていくっていう。というのと、今回はタイトルが“M&W”ということで、歌詞に関しては男と女の話でまとめたいなっていうやり方は初体験でしたね。

──『M&W』の由来は、“Man”&“Woman”なんですね。“男と女”が繰り広げるさまざまな駆け引きや物語。

マオ そうですね。こういう歌詞でアルバムを統一させたいっていうのは、今回が新たな試みでした。もともとウチは、そのテの歌詞が多かったんですけど。恋愛だったり、恋愛まではまだいかなかったり、そういう“男と女”のいろんなお話が多くて。一時期はそのテの歌詞から離れようかなっていう挑戦の時期もあったんですけど、そこから一周して、結局自分の中では得意分野になってきたなって思えたんで、その得意なヤツをアルバム全曲で書いたらどうなるのかなっていう。今回のアルバムは、そういうワクワク感が自分の中ではありました。

──その“男と女”というテーマの歌詞に対して話を戻すと、楽曲的にはすごく幅広いテイストが揃っているなという印象があります。今回の選曲はどんな感じで進めていったのでしょうか?

明希 さっきもちょっと話に出ましたけど、まずシングルがありつつ、それを軸にしてこういう曲が欲しいよね、こういう曲も欲しいよねって考えてみんなが曲を持って来たり。また、逆にこういうのがあったら新しいんじゃないかっていうところから曲を作ることもあるんで、自由度はかなり高いんじゃないかなっていう。“これはなし”っていうのが、ウチはほぼないんで。

──自由度が高い分、新たなことへの挑戦という部分では今回は試行錯誤や難産だった曲も多かったんじゃないですか?

Shinji うん、ありますね。難しいし、そういう場面は多々ありますけど(笑)、その曲がカッコ良いなと思えたら挑戦してみたいっていうのが、逆にあるんですよ。

マオ 「ゴーストアパートメント」とか「Cafe´ de Bossa」は、そういう感じが特にするかもしれないですね。こういう曲はリズムに乗れないと世界観が表現できないんで、まずはとにかくリズムに集中して臨んで。ヴォーカルとしてもかなり高度なことに挑戦してると思うんで、“昔の自分じゃ歌えなかったかな”とか感じながら歌ってました。あとは、ジャンルが幅広いっていうのはウチはもうずっと変わらないんでそういう部分での驚きはなかったんですけど、一曲一曲それぞれの世界観に極端に寄り添ってみようかなっていうのは、今回は歌に関してはありましたね。


 【お客さんの心を乗せる身体の内側から乗せる音楽】

──「ゴーストアパートメント」は明希さん、「Cafe´ de Bossa」はゆうやさん作曲ですが、この全然テイストが違う2曲だけとってもシドの自由度の高さが表れているような気がします。

ゆうや かもしれないですね。自分の曲に関して言えば、「冬のベンチ」とか「残り香」はシングルになって、このアルバムにも入ったんですけど、「Cafe´ de Bossa」は今回のアルバムに向けてっていうわけではなくもうちょっと前に作ったもので、どっかで出せたらいいなってずっと思ってたんです。で、その段階のかたちで最終的に活かしたのはほぼメロディーラインだけで、このアルバム用に曲を再構築したっていう感じだったんですよね。イメージとしては、曲を作ってた段階からライヴを結構意識してたというか…ロックっぽく暴れたりする感じじゃなく、すごく明るい感じのサウンドというか、ただただ聴いてる人が笑顔になれるような雰囲気って今までウチらのライヴにはあんまりなかったなと思って、そういう曲をやってみたかったんです。

──ちなみに、タイトルにもなっている“ボッサ”みたいな、オシャレな感じの曲とかも普段は聴くことがあるのですか?

ゆうや うん、聴きますよ。僕はわりと何でも聴くというか、“オイシイなこれ!”みたいな(笑)、吸収できそうなヤツだったら結構何でも聴くんです。例えば、街で普通にかかってるBGM的なものがすごく気になって、後から“何だっけあれ?”って調べて聴いて今まで知らなかった音楽を好きになったり。

明希 ジャンルを区切ったりとかはしないよね。だから、自分たちとしては、単純な話、ただ好きなものをやってるっていう感じというか。例えば、「S」みたいなテイストは個人的には結構好んで聴くんですけど。最近だとQUIETDRIVEとか、メジャーどころだとLINKIN PARKとか、挙げたらキリがない感じで(笑)。

──明希さんも、「S」みたいなラウド系の曲、「糸」や「ドレスコード」みたいな大人な雰囲気の曲、さらにホーンをフィーチャーした「ゴーストアパートメント」みたいな曲も。この多彩さは、確かにジャンルで区切られてる感じはしないですね。

