2017-12-07
『ホーム』で魅せたバンドサウンドに宿るGOING UNDER GROUNDの前向きな魂
青春時代を思い起こすかのような瑞々しい歌詞をエバーグリーンなメロディーに乗せた、良質なポップチューンを鳴らすバンド、GOING UNDER GROUND。結成から25年、デビューからは15年を超え、今や彼らからの影響を受けたというアーティストも少なくなく、日本のシーンに独自の存在感を放ち続けるロックバンドである。そんな彼らが生み出した数々の傑作アルバムの中から、バンドのターニングポイントとも言える作品を紹介しよう。
■松本素生の完全回復と バンドの完全復帰を祈る
本来であれば、本稿は“去る12月3日、GOING UNDER GROUNDが下北沢SHELTERにおいて『「ホーム」リリース15周年記念ライブ』を開催した。この公演は…”という書き出しで始まるところであったが、ご存知の方も少なくないだろう。11月某日、松本素生(Vo&Gu)が交通事故に遭い、GOING UNDER GROUND(以下、GUG)は12月のバンドでのライヴの中止を余儀なくされた。《幸い脳には異常が無く、左足間接挫傷、頚椎捻挫の症状はありますが、ようやく日常生活には支障が無い程度までは回復してきております》とのことで(《》は公式コメントより抜粋)、12月末にはアコースティックセットで復帰するようで、ライヴが飛んだのは残念だったが、身体が無事でひとまず安心といったところ。しかし、松本本人も「GUGは、今まで幾多の苦難にもへこたれなかったバンドで、それが誇りでもあります」とコメントしているが、ここ数年来のGUGはバンドを自体が厄年を迎えたのか、大殺界の時期なのか、確かに(…と言うのも憚られるが)苦難続きではある。2009年に伊藤洋一(Key)が脱退。まぁ、彼の場合、その後に何度かゲストとしてステージに上がっているので、ことはそう深刻ではなかったのかもしれないが、2015年には河野丈洋(Dr)もバンドを離れた。もともと5人組であったGUGは3人編成となり、バンド最大の危機を迎えたと言っても過言ではない。松本もこの時を振り返って「両翼を失った」と言ったほどである。その後、それまで所属していたマネジメントオフィスを離れたのだから、当時は今考えても、傍からは崖っぷちにあるようにも思えた。
だが、残ったメンバーはバンドを続けることを選択し、2016年にはアルバム『Out Of Blue』を発表。“青春の果て”とでも訳すべきタイトルの本作は、まさに過去との決別、新体制での旅立ちを強く意識させる前向きな作品であったが、同年、2014年からGUGのサポートキーボーディストを務め、共同プロデューサーでもあったシンガーソングライターの橋口靖正氏が急逝。彼らの喪失感も相当なものであったと想像に難くないが、今秋、『Out Of Blue』からほぼ1年という短いスパンで新作『真夏の目撃者』をリリース。友人の死を乗り越えて、純粋にバンドを楽しむことが手向けとでも言っているかのような解放感にあふれた作品を完成させたわけだが──その矢先での今回の事故である。『真夏の目撃者』をもって「“ゴーイングを頑張ってます!”や“3人になっても元気です!”みたいな、そういうメッセージじゃないもので音楽をやりたかったんですよ」と松本は語っていたが、メンバーの快気炎と逆行するかのようにバンドを取り巻く状況は好転しない。神様はどうして彼らにこんな試練を与え続けるのか。…と、まぁ、ここで天に唾しても始まらない。かといって神頼みもまっぴらごめんなので、ここは当コラムでの当初の予定通り、GUGの初期傑作『ホーム』を紹介することで、1日も早い松本素生の完全回復とバンドの完全復帰を祈念しよう。(※1月19日、那覇Outputでのフルバンド復帰が決定!)
■孤独が解放されていく第一歩
アルバム『ホーム』は2002年9月に発売されたGUGのメジャー2ndアルバム。GUGのアルバムには佳作が多いし、セールス面だけで言えば、3rd『ハートビート』や4th『h.o.p.s.』、それこそメジャーデビュー作『かよわきエナジー』のほうが『ホーム』より売り上げは上だったりする。しかし、『「ホーム」リリース15周年記念ライブ』と銘打ったライヴを行おうとしていたほどであるからして、本作はバンドにとって極めて重要な作品である。『ホーム』の何が重要か? 結論を急ぐようで恐縮だが、それは本作がGUGの意識が外へ向いた第一歩であるからではないかと思う。端的に“外へ向いた”というと若干語弊があるかもしれない。と言うのも、松本、河野の作るメロディーラインは最初期から親しみやすいものばかりであり、そこには彼らは少なくともリスナー=他者とのつながりを拒んでいる様子はないからだ。『ホーム』収録曲も、シングル曲であるM3「ミラージュ」やM10「ランブル」以外も歌メロの立ったものばかりである。しかも、それらの親しみやすいメロディーは、柔らかくやさし気な松本の歌声と相まって汎用性は高く、聴き手を限定しない。つまり、もともとGUGは「誰も聴いてくれなくてもOK」というバンドではなかったが、そこは自覚的でなかったというか、それをもって積極的に発信していこうという気持ちは薄かったようにも思える。当時のインタビュー記事には「“どんな曲を揃えよう”とか“曲のバランスはどうしよう”とかもまったく考えないで、ひとつひとつの曲を作っただけ」という無防備な発言も残っているので、その推測は概ね間違ってはないだろう。だから、“意識が外へ向いた第一歩”と形容させてもらった。
