2018-04-12

『スカパラ登場』に見る国内最強のバンド、東京スカパラダイスオーケストラのスタンス

今週末の4月14日、東京・STUDIO COASTを皮切りに全国ツアーをスタートさせる東京スカパラダイスオーケストラのメジャーデビュー作『スカパラ登場』を紹介する。ジャマイカ発祥のスカという音楽ジャンルをベースにしながらも、老若男女誰もが楽しめるサウンドを提供し続けている彼ら。その基本的なスタンスはデビュー時から不変であることを分析していこう。

■ニュースが豊富な2018年のスカパラ

本稿作成のため、東京スカパラダイスオーケストラ(以下スカパラ)の公式サイトを訪れてみたのだが、若干驚きを禁じ得なかった。所謂“ニュース”ネタが豊富すぎるのである。3月14日にニューアルバム『GLORIOUS』をリリースされたことや、ファンクラブサイトがリニューアルされた辺りが載っているのは当然として、まずライヴ・イベント出演情報が大量である。全国ツアー『東京スカパラダイスオーケストラ 2018 Tour「SKANKING JAPAN」』に関して言えば、すでに2018年の年間スケジュールを掲載。4月14日の東京・STUDIO COASTから、ツアーファイナルであり、“スカフェス in 城ホール”でもある12月24日の大阪城ホールまで、前半の“燃やせ、揺らせ”編、後半の“めんどくさいのが愛だろっ?”編共にすべてが発表されている。イベントのほうは『カローラ福岡 Presents NUMBER SHOT 2018』『石川テレビ 創立50周年 POP HILL 2018 in KANAZAWA』、『オハラ☆ブレイク '18夏』『J-WAVE LIVE SUMMER JAM 2018 supported by antenna*』、『VIVA LA ROCK 2018』『京都大作戦2018~去年は雷雨でごめんな祭~』への出演がアナウンスされているが、イベント、フェスはまだまだあるのだから、この辺はこれからも増えていくのだろう。

まぁ、ライヴやイベント出演が多いバンドは他にもいるので、この規模が普通だとは言わないまでも、驚くほど珍しくはないかもしれない。驚くのはここからである。他アーティスト作品への参加とコラボレーションがとにかく多い。今年の入ってからのものだけでも、以下の通りだ。

■多岐にわたるコラボレーション

“エレファントカシマシのトリビュートアルバムに東京スカパラダイスオーケストラ×高橋一生「俺たちの明日」で参加が決定!”。“2月21日リリース「ちえのわ feat.峯田和伸」”。“シシド・カフカ feat. 東京スカパラダイスオーケストラ ディズニー/ピクサー初挑戦!日本版エンドソング♪「リメンバー・ミー」を歌う!”。“5/30 発売 関ジャニ∞ベストアルバム「GR8EST」に東京スカパラダイスオーケストラ参加!”。“4月18日にさかなクンとコラボした「およげ!たいやきくん~潜れ!さかなクン Ver.~」の音源の配信が決定!”。

ほぼ毎月のように、誰かのアルバムに参加したり、フィーチャリングしたりされたりしている。他のバンドならこの内のひとつでも十分に大きなニュースとなりそうであるが、スカパラの場合はそれが当たり前のようであるのが面白い。公式サイトの“ニュース”はこれにとどまることなく、茂木欣一が映画『リメンバー・ミー』で声優に初挑戦したこと、メンバー出演のCMのこと、キャンペーンのお知らせや募金活動の報告と、バラエティー豊かなネタが紹介されている。彼らほどのキャリアあるアーティストとしては異例な感じがするのは筆者だけだろうか。周年記念の節目の年ならまだしも、2018年はスカパラにとって特に節目というわけでもなさそうなので、誤解を恐れずに言えば、“スカパラ、よく働くなぁ”という印象である(ちなみにスカパラの結成は1985年、メジャーデビューが1990年なので、今年は結成33周年、メジャーデビュー29周年。来年がデビュー30周年となる)。現在のメンバーは9名。それぞれスカパラ以外の活動もあるだろうから、スケジュール調整だけでも大変であろうに、これだけ精力的に活動しているスカパラは日本で最強のバンドではなかろうかと、かなりマジに思う。

■精力的にライヴを展開するスカパラ

しかも、(話は前後するが)今年の全国ツアー『東京スカパラダイスオーケストラ 2018 Tour「SKANKING JAPAN」』の日程を見ると、彼らのライヴバンドとしての心意気が感じられて、ますます“スカパラ最強説”が強固になる。ツアー前半戦である“燃やせ、揺らせ”編は25カ所のライヴハウス公演。スタンディングでまさしく会場を燃やして揺らすのだが、最注目は全国ツアー後半の“めんどくさいのが愛だろっ?”編だ。9月29日の埼玉・川口総合文化センター リリア メインホールからスタートするのだが、発表されている約20カ所のホールは、そのほとんどがあまりロックバンドが訪れることのない場所ばかりなのである。

詳しくは、それこそ公式サイトをご覧になっていただきたいが、東京都内はサンパール荒川とオリンパスホール八王子、北海道ではわくわくホリデーホール(札幌市民ホール)はともかくとして、富良野文化会館、根室市総合文化会館といった会場で開催。県庁所在地も避ける方向のようで、広島県三原市、新潟県村上市、徳島県鳴門市、島根県安来市といった地名が並んでいる。地方都市で県庁所在地ではないということは、それほどアクセスが良くないことも想像に難くないし、動員も容易ではないかもしれない。何よりもメンバーの移動が大変なところもあるだろう。それでも、“めんどくさいのが愛だろっ?”というタイトルからすると、“でもやるんだよ!”とばかりに、普段、他のアーティストが行かないような、初めてスカパラを見る観客もいるであろう会場へ彼らは行くのだ。これを称えずして何を称えよう。少なくとも、今、日本の音楽シーンにおいて、スカパラは最強のバンドのひとつだ。五指、いや三本指に入ると言っても過言ではないだろう。

■最高位12位を記録したデビュー作

おそらく、いや、間違いなく、メンバー自身にも最強の自負はあるだろう。逆に言えば、その自負があるからこそ、“めんどくさいのが愛だろっ?”編のようなスケジュールが組めるのだと思う。2、4拍目を強調したスカビートにホーンセクションを配したスカパラのサウンドは、初見の人でも半ば強制的に乗せてしまうような力がある。本能を刺激するかのような、ひと言で言えばアガる音楽だ。それはデビュー時から備わっており、メジャーデビュー作『スカパラ登場』でもそれを確認できる。今も失われることがない彼らの魅力(魔力?)が詰まった名盤なのだ。『スカパラ登場』が発表された1990年と言うと第二次バンドブームの真っ最中であり、音楽の多様性が一般にも周知され始めた時期とも言えるのだが、それにしてもスカというジャマイカ発祥の音楽ジャンルをベースにした男だけのインストバンドである。今思うとチャート最高位12位を記録したのは驚異的な気もするが(当時のレコード会社の担当者もさすがに驚いたという噂もある)、その親しみやすさ=ポピュラリティという意味でのポップさからすると十分に納得ではある。何と言うか、全方位型なのである。

■らしさを強調した理想的なカバー曲

カバーの選び方でもそれが分かる。全13曲の内、カバーは、M4「仔象の行進」、M6「TIN TIN DEO」、M8「にがい涙」、M11「HIT THE ROAD JACK」の4曲。チョイスが絶妙なのだ。順に説明すると、M4はHenry Mancini 作曲の1961年公開のアメリカ映画『ハタリ!』の劇中曲、M6はジャズの名曲中の名曲、M8は米国の女性ヴォーカルグループ、The Three Degreesがリリースした日本限定の楽曲、そしてM11はあらゆるアーティストに歌われているPercy Mayfieldの楽曲で、とりわけRay Charlesを世界的シンガーに押し上げたことでも知られているナンバーだ。多くの人がどこかで耳にしたことがある楽曲でありつつも、M8、M11など分かる人には分かるマニアックさも併せ持っている。

しかも、(当然と言えば当然なのだが)しっかりとスカパラ流にカバーしているのだ。例えば、M4「仔象の行進」。原曲は金管楽器と木管楽器とでファニーな雰囲気を醸し出しているが、スカパラ版では楽しさはそのままに、シャープかつスリリングな加味したロックな「仔象の行進」に仕上げている。M6「TIN TIN DEO」もまさにロックで、ホーンセクションが主旋律を奏でる様子、特に後半のブレイクからのそれは鳥肌ものに素晴らしい。中盤で聴かせるアーバンなピアノやフリーキーなトランペットなど聴きどころも多く、実にカッコ良いテイクだ。しっかりとロックしているのはM11「HIT THE ROAD JACK」も同様。M8「にがい涙」にしても、The Three Degreesが慣れない日本語で歌っている様子までもしっかり再現しつつ、パンチの効いたカバーに仕上げている。いずれにしても、原曲の良さを損なうことなく、ちゃんとスカパラらしさも強調した理想的なカバーと言える。

■ロック魂を感じる楽曲がズラリ

カバーでそうなのだから、オリジナル曲は、さらに“らしさ”全開。フリーダムな精神が発揮されているものばかりだ。いずれも問答無用にカッコ良い、シリアストーンのM2「バンパイア」、M3「MONSTER ROCK」、M10「ゴールデン タイガー」。ゆるやかだが、それゆえにしっかりとスカビートが際立っているM1「ストレンジバード」。大陸風のM5「ウーハンの女」。北欧民謡風のリズムに哀愁あるメロディーを乗せたM7「月面舞踏」。アメリカンポップスから直に影響を受けた昭和歌謡テイストのM9「いにしえの花」。明るく開放感のあるラテン系のM12「ドキドキTIME」。そして、アコーディオンと口笛というシンプルなサウンドのM13「君と僕」。何でもあり…と言ったら流石に大袈裟かもしれないが、実にバラエティー豊かだ。

しかも、それぞれに小技も効いている。例えば、スパイ映画のテーマ曲っぽいスリリングさから始まるM2「バンパイア」は、Shakatak風サウンドから鳴きのトランペット、ギターへと展開。狼の遠吠え風なヴォイスも重なるなど、映像が観えてくるような作り。M5「ウーハンの女」もそう。随所にドラの音が配されている上に、ブルース・リーの怪鳥音を模したヴォイスも聴こえ、明らかにカンフー映画的な雰囲気がある。何よりもM13「君と僕」のインパクトは強い。大編成のスカパラのようなバンドのメジャーデビュー作、そのラストがアコーディオンと口笛というのは何とも洒落が効いている。サウンドのダイナミズム、躍動感という意味でのポップさも十分にロックではあるが、こうしたバラエティー豊かな楽曲に挑戦する姿勢に何よりもスカパラのロック魂を感じるところである。

TEXT:帆苅智之

アルバム『スカパラ登場』

1990年発表作品



<収録曲>
1. ストレンジバード
2.バンパイア
3.MONSTER ROCK
4.仔象の行進
5.ウーハンの女
6.TIN TIN DEO
7.月面舞踏
8.にがい涙
9.いにしえの花
10.ゴールデン タイガー
11.HIT THE ROAD JACK
12.ドキドキTIME
13.君と僕



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