明希 そうですね。「ゴーストアパートメント」は聴いてもらったら一目瞭然だと思うんですけど、まずはゴージャスにしたい、ハデな感じにしたいなと(笑)。という中で、音をあんまり綺麗にはしたくないっていうイメージもあって。ロックなスウィング系のリズムで、そこにギラギラした上ものが入るっていう世界観を狭い部屋の中で演ってる、みたいなイメージがこの曲には個人的にはありましたね。そういう曲と、今挙げてもらった「糸」とか「ドレスコード」みたいな曲も、自分の中では変な区切りはないし。だから、さっきも言ったけど“これはなしだよね”っていうのはウチはないし、メンバーみんなわりと何でもやりたいっていうタイプなんだと思うんですよ。

──Shinjiさんの曲も、サックスをフィーチャーしている「MOM」みたいなファンキー系の曲があったかと思えば、「コナゴナ」はアルバムのオープニングを疾走感たっぷりに飾っているのが印象的でした。「コナゴナ」の変化に富んだ展開を細かく組み込みながら、あくまでも疾走感のある展開は特に面白かったです。

Shinji ありがとうございます。「コナゴナ」は、もともとはメジャーセブンっていうギターのコード推しな曲を作りたかったんです。そこからからまずできたイントロの雰囲気から、バンド以外の音は入れずにスマートな感じの曲が作りたいと思って。しかも、ライヴではノレる!みたいな。で、これはデモの段階からかたちがあまり変わってないんですよ。最初はお任せでメンバーにやってもらって、みんなそれぞれの解釈でアプローチを変えてきて、そこからまたディスカッションしながら作り上げていって。基本的には自分の曲は最初はお任せで、そこからできたものに“ここはこうかな?”って意見交換をしながらっていう。

ゆうや ウチはわりとみんなデモの段階でほぼガッチリ作ってくるんですよ。音が全部入ってる状態のデモをみんな作ってくるんで、その曲のイメージはもう最初の段階からできていて、それをもとにして各自が広げていくっていう感じで。

明希 そう。作曲者のイメージはこうで、それに対して“俺はこうなんだけど”っていうやり取りをそれぞれの曲の中で繰り返していくんですけど、どういう曲をやるにしても違和感は全然ないんですよね。“こういうのは俺は好きじゃないからやらない”じゃなくて、“良い曲だから単純にやりたい”と。そのために自分はどう表現したらいいのかを、みんなそれぞれ考えていくので。だから、頭でっかちになって“俺はロックしかやらねぇ!”とかじゃなくて、どんなジャンルにもどんなテイストの音にもそれぞれのアツさって絶対あるから、そういうところで自分は表現していきたいなっていうのはありますね。

──さまざまな音楽からも感じるアツさを表現し続けてきた中で、結成以来“これだけは変わらない!”というバンドとしての芯があるとしたら、それはどんな言葉で表現できると思いますか?

マオ 例えば、激しい曲でライヴで乗せるっていうのは定番としてあると思うんですけど、しっとりした曲やら、さわやかな感じの曲とかでも、ちゃんとお客さんの心を乗せるっていうようなバンドでいたいというか。激しさで乗せる曲ももちろんやるんですけど、それ以外のところで、身体の内側から乗せるみたいな音楽でありたいなとは思ってますね。

Shinji 世の中にはいろんな音楽があるじゃないですか。いろんなジャンル、いろんな曲を自分も実際聴くんですけど、その中で良いなと感じたものはやっぱりやってみたいなって思ってしまうんで、今回のアルバムみたいなスタイルに自然となっている感じだと思うんですよ。逆に、“これ以外はやらない”っていうスタイルのほうが、僕は分からないんですよね。もったいないというか。コンセプトやテーマに沿って、その枠から外れない方向ももちろんあるとは思うんですけど、僕はヘヴィメタルも好きだし、さっきの曲のタイトルじゃないけどボサノバみたいな曲も聴くし。そういう、自分が良いなと感じたものに常に挑戦したいですね。

明希 そういう姿勢と、結成から変わらないのは…自分の場合は、音楽をやり始めた時から変わらないのは、メロディーが良いものがずっと好きっていう。

ゆうや うん。変わらないものは、やっぱりメロディーラインとかだったりするのかな。今回のアルバムでも、自分たちが本当に良いなと感じるメロディーラインを出し続けてると思うし。

明希 そうだね。リスナーとしてはインストっぽいものも自分は全然聴くし、好きな音楽はひとつだけじゃない。だからこそこのアルバムみたいにいろいろな曲に挑戦をしているっていうのと同時に、極論を言っちゃえば、自分たちの音楽っていうのはある種そこだけですよね。さっきも言った、メロディーが良いもの。自分たちの中でアツいものを何にも縛らず自然に表現しつつ、良いメロディーを出し続けていきたいっていうことだと思います。

取材:道明利友

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