2012-12-20

【かりゆし58】一番最初に音楽から受けた衝動をもう一度思い出す

 公私ともに人生の節目を迎えた、かりゆし58。“今までやってきたことを信じるのと同じぐらい、疑うことも大事だと思った”と改めて自分たちの音楽と対峙し、初期衝動を詰め込んだアルバム『5』が完成した。

──オリジナルとしては2年振りのアルバムとなる『5』ですが、ここへ来てバンドが再加熱しているような、エネルギッシュな一枚になりましたね。

前川「分かりやすい節目が続いたんですよね。ベストアルバム『かりゆし58ベスト』を出させてもらえたのもそうですし、30歳を迎えたのもそうでしょうし、結婚、出産もあって。で、これから先のことを考えた時に、今まで通り音楽を続けていくためには自分たちの引き出しを常に増やしていけるかが大事だなって。増やした武器を使ってどんだけの人に喜んでもらえるのか、それしかないよなー、って当たり前のことに改めて実感が沸いてきたというか。喜ばせるためのツールは音楽だって決まってるから、あとはどうすればいいかを必死で考えるだけなんで、削ぎ落とされたもんがあるんでしょうね。一番最初に音楽から受けた衝動をもう一度思い出そうと。自分たちがその当時感動した音を再現してみるのは気持ちも引き締まるし、ミュージシャンらしくていいんじゃないかなって思って、今回のアルバムはわりとそこに重点を置いてましたね。“ガキの時に何を聴いて興奮したっけ?”って。」

新屋「『5』は全曲通してレコーディングを楽しめたというか。ライヴでやったら楽しそうだなっていう曲がたくさん入ったんで、早く聴いてほしいですし、やりたかったことが純粋に入ったなって思います。」

──確かに「あいのりズム」みたいに質感荒めのギターが前に出る曲って、最近じゃあまり聴かないですよね(笑)。

新屋「AC/DCっぽいのやりたいなって。今の人はこんなのやらないけど(笑)。」

──ただ、聴くと“待ってました!”と言わんばかりに不思議とテンション上がっちゃうんですよね。

新屋「よくそういうふうに言ってくれる人はいますね。」

前川「“こいつら心底バンドが好きなんだろうな”っていう匂いが曲から出てほしいと思ってて。良い曲作るとか、良いバンドになることも、少なくとも自分がやってることを愛してないとできないですもんね。」

──先日のZepp DiverCity Tokyoでのライヴも拝見させていただきましたが、突き抜ける曲でのエモーショナルなプレイはそういった思いからきていたんですね。同じくギターの宮平さんも暴れ狂ってましたもんね。

前川「あぁ…それはANDREW W.K.観たからじゃない?」

新屋「すぐ影響されるんです(笑)。」

宮平「ANDREW W.K.を観たのもあるんですけど、“もともと何でバンドをやりたかったのか? ギターを弾きたかったのか?”って考えた時に、目立ちたかったんですよね。人前でなんか派手なことがやりたいとか、そういう衝動があってやってたと思うんですよ。でも、なんかこう良くも悪くも慣れてしまっていたところがあって…もう一回原点の気持ちに立ち返ってみようと。そうしたら“目立ちたい”“カッコ付けたい”“バンドやりたい”みたいな気持ちが根本にはあったんで、気付いたからには前に出ていきたいなと『5』の制作やツアー中に思いました。」

中村「ドラムに関しては、前作までは勢いだけでレコーディングに臨んでたんですけど、今回の制作は“初心に戻る”という前提があったから、気持ちの面だけじゃなくて、技術面もイチから改善して、良い音が出せるように努力しました。楽曲の幅が広いとは思うんですけど、歌を邪魔しないようなドラムを叩きたいとはいつも心がけているので、ひとつひとつの音にこだわりたくて。チューニングとかも気を使いましたね。」

──1曲目の「まっとーばー」もライヴ時は前川さんがアコギ片手に歌いながら、そこにバンドが乗っかるというのが感動的で。その姿勢だけで気持ちを訴えかけているのが良かったです。

前川「それ良い言葉ですね。“姿勢だけで”って。例えば「アンマー」を何でレゲエっぽいアレンジにしたかって言ったら、いろんな人に分かりやすいように噛み砕いたつもりで、ああしたんですよ。でも、最近思うのは、聴いてくれる人たちも音楽を受け入れられる想像力や感受性を持ってるはずだから説明くさいアレンジにしなくてもいいなって。“メッセージを伝えたいからしっとり弾いてね”って言った瞬間にバンドの中で死んでいく力ってあると思っていて…そうじゃなくてバンドサウンド全開で、そこにどんな歌詞が乗っていようが、それを補助するというよりかは広げるために頭振りながらガンガン前に出てギター弾くみたいなところに、歌詞とはまったく違う画かもしれないけど、共通する熱みたいなものがあるんじゃないかなって。誰もが思い付くようなメッセージを出した瞬間に表現者としては野暮だし、観る人はうまく言葉にできなくても何かしら感じるっていう受け手のイメージ力、想像力を舐め切った音楽は作らんとこうって思ったりしたんで、今みたいに聴いてもらえたら嬉しいですね。」

──本作の中で唯一のバラード「愛なのでしょう」の《あなたがいるから だから全部ある 愛なのでしょう》という一節を聴いた時に、こういうふうに思えるまでちゃんと人と向き合えてるかなって思ってしまいました。良い面だけでなく、悲しみや苦しみ、全ての感情が“あなた”に向かっている。この締め括りは素敵ですね。

前川「いや~嬉しいですね。この人たち(メンバー)は向き合ってくれないですからね(笑)。その感想もこいつから聞きたかったです。」

宮平「幸せそうで何よりだなと。バンドの幸せは個人の幸せでもあります。」

──(笑)。そして、最後は「笑っててくれよ」ですが。

前川「曲順は、わりとサウンドで決めてたよな? 原点に返って、衝動を大切にしていたし、4人ともが自分の楽器にそれぞれのこだわりを持っていたから、アルバムの最後に流れててほしいサウンドが「笑っててくれよ」だなっていうので決めましたね。この人たち(メンバー)はミックスチェックしてる時とか歌聴いてないぐらいの勢いで、自分の音を細かくチェックしてましたからね。それぐらい自分たちがやった作業にこだわりがあったから一歩前進だなと。」

取材:ジャガー

(OKMusic)


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