2014-05-20
BUCK-TICK、破壊的衝動がもたらした前進的無秩序
多くのミュージシャンから多大なる敬意を寄せられているBUCK-TICK。発表される作品は常に瑞々しいが、約1年9カ月振りに放たれるアルバム『或いはアナーキー』も同様だ。新鮮でありながら、確固たるスタイルが息づいている。またもや傑作の登場である。
【“ダダイズム”と“シュルレアリスム”】
──前作『夢見る宇宙』から約1年9カ月も経ったことに気付かないほど、デビュー25周年のアニバーサリー・イヤーからの展開は精力的だったのだなと改めて思いますが、あのアルバムはどんな作品だったと思います?
今井 あれはその時にできる、いいものを作ろうという、そういうところから取り掛かっていったんですね。結果としては、25周年と言われる中での、その時点での自分たちが納得できるアルバムということだったのかなぁと。
櫻井 やっぱり、東日本大震災の後だったんで、どうしても虚無感と、その反面、何かしなくちゃいけないみたいな義務感とか、みなさん、多かれ少なかれ、いろんな立場であったと思うんですね。そこをちょっと飛び越えると言いますか、クリアーするのに必要だった一枚と言いますか。“そうは言っても”と言われても仕方ないぐらいに、音楽は音楽、芸術は芸術、コンサートはコンサート、ロックはロックというふうに割り切るための一枚、そんな感じがしましたね。
──以降のツアーは、凄まじく惹き付けるステージでしたよね。何か取り憑かれたかのような恐怖感すら覚えるぐらいに。だからこそ、新作が楽しみだったのですが、『或いはアナーキー』に向けては、どんな思いがあったんでしょう?
今井 今までの自分たちをブチ壊す、そういう衝動みたいなところがあったので、そこですね、テーマというか、コンセプトと言えば。ただ、メンバーに伝える時に、それをそのまま言うと、“いつもそうだよね”ってことになっちゃうので(笑)、“ダダイズム”とか“シュルレアリスム”という言葉を、誤解覚悟で言ってみたんですね。でも、櫻井さんとかは、説明も何もしなくても、それで1から10までもう分かってたんで、そのまま取り掛かることができて。
──その衝動の根源は何でした? 『夢見る宇宙』がひとつの完成したBUCK-TICK像だったということですか?
今井 いや、そうではないんですよ。何かそういう気持ちがあって。その瞬間のワーッという何か壊したい感じを、ただやりたかっただけなのかもしれないし。最もロックバンドらしい気持ちみたいなところがあったのかな、パンクとか。でも、変わるために変わるというのもちょっとおかしなことになってくるので、その辺は自然体でいきたいなと。
──櫻井さんは“ダダイズム”や“シュルレアリスム”というキーワードを伝えられた時、どんな思いがありました?
櫻井 作品自体がそうなのではなくて、アーティストたちの気概や精神ですよね。それは、もがいて、あがいて、壊して、楽しんで、そして作り上げて、みたいなことだから、いつもと同じことだなって僕は受け取って。その中でもテーマうんぬんではなく、もっと極端というか、遠慮なしに、僕ができることの範囲でやってしまおうと。それこそ『夢見る宇宙』が終わってから、次はこうだなという感情を抑えて、それでもあふれるぐらいの姿勢でいきたいと思ってたんです。
──その表現の発露、手法は、前回のツアーにおいて自分の存在意義や立ち位置を再確認したからということですか?
櫻井 そうですね。情熱とかの発露というのは、やっぱり、あのツアーであったし、それが脈々と今に至って。自分がどうなるのか、その時は読めませんけども、精神としては“もっと、もっと”っていう感じですね。しかも、結果的に人が傷付いても仕方がないぐらいの芸術みたいな音楽。自分に遠慮は一番良くないですから。
──最初に出来上がったのは、シングルとして先行リリースもされる「形而上 流星」だったそうですが、その衝動を最も体現した曲だったということになりますか?
