2012-05-20

【THEラブ人間】誰かの世界があっと言う間に変わるようなアルバム

 “恋愛至上主義”を掲げる音楽集団・THEラブ人間が結成3年目にして待望の1stフルアルバム『恋に似ている』を完成させた。聴いた瞬間から情景が浮かび、主人公と気持ちが通じ合い、気付けば感情が揺さぶられている本作について金田康平(歌手)が語る。

──バンド結成3年目にしての1stフルアルバムですが、何かイメージしていたものはありましたか?

作り始めの段階では何のイメージも沸いてなくて、大丈夫かなって思ってたんですけど、作っていく中でいろんなことが分かり始めて…この3年の間に作ってきた楽曲を入れるならば、それはやっぱり初期衝動と呼ばれるものになるんですよ。その瞬間にしか燃え上がらない気持ちというか。一度消えてしまったら、そこから再び火が付くことはないようなものをきっと詰め込むことになるんだろうなっていうのは録音しながら感じました。でも、そのまま進んでいくとベスト盤になっちゃいそうで、それだけは避けたかったからフルアルバムのために『悪党になれたなら』『わかってくれない』の2曲を書き下ろしました。ただ、心の中ではすでに2nd、3rdと次のアルバムについて考えてるから、書き下ろし2曲を録っていくのに漠然とした不安はありました。でもね、ちゃんと燃えカスみたいなものがあって、一見すると燃えなさそうなんですけど、それを何とか削り取ってパッケージすることができたから次につないでいけるアルバムになりました。

──アルバム『恋に似ている』を聴いて思ったのは、金田康平という人間がこの3年で何を思い、何を感じてきたのかが分かる作品だなと。一曲一曲出来上がった時期が違うと思うことも違っていて、金田さんの変化が記されていますよね。

根本がないんですよ。こうやってしゃべってることも、明日になったら言ってることが変わるだろうし。日ごとに変わっていく気持ちをつらつらと歌っていきたいだけなんで。“おとなになんてならなくていいのにね”って思う反面、“早くおとなになりたいな”って思う自分もいるし。ブラブラと不安定だし、明日なんか見えません。

──人から良いように思われたいから、本当に自分が思うことってなかなか言えなかったりするのですが、そういう迷いが一切ないんですよね。取り繕わずに、思ったことをそのまま出せているのが羨ましくて、だから惹かれるんだろうなと。

例えば、誰かと俺が新宿歌舞伎町を歩いてて、同じ方向を見ても、目で捉えているものが違うんじゃないかなって。誰かは目の前にザラーッと流れていく人波をひとつの個体として受け取るとしたら、俺はね、その人波をひとりひとりの人間として見てる。みんなは大きい括りで見れてるんだろうなって思います。そのほうがシステマチックでスムーズに処理できるんだろうけど、俺は人間として生きづらい世の中で人間として生きることだけは止めないってことです。

──それがライヴになると如実に表れていますよね。大勢に歌いかけるというよりも、“君”というひとりに向かって歌いかけていて。本作を聴いていても、“私に歌いかけているんだ”って気持ちになりました。

渋谷CLUB QUATTROでのワンマンで750人ぐらい入ってたんですけど、ステージから観てる景色は750人じゃなくて、“ひとり×750”って感覚で。いつからこんなふうになったかは分かんないですけど、“君”とか“お前”とか“あんた”とか。CDを作る時も同じようなイメージです。そうしないと自分の意識も心も薄まっちゃう気がして…怖い。生きるのが怖くなっちゃうんで、ひとりに向かって歌おうと思います。CDもそう聴こえてるんであれば嬉しいですね。

──個人的には「大人と子供(初夏のテーマ)」で綴る、《好きな人は27才です 僕はもう(19才じゃないのです)》の描写が好きですね。いつまでも綺麗な思い出として心にいる好きな人と歳を重ねてしまう自分…当時に比べて何か汚れてしまったような自分がやるせなくて。

《僕はもう(19才じゃないのです)》っていうのが、この曲の全てで。19歳じゃないっていうのは、それだけ時間が経ったんだよ、何かが変わったんだよっていう。そのことを言いたいがために『大人と子供(初夏のテーマ)』を書きました。

──「りんごに火をつけて(Light My Apple)」は、好きな人ができて舞い上がっている感じがしましたよ。

THEラブ人間で一番最初に作った曲ですね。2009年の1月に結成で、結成した日に作りました。キーボートのツネ・モリサワと僕とで結成したんですけど、その日の深夜のスタジオで作りました。その時に好きだった子のことを歌ってたから…確かに妙に浮かれてますね(笑)

──気になったのが「八月生まれのきみの結婚式」で使われる“他人”という言葉。一般的に“他人”という言葉からは良い印象を受けませんが、同曲ではそうは感じませんでした。恋人だったふたりが別れ、他人になることで前進できると言いますか。

“他人”って当たり前なことだよなってずっと思っていて。友達、家族、恋人も自分以外は他人。過激な歌詞だったり、普通と違う歌詞だと言われるんだけど、言葉の力を信じすぎてはいないかって思うんですよ。言葉に惑わされて、物事の本質までいけてない気がする。だから、THEラブ人間の考えが一般的になってほしいですね。

──では、これまでライヴでやってきた曲たちをかたちにしていくという作業はいかがでした?

イライラしました(笑)。知識が追っついてなくて表現し切れなかった部分があったり、なかなかイメージが人に伝わらなかったりしたんですけど、そういう制作過程じゃないと意味がなかったのかなって今は思います。最初のアルバムからあんまり完成品を提出したくなかったんですよね。“本当はこうなればいいんだけどできない”っていうのは、このアルバムで歌ってる通りのテーマなんです。“自分の意志とは裏腹にこうなってしまう。うまくいかねぇな”っていうのをメンバー全員で共有できたことに意義があったというか。この『恋に似ている』ってアルバムの主人公である金田康平さんは、この10曲でずっと生きていくことにもがいているから、制作自体も最後の最後まで模索して、転げ回るような人たちが録ったよっていうのが伝わるアルバムになって良かった。生々しくバンドの現状が投影されてる気がします。歴史的な名曲がそろってるわけでもないですけど名盤です。誰かの世界があっと言う間に変わるようなアルバムではあります。

取材:ジャガー

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