2013-04-20

【真空ホロウ】忘れられない刺激の連続

 昨年10月のメジャーデビュー作に続き、早くもリリースされる最新ミニアルバム『少年A』。全曲に脈打つ深い物語性、エモーショナルなサウンドの数々が素晴らしい。今作について松本明人(Vo&Gu)が語る。

──全6曲でひとつの物語になっているようにも解釈できるミニアルバムですね。

「みんなへのプレゼンテーションの段階でストーリーを提示したら、それをえらく気に入っていただけて。だから、それでいくことになったんです(笑)。でも、それぞれの曲は全て別個に作りました。それぞれに主人公がいて、完結しています。」

──でも、曲同士につながりがあると考えることもできるのが面白さですね。“憧れの裏側にある嫉妬や劣等感”みたいなものが一貫して描かれていると感じたんですけど。

「そうですね。そういうことを常日頃思うので。例えば、憧れの方とお会いした時にイメージと違ってショックを受けたり。でも、いずれ自分が誰かにそういうショックを感じてもらえる存在になれたらいいなとも思ったり。」

──思っていることをそのまま描いていった6曲?

「はい。道を歩いていて思ったことをそのまま全部歌詞にしています。歩きながら書くので。赤信号を利用してiPhoneに打つんですよ。十字路でよく書きます(笑)。」

──(笑)。「アナフィラキシーショック」、カッコ良いですね。 すごくワクワクします。

「衝動をそのまま録音したようなもので。今回の6曲の中で一番狭い空間で、せーの! で録ったんですよ。」

──後半でダブ風の展開になるのもパンチが利いています。

「『ダンボ』っていうディズニー映画があるじゃないですか。あれをイメージしました。『ダンボ』自体が、この曲みたいな展開なんですよ。」

──『ダンボ』はサイケデリックな作品ですからね(笑)。

「サイケデリックなシーンが終わった後に、突然青空の下で鳥がピヨピヨ鳴いていたり(笑)。そういうことを僕らもできたらいいなと思って作りました。」

──炭鉱で撮影したミュージックビデオもインパクトがすごく ありましたよ。

「本当に炭鉱に入って、監督の下で労働しました。」

──映像の監督じゃなくて、炭鉱の監督?

「はい。いろんな指導を受けながら(笑)。」

──この曲の歌詞に関しては、まさにさっき言った“憧れと劣等感”みたいな部分を感じたんですけど、どうですか?

「まさにそうですね。ある方にお会いしている最中にトイレへ行って歌詞を全部書きました(笑)。その方がすごい好きで、今も好きなんですけど、なんとも言えない感情になりまして…“なのに好き”っていう。人間ってそうなんだなと思いました。この曲が今回のリード曲ですけど、レコード会社は心が広いなぁと思いました(笑)。」

──(笑)。誰もが多かれ少なかれ、こういうことを感じたことがあると思います。例えば、部活で野球やっている子が強豪校の選手に憧れつつも悔しく感じたりとか。

「今回収録した曲も収録しなかった曲も含めて、一貫して高校の頃のこととかを思い浮かべて歌詞を書いていたのをふと今思い出しました。僕の高校は遠くて、バスを1本逃すと、部活終わりの生徒が帰るバスまで4時間くらい待たなきゃいけなくて。誰もいないだだっ広いところでじっとバスが来るのを待っていたんです(笑)。そんなことを思い出したり。今回全体的に黄色のイメージもあるんです。ひよこにも成り切れず、半分黄身と白身の状態で殻の中にいるようなイメージ。」

──このミニアルバム全体に思春期感がどことなく漂っているのは、そういう背景によるんでしょうね。

「そうかもしれないですね。だから例えば「アナフィラキシーショック」の歌詞の中に《・症状:ピーターパンに戻りたい》とか出てきたんだと思います。」

──ラストの《洒落臭い》のキレも最高です。僕、松本さんの巻き舌がすごく好きなんですけど。

「ラジオ番組で『明人に巻かれろ!』っていうコーナーをやっていたことがあるんですよ。僕に巻き舌で言ってほしい言葉をリスナーに送ってもらうんですけど。“苦しゅうない。近う寄れ”とか(笑)。」

──―(笑)。真面目な内容に話を戻しますが…やっぱり思春期感とでも言うような未成熟な時期の沸々とした想いが、今作の魅力の核だなと思います。例えば、「娼年A」は叙情的なメロディーも含めて、そういうものが漂っていますし。

「この曲のメロディーは、すごく好きです。リード曲にしようか迷ったくらい。迷ったからには何か残さねばと思って、このミニアルバムのタイトルは“少年A”になったんです。最初は“娼年A”にしようかとも思ったんですけど、そうすると普遍性に欠けるようにも思い、“少年A”にしました。」

──「娼年A」の歌詞は渋谷のペットショップで犬を見て、犬の気持ちになって書いたそうですね。

「そうなんです。“演技をしてでも売れてやろう”っていう気持ちです。大きくなると買う人がいなくなるし、少しでも子供っぽく無邪気に見せたりとかあるんじゃないかと。僕、人間の赤ちゃんも計算している面があると思うんです。僕もそうでしたから。僕は三男なんですけど、可愛がられようとしていた時期が絶対にあったはず。そんなことを思って、ペットショップの犬に重ね合わせて書いてみました。」

──すごく聴き応えのある曲揃いの一枚になりましたね。

「こういうことを描くことによって、“実はあなたもこう思ってるんですよね?”っていうのと“あなたにも思っていてほしいんです” “僕だけじゃないよね?”っていう気持ちが全部あるんです。そういう曲たちですね。僕の歌詞は救いがないってよく言われるけど(笑)。でも、僕はこういう曲を歌って、聴いていただけることによって救われているので、それを共有じゃないですけど、共感してくれる部分があったらなあと思います。強制はしないですけど。」

取材:田中 大

(OKMusic)


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