この街の窓は
どれも高いビルの壁にさえぎられている
青白い光だけが彼の目に届いているんだ
雑誌やテレビで見た風景や
小説の中で思い浮かべてみた風景や…・・
まるで思い出をさぐるみたいに思い浮かべていた

"階段を上がっていくとねぇ
足音だけが妙に大きく響いていて
何度も「畜生」って呟いてるみたいに聞こえるんだ"

飛び降り自殺の現場を目撃した友達の話を思い出しちまって
それで そこから見える風景は妙にさびれていて
馬の調教場が見えて
たくさんの黒い棒がうごめいている

"そう 飛び降りて落ちていく人間も
黒い棒に手がはえた…・・そんなふうだ"
っていってたな

"その向こうにビルの無数に並ぶ街が見えるんだ
俺は いつのまにかそこにいて
でもね 誰も俺をわかってくれようとはしないんだよ
しょうがなくて俺は
その街を出ようとしたけれど
どこへ行けばいいのかわからなくてね
通りがかりの奴と喧嘩になっちまうんだ"

彼は やみくもに殴りつけるところを何度も想像した
彼は 鼻息を荒くして
そして相手を殺してしまうと我にかえって
自分の考えの馬鹿さかげんに笑った
唄ってみた
自分の声がはね返って聞こえるかと思ったけれど
下で馬鹿騒ぎしている連中にかき消されて
かえって淋しくなった

"見知らぬ街に辿り着くとねぇ
目に入るすべてのものが
この街にとってどんな意味をもっているのか
わからなくてね
俺が最初に気に入った店も
ほんとうはこの街じゃそんなにはやっちゃいなかったんだ"

空が少しだけ違うみたいに見えるし
彼は そんな思いを込めてもう一度唄ってみた
この街も変にイカれてやがる
いつまでたっても
街のけばけばしい明かりは消えようとしやしない
吐き捨てた唾液すら俺を見放しやがる

"なんだか ほんの少し気をゆるめると
俺のほうがだめになっちまいそうなんだ"

どうしようもない現実をかみしめるしかなかった
部屋がどんどん散らかっていくと
食がだんだん細くなっていた
彼は昔の友だちに電話してみた
相変わらずだったけど女の話しかなかった
そしてすげなく切られた
自分を裏切った女の名前を口にすると
前の部屋の隅から隅まで思い浮かんできた
何でこんなところに自分がいるのか
情けなくなってきたよ

何を信じればいい?
これはいったい、誰のことなの?

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