外向きと形容した根拠の大半は歌詞にある。内向的と言おうか、内省的と言おうか、M11「kodama」にずばり《1人ぼっち》という言葉がある通り、全体的に漂う孤独感は否めないが、その「kodama」にしても《1人ぼっちには慣れたふりをした/君がいなかった夜が怖かった》と言っているように決して孤独なままで閉じていない。外とのつながりや何かを希求する姿がそこに垣間見える。
《本当は少し面倒臭いけど/心のドアを開けておく いつも会えるようにしておく/むすんでほどく手の中で広くなった世界》《大人になるという事は 夏が過ぎるという事は/何度も僕等旅に出る 広くなった世界》(M2「シンドローム」)。
《ふと聴き覚えのある歌から/夜が降りる魔法/届くことをそして わかって/あなたに会える言葉を見つけて》(M5「少女」)。
《言葉は魔法だ 心は広がる海だ/想えば無限だ 例えば雨になる雲だ/それをきっと伝えなくちゃ 君にきっと伝えなくちゃ いつかは》(M6「流線形」)。
《淋しい腕がつながり合えば街はいつでも夜の宝石》《淋しい腕がつながり合えば つまり僕等は夜の宝石》《君は何を見てたかな? 君は何を思うかな?/僕は君を見てたから流れ星は見のがした/光る街で待ちぼうけ 会いたい人に会えるかな/君は何を見てたかな? 僕は何を見てたかな?》(M7「夜の宝石」)。
《心の闇を照らしながら 涙をひとつ抱えて行く/伝えたい事とか 信じたい事とか 忘れない事とかある》《走り出した光り そんで涙拭いて 心をいつだって/伝えなくちゃいけない でも忘れなくちゃいけない 今日が世界だった/綺麗な水を探してる魚 あれはいつかの僕と君だよ》(M10「ランブル」)。
しかも、アルバムのオープニングのM1「さびしんぼう」は、そのタイトルからして孤独が強調されていて、《心と心がせつない 心と心がせつない/いつもそうだよ》《戻らないミラージュ/さよならをしなくちゃ…》と歌われるM3「ミラージュ」のあとでM4「その事」というインストを挟み、世界観が分かれているので、余計に外向きというか、開放へと向かう印象がある。
■サウンドの躍動感が前向きさを後押し
その世界観が分かれ方──後半に進むに従って、バンドサウンドが奔放になっていくのもとてもよい。パワーコードでガツンと迫るタイプのサウンドではなく、松本のヴォーカリゼーションに寄り添うかのように、比較的繊細なバンドサウンドを中心に構成されている。大林宣彦やジブリの映画作品を思わせる(つまり、久石譲的?)M4「その事」ではノスタルジックでありつつもシャープなピアノの旋律を聴かせ、そこから続くM5「少女」では生々しいアコースティックギターを披露。一転、M6「流線形」ではThe Policeの「Every Breath You Take」を彷彿させる、淡々としたリズムながら確実に高揚感を増していくバンドアンサンブルを響かせ、M7「夜の宝石」ではループミュージックにサイケデリックな音使いも取り込んだ幻想的な世界観を創り上げている。M8「タッシ」ではThe Beatlesの「Ob-La-Di,Ob-La-Da」や「All You Need Is Love」にも似たポップさを、M9「ステップ」ではアッパーな4つ打ちダンスチューンを見せており、実にバラエティー豊かだ。白眉はM10「ランブル」だろう。“○○っぽい”ではなく、この時点での5人のアンサンブルの頂点とも言える見事なバンドグルーブがパッケージされている。ラストはサビのキャッチーさ、その押しの強さが収録曲中、一、二を争うM11「kodama」で、5人の音の塊感があることに加えて、アウトロが長めに加えられていることもあって、アルバムの大団円が強調されているとも思う。かようなサウンドメイキングもアルバム全体に前向きな意思を与えているようである。これもまた本作を“意識が外へ向いた第一歩”と形容する所以だ。
宇多田ヒカル、浜崎あゆみ、MISIA、中島美嘉ら所謂ディーヴァ全盛であった2002年。Hi-STANDARDはすでに活動休止しており、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTはこの翌年に解散することになるが、モンゴル800がインディーズながらミリオンセールスを記録し、BUMP OF CHICKENがメジャー第一弾アルバム『jupiter』を発表したのが2002年だ。ちなみに2003年にはASIAN KUNG-FU GENERATIONが1stフルアルバムとなる『君繋ファイブエム』リリースしている。今、振り返れば、ロックバンドの世代交代の時期だったと言えるだろうか。そんな中で生まれた『ホーム』も新しい世代のロックアルバムのひとつであり、GUGが2000年代を代表するバンドのひとつであることを示す作品であることは間違いない。
TEXT:帆苅智之
アルバム『ホーム』
2002年発表作品
VICL-60926/¥ 2,900(税抜)
<収録曲>
1.さびしんぼう
2.シンドローム
3.ミラージュ
4.その事
5.少女
6.流線形
7.夜の宝石
8.タッシ
9.ステップ
10.ランブル
11.kodama
【関連リンク】
『ホーム』で魅せたバンドサウンドに宿るGOING UNDER GROUNDの前向きな魂
GOING UNDER GROUNDまとめ
松本素生まとめ
花田裕之、アコーティックライブCDを通販&ライブ会場にてリリース
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