今井 アルペジオを延々ふたりで弾くというアレンジも、ありそうでなかったですからね。結構、時間もかかりました。
──そのアレンジは、他の曲でも随所に出てきますよね。
今井 ありますね。意識はしてなかったんですけど、気付いたらそうなってたという。だから、いわゆるリフものっていうのは多分ないですよね。
櫻井 まだ、“ダダイズム”、“シュルレアリスム”というワードもなかったと思うんですけど、初めて聴いた時は…まぁ、デモの段階ですから、“線の細さ”といったものだけかなと思ったんですけども、自分で完成形を想像すると、力強さもどんどん感じてきまして。そのバランスを上手くとれればいいなと思ったんですね。儚いけども、強く何かを感じていたいとか、そういう感じにできればなと。わりと第一印象で、(歌や歌詞の)柱は出てきました。漠然とした言い方ですけど、結果的にまだ何もない最初の状態で自分が感じたことを、今井さんも感じていた。レコーディングと音楽に対するアプローチ、自分の気持ち…理想的にできたのかなと思います。
【さまざまに変容してきた“夢”への思い】
──“夢”という言葉が出てくるのも象徴的な気がします。
櫻井 “夢”というひと言を使う思いも、作品ごとに変わってきてますね。ほんとに不思議な現象で、なぜこんな夢を見るのかとか、分からないものだからこそ、永遠に使い続けている言葉だと思います。例えば、自分だけではなく、彼は死に至るまでどんな夢を見たんだろうとか、彼女はどんな夢を見て寝ているんだろうとか、その人の物語の中の夢みたいなものを考えて、いろいろ書けたというのもありますね。「形而上 流星」とか「無題」とか、やはり感情を押し殺した中で、作品に対してはそういう使い方はできたかなと思ってます。
──話が前後してしまいますが、1曲目の「DADA DISCO -G J T H B K H T D-」は、特に多くの人が新しさを感じるのではないかと思うんです。“BUCK-TICKがこんな曲をやるのか!”と…毎回、そんな驚きはあるわけですが。
今井 ラップの手法というかね。このカッティングのリフ自体は、それこそ20年ぐらい前から自分の中にあって、今回、自然に出てきたので、このまま勢いで作品にしてみようと思ったんですよ。そこにこういう歌が乗せられたというところでは、ほんとに上手くいったのかなと。
──歌詞も今井さんが書かれていますが、単純に楽しくもなりますし、ものすごく深読みもしたくなったりもします。
今井 もうダダイズムとパンクですね。
──冒頭にSEX PISTOLSを思わせる一節もありますね。曲名の副題にある“G J T H B K H T D”は一体何なんでしょう? かなり調べた結果、何かの頭文字だなと考えて、“現実逃避、爆発だ”というようには導かれたんですが。
今井 秘密でいいですかね ?(笑) でも、そういう発想です。この歌詞の内容とかでいったら、まぁ、だいたい…。
櫻井 僕は気にしてなかったんですけど、他のメンバーが騒ぎ出して(笑)。その瞬間、“あっ!”て分かりましたけど。(この取材から)帰る頃には分かると思いますよ(笑)。
今井 いわゆる名言みたいなものですね。世代によってはあまり馴染みがないかもしれないですけど。
櫻井 嬉しくてしょうがないんでしょ、分からない顔をしてる人を見てるのが(笑)。
──今はパッと思い浮かばないのが悔しいです(笑/しかし、取材後に正解が判明)。歌の構成も面白いですね。
櫻井 ほとんど掛け合いとかになってて。他の“自分がしっかりしなきゃ!”みたいな曲は結構真面目というか(笑)、これは真面目にふざけられるというか、いろんなことをやれましたね。聴いてても楽しいと思いますけど。
──当然、ライヴの時も掛け合い的な見え方になるんですよね。作曲者の観点で、他にも特に新しさを感じながら作ったものがあると思うのですが、何か一例を挙げるなら?
今井 「無題」ですね。ある意味というか、裏面でというか、一番好きな曲ではあるんですけど、出来上がってみれば、歌がずっとファルセットで。アレンジも特別ややこしいこともしてないんだけど、何か不穏な感じがあって。
──これもまた歌詞が、宇宙的というのか、逆に人間的というのか、どの次元を描いているんだろうと思わせる。
櫻井 それを説明したくないので、“無題”とさせていただきました。聴いた方の頭の中で楽しんでもらうほうがいいなと。今井さんのデモではまた別の仮タイトルでして、それがひとつのヒントでもありますし、あとはいつもの胎内宇宙、胎内回帰的な…“生命体、何を思う?”的な感じですね。それにすごくフィットする曲があり、僕に“歌詞を書いて”と言われたので、楽しくて仕方なかったです(笑)。
今井 もうバッチリですね。最初からディレイを飛ばすみたいなアレンジは自分の中にあったんですけど、そこに言葉が残っているところが、上手くハマったかなって。深読みしたくなるような意味が出てくるんですよね。
──音と言葉が相まってと。「Devil' N Angel」はシンセベースでスタートしますが、本作において、デジタル・ビート/サウンドはひとつの音色的な特徴だと思うんですね。
今井 そうですね。そういうのはわりと積極的に今回は採り入れようかなと思ってました。「Devil' N Angel」もそこから作り始めて、好みの楽曲、アレンジになりましたね。歌詞は聞いた話からなんですけど、子供が言ったことですね。“僕はどこから来たの?”って問われて、“天使の家”と言ったら、急に泣き出しちゃって、“天使の家に帰りたいよぉ”って布団の中に潜っちゃったという。
──歌入れに際して、その物語は聞いていたのですか?
櫻井 聞いていなかったけど、かわいくて…この世は恐ろしいんだぞ、みたいな感じに聴いてもらえばと(笑)。
──なるほど。そして、またタイトルもさまざまな思いを巡らせてしまいます。“或いはアナーキー”と聞いて、何に対しての“或いは”なのかと、すごく考えてしまったんですよ。
今井 ということなんです(笑)。だから、例えばシュルレアリスムとかダダとかに対する“或いはアナーキー”。つまり、無秩序というか、何でもありというか。それこそ“無題”みたいな…としか言いようがない(笑)。
櫻井 何の“或いは”なのかは僕も思いましたけど(笑)。でも、今井さんの中には、“或いは”の前に何かあるんだろうぐらいに思って、そういうのであれば、他にアイデアもなかったですし、首を縦に振るしかないみたいな(笑)。
──“アナーキー”そのものはパンクにもつながってきますね。さて、本作を引っ提げた全国ホールツアーが夏に行なわれますが、どんなライヴになりそうな予感ですか?
今井 「DADA DISCO -G J T H B K H T D-」とか「無題」とか「形而上 流星」とか、振り幅があるし、いろんなタイプの曲があるから、やり甲斐もある。楽しみですね。
櫻井 漠然とですけど、いろんな夢を与えられるような。例えば、中高生とかの若い人たちが、後々、これに影響されましたと言ってくれる、そんなライヴになればいいなと。普段はなかなか会えない人たちにも、日常があっての非日常みたいなものを見せられればいいなと思います。
取材:土屋京輔
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