2014-04-21

sukekiyo、正体不明の新バンドが遂にヴェールを脱ぐ!

 DIR EN GREYの京(Vo)がトータル・プロデュースを務めた新バンド、sukekiyoが1stアルバム『IMMORTALIS』を完成させた。民族楽器、ピアノ、アコギなどをバンドサウンドに持ち込んだ幽玄な曲調が聴き手を異世界に誘う。聴けば聴くほど深みにハマる傑作だ。


 【簡単に説明できないバンドでいたい】

──今回の構想はいつ頃からあったのですか?

1年前ぐらいですね。ちょくちょく曲の原形を作ってて、DIR EN GREYのメンバーに相談した時に、そろそろいいかなという流れになって。それから今のメンバーと曲作りを始めました。

──以前から別プロジェクトをやりたい気持ちはあったのですか?

ソロや違うバンドでやりたい気持ちは10年前からあったかもしれない。DIR EN GREYとはまた違うことをやりたかったし、違うメンバーとやりたくて。

──当時思い描いていた音楽性は?

う~ん、特にメタル、パンクとか分かりやすい色があるわけじゃなく、自分が違う人間とやることで、いろんな自分が出てきて、刺激を受けるんじゃないかと。

──ソロプロジェクトと聞くと、個人の頭の中で鳴る音像を具現化するイメージがありますが、京さんはメンバーとの化学反応を楽しみたい?

バンドがあって、別でソロをやるスタイルはあまりいいイメージがなくて。自分は楽器ができないので、1から100まで曲を作ることはできないから。それもあって、いろんな人たちと曲を作りたくて。

──sukekiyoはあくまでもバンドだと?

バンドです。メンバーもサポートじゃないですからね。あと、日本の音楽の寿命って、外国と比べて短い気がするんですよ。その時にしかできないものもあるから、後悔する前にやっておきたかった。とりあえず3年…その数字に何の根拠もないけど、自分でリミットを設けないと、ダラダラする気がしたから。それだけの理由なんですけど。

──例えばSYSTEM OF A DOWNのSerj(Vo)はソロ作も出してますけど、そういう意味で誰か刺激を受けた人はいますか?

Serjのソロは良かったですね。いろんなバンドをやってもいいんだなって影響を受けたのは、DeftonesのChino(Vo)です。4つやってますからね。でも、ソロ名義ってないんですよ、全部バンドで。これ言うとあれかもしれないけど、聴くと全部一緒なんですよね(笑)。

──Chino節はありますよね(笑)。

でも、楽曲が異なると、また違って聴こえるし、何より本人が楽しんでる。この間、オーストラリアのフェスでCrossesを観たんですけど、めちゃくちゃ楽しそうで。DeftonesのChinoとほとんど変わらないのに、自由でいいなぁって(笑)。別のバンドだからって、コンセプトを設けて、メッセージを変えてとかじゃなく、そのままの自分でいいんだな、という部分に一番影響を受けました。日本だと、バンドはひとつじゃないとダメじゃないけど、そういう空気があるじゃないですか。そういう自分の価値観をChinoに壊してもらいました。

──今回のメンバーはどういう基準で選んだのですか?

ギターの匠はDIR EN GREYでもマニピュレーターの仕事をやってて、彼と数年前に遊びで曲を作って、その時から何かやりたかった。メンバーはウチの事務所周りの人間が多いけど、いろんな楽器ができたり、変わった奴がいいなと思ったから、それもたまたまなんですよ。普通のベースじゃないベースが弾ける人とか、ギター以外の楽器もできる人とか、そういう基準で探したら、近い人間が集まっただけで。ドラムの未架は知っていたけど、実は他のメンバーは会ったこともなくて。ベースのYUCHIは会って、ライヴ映像を観たら面白かったし、話もすごく合った。もうひとりのギターのUTAは知り合いのバンドで、音源を聴いたら自分が求めている世界観や作曲能力に近くて。曲はみんなで作るけど、とりあえずみんなに曲を作ってきてとお願いして。で、こっちでも溜まった曲を渡したら、すぐ各パートを入れてきて、それを聴いたらドンピシャで良くて。

──今作は風景や情景が浮かぶ曲が多くて、映画のサウンドトラックのような雰囲気もありますね。

特に映画っぽくとかはないけど、自分たちらしさが出ればいいかなと。他にないものを作りたかったから。

──それはDIR EN GREYにないものという意味ですか?

う~ん、簡単に説明できるバンドが嫌で…そのためにいろんな楽器を入れたわけじゃないんですけどね。自分が思ってる世界観もメンバーが入ることで、それよりも上にいくし、sukekiyoなりの屈折の仕方をするから。

──今回のレコーディング自体はどうでした?

DIR EN GREYと変わらないですね。ただ、異様に早いです。曲作りから早かったんですよ。メンバーが曲を持ってきて、構成もイジらずに、各パートを入れてほぼ完成したものも3~4曲ありますからね。

──制作に向かう上で、参考にした音源はあります?

ないですね。音楽を作ったり、歌うのは好きだけど、音楽自体に興味があるかというと、普通の人のほうが聴いてると思う。特にここ2~3年は音楽を聴き込むことがなくて。

──では、自分の中の何が表現されてると思います?

難しいっすね。結構自然体だし、各メンバーの色も出てると思うし、短期間でよくこれだけ曲が集まったなと。ほんとはもっとあるんですよ(笑)


 【怒りよりも 人間味のある音楽性】

──実際の曲作りはどんな感じで?

匠と曲を作るんですけど、口ギターで作ります(笑)。

──口ギターなんですか?

