2012-10-20
【真空ホロウ】唯一無二の刺激が渦巻くメジャーデビュー作
インディーズシーンで圧倒的な存在感を放っていた真空ホロウが、いよいよメジャーデビューする。ミニアルバム『小さな世界』は、鮮烈な印象をあなたの心に残すだろう。松本明人(Vo&Gu)が今作について語る。
──1曲目の「Highway My way」はすでにライヴでも演奏していますが、どういう経緯で生まれた曲なんでしょう?
「メジャーになるという雰囲気が漂った時点で、メジャー感に振り切った曲を書いてみたのがこれです。でも、それだけでは僕も嫌だったし、今まで聴いてきてくれた方々も僕らしくないと感じると思いまして。だから今まで通り、僕らしい面を歌詞にいっぱい詰め込んでいます。」
──サウンドはヌケがすごくいいですし、“清々しい”と言ってもいいくらいですけど、どことなく不穏なムードを感じるんですよ。
「この曲の一番表面上に見えるものは、メジャー感。でも、歌詞を読み解いていただいて見えてくるのは、“あれ? 何か違う意味があるな”ということ。これ、ハイウェイにいないかもしれない歌詞なんですよ。車に乗っていないかもしれない。何と言えばいんだろう? お客さんと僕らの関係性を歌っているんです。お客さんは自分を投影して曲を聴いてくださる方が多い。なので《君》と表現していたりします。《あなた》だと距離が遠い気もしたので、隣にいそうな表現をしているんです。」
──ライトにサラッと聴けない面白さがありますね。
「サラッと聴いてもいいけど、ちょっと慣れたら“本当はこういう意味じゃないかな?”とか考えていただくといいかもしれない。」
──喉ごしはいいのに、あとになって胃にズシリとくる食べ物みたいなところがある音楽だと思います。
「そうですね。ものすごく高いサーロインステーキみたいな(笑)。実は脂がすごいっていう 。“何だろう? この感じ、経験したことがある。いつだっけ? 思い出せない…”みたいな胸騒ぎ、ドキドキとかを生み出したいっていう気持ちでやっているんです。」
──「週末スクランブル」は、まさにそういう曲ですね。渋谷のスクランブル交差点の違和感が胸の内に蘇ります。
「あそこをずっと見ていたことあります?」
──渡るのがふと怖くなったことはありますよ。“こんなにわけの分からない渡り方をする交差点なのに、なんでみんなスムーズに歩いているんだろう?”って。
「たぶん、日本人が気遣いだから渡れるんでしょうね(笑)。僕はあの交差点を上から見ていたことがあります。“この人は今日は営業で上手くいかなくてすごくムカついているけど、向こうからすごくきれいな女性が歩いてきてうれしくなる。でも、だんだん近づいてきて、それがすごくきれいなオカマだったことに気付く。それでさっきまでの俺の気持ちは何だったんだ!ってなる”…とかを想像するんです(笑)。そういうところから生まれた曲です。『ストレンジャー』っていう前ミニアルバムとつながっている感もあって。あの中の『誰も知らない』っていう曲は、渋谷駅の近くのあおい書店とファミリーマートへ行く歩道橋のあおい書店側から見た図から浮かんだ曲なんです。『週末スクランブル』はスクランブル交差点。『ストレンジャー』の『クレイマン・クレイマー』は、東急本店近くのドンキホーテの辺りからスクランブル交差点を見た図。だから、今回の『週末スクランブル』でやっと核に辿り着いたんです。」
──こういう曲がメジャーから出るのは痛快ですよ(笑)。メジャーデビューに対しては、どう思っていました?
「その力量が僕らにあるのならば、すぐにでも行きたかったです。資料に“鬱と狂気とロックンロール”って書かれてしまっていますけど(笑)。まあ、“これが俗に言う鬱か”って思ったことはありますし、一般的に狂気と呼ばれるものが、例えば『新世界より』や『週末スクランブル』とかにも見えますし。ロックンロールとかパンクは僕のバックボーンの中にもあって、好きでもある。なので…僕はこのキャッチフレーズは嫌いじゃない(笑)」
──(笑)。「眩暈」はめまぐるしく動く周囲の世界に対する想い、「The Small world」はトラウマを描いているのを感じました。どの曲も確かにそのキャッチフレーズに当てはまりますね。
「『The Small world』は一番古い曲で。昔やっていたんです。今回、突然曲調にメジャー感が出たわけじゃないことが、この曲を聴けば分かる。でも、『The Small world』の歌詞は今回変えたんですよ。より怨みを強くしていますから(笑)」
──(笑)。バンドとしての今後の目標は何かありますか?
「アクの部分は薄くせず、どうにか上手くオブラートに包んで、より普遍的なものを作っていきたいです。でも…全員が理解して聴いてくれるのかな? 聴いてくれていればいいなぁ(笑)」
──ハッキリ捉えられなくても、漠然と“何か心に引っかかる”って感覚には多くの人がなっていると思いますよ。
「ものすごい恋愛ソングとして捉える人もいるのかも。例えば“真空ホロウのライヴにはいつもあのかわいい娘がいるから僕は行く”っていう人がいたっていいもん。その人にとっての恋愛ソングは、例えばどれなんだろう?」
──…「新世界より」?
「これですか(笑)」
──過剰な独占欲の曲ですけど(笑)。でも、ピュアな愛情の根底には、確実にこういう部分はあるわけですよ。多くの人は、それを制御しているだけのことで。
「そうですよね。この歌詞に出てくる《箱》も、捉え方で変わってきますからね。《箱》って画面上のことかもしれないし、自分の頭の中のことかもしれない。」
──やっぱり、どの曲も読み解く面白さがありますね。
「“小さな世界”っていうタイトルだけど、これだけアクの強い世界になっているので、次から真空ホロウを聴いたりすると、胃もたれどころじゃない。胃潰瘍レベルでは済まない刺激を受けるかも。だから、手始めに今回から聴いていただきたいです。これは前菜です(笑)」
取材:田中 大
(OKMusic)
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