2012-08-20
【ASIAN KUNG-FU GENERATION】今こそ必要な“個の爆発”としてのロック
『マジックディスク』から約2年3カ月振り、9月12日リリースの新作アルバム『ランドマーク』がついに完成。常に時代と向き合いながらロックを発信してきたアジカンが、震災以降の混沌とした今こそ撃ち放つ、“言葉の肉体性”に満ちたロックンロールーーその核心を、後藤正文(Vo&Gu)に直撃!
【ロックミュージシャンはもっと 好きに書いて好きに歌えばいい】
──前作『マジックディスク』も“2010年代の始まり”と向き合う作品でしたし、今回の『ランドマーク』も震災以降の2012年の“今”を…同時代の人に向けて発信するのと同時に、“2012年の僕らはこういうことを考えていて、こういうことを感じてるんだよ”ということを100年後、1000年後の人にも伝わるように刻み付けていこうとする作品だと感じたのですが。
そうですね。同時代性っていうのは『ファンクラブ』以降は結構意識していることなので。『サーフ ブンガク カマクラ』は関係ないですけど(笑)。そういう意識は年々高まってきたもので