うん、細かくね。“そこはもっとギュイーンと!”みたいな(笑)。僕はコードとか一切分からないので、“そこはこのメロディーが乗るコードで”とか。

──匠さんがそれを汲み取って?(笑)

あいつはめちゃくちゃカチカチしてるんで、気持ち良いです。DIR EN GREYのマニピュレーターをやってる時も、リハの時に何時からこの曲を合わせてって黒板に書いて、その時間通りにやってくれるんですよ(笑)。

──(笑)。では、話を戻しますが、鼻歌や自然に出てきたメロディーを大事にして?

DIR EN GREYやsukekiyoもそうですけど、初めて楽曲を流すと同時に軽く歌を録るんですよ。その時に出てきたメロディーを大事にしてるから、自然な流れですね。その時にシャウトが出てこなかったら、シャウトじゃないんだなって。あえてハズしてシャウトを入れることもあるし、楽曲が呼ぶメロディーを意識している点はDIR EN GREYと一緒です。アルバムを通したストーリー性はないけど、1曲目の「elisabeth addict」はラストのイメージで作っていて、2曲目の「destrudo」はSEなんですよ。だから、エンディング始まりみたいな。で、最後の「in all weathers」では1曲目のピアノのメロディーを弾いてるので、そういう意味で映画っぽい流れはありますけどね。

──なぜ「elisabeth addict」を最初に持ってこようと?

大体1曲目はSEだったり、激しい曲で始まることが多いじゃないですか。個人的に映画がすごく好きなので、映画っぽい世界観を音に入れられたらなと。1曲目からエンドロールが流れて、最初にオチが分かって、なぜこのオチに行き着いたのかって。そこからアルバムの世界に入ってくれたらいいなと。

──オチから見せるというのは反則技な感じもしますが、それも誰もやらなそうなことだから?

sukekiyo自体の楽曲もそうだけど、宣伝やライヴも含めて、何をするか分からない予測不可能なバンドでいたい。それもバンド名に含まれてるから、大事にしたいんですよ。後輩のバンドをプロデュースする時に“sukekiyo”という名前を使ってるんですけど、sukekiyoって『犬神家の一族』のイメージが最初に出てくると思うんですよ。犬神佐清(いぬがみすけきよ)は白いマスクを被ってるし、謎じゃないですか。このバンドも激しいのか暗いのかまったく分からないし、どんなジャンルか不明だから。それと、バンド名がダサい!(笑) そこがすごく気に入ってます。

──(笑)。バンド名はすぐに覚えられますけど、サウンドや歌詞はすぐに理解できないものに惹かれる?

こういうバンドがいたら面白いというものをかたちにしたいし、自分でもワクワクできるバンドを作りたかった。シングル、アルバムを何枚出すとかそういう決まりもなく、“あぁ、sukekiyoっぽい”と感じてもらえるバンドにしたい。

──その考えはどこからきてるのですか?

特にないんですよね。楽しいことじゃないと力が出ない人間だから(笑)。

──サウンド面の特徴としては民族楽器を導入したり、水の音も効果的に使われてますね。

バンドサウンドも好きだけど、民族楽器自体が好きで。DIR EN GREYでもアンプラグドをやってるし、好きなんですよ。ああいう空気感をうまくバンドサウンドに混ぜて、いろんな楽器で表現できたら面白いんじゃないかと。匠と最初に曲を作ってる時は、もっとマニアックでしたよ。ほんと民族楽器だけで作ったりして、すごく聴きにくいものでした(笑)。基本そういうものが好きですね。水の音もいろんなところに入れてるけど、それも楽曲が呼んでいたからで。

──水は人間には不可欠なもので、生命に関わるものですけど、そういうイメージもどこかに?

それはテーマじゃないけど、sukekiyoの曲に関してはイメージが出やすかった。昔は太陽、風とか自然のものを取り上げてたけど、それがより色濃く出てるかもしれない。どちらかと言えば、怒りはあまりないですね。DIR EN GREYはそっちの要素もあるけど、sukekiyoはより人間っぽいというか。人間が生まれて死ぬまでの間の憎悪じゃない部分…やさしさが出てるかもしれない。細かい話になるけど、DIR EN GREYではメロディーに沿ったフレーズとか誰も入れないんですよ。でもsukekiyoに関しては、同じメロディーを弾いてくるんで、“おっ、歌に被せてきたよ”って(笑)。DIR EN GREYはガツガツぶつかり合う感じだけど、sukekiyoはフワーッと空気のように曲ができる。

──アコギもたくさん入ってますし、スケール感のある曲調ばかりですね。

音の壁とかじゃなく、空間を広く使いたくて、そこは大事にしてます。あまり詰め込みすぎず、歌ももっと入れようと思ったらできたけど、抜く作業のほうが多かった。

──紙資料に“理想と現実、愛と性。”というキャッチコピーが付いてますが、音や歌詞もどこかウェットな質感もありますね。

そうですね。DIR EN GREYはクセがあるけど、sukekiyoではそれを考えずに歌ったから、そういうテイストが出てるかもしれない。

──それと、初回特典盤CDはリミックスを含む豪華コラボレーション作で、Devilslug名義でKORNのJonathan(Vo)も参加しているのにも気になりました。

KORNっぽい感じではないけど、面白いと思います。他にキリトくん(Angelo)と一緒に歌った曲もあるし、リミックスに関しては楽曲を投げて、好きに遊んでくださいと。みなさん快くOKしていただいて、個々の色がすごく出てるんじゃないかな。sukekiyoに興味ない人でも、リミックスだけで十分に楽しめるかなと。

取材:荒金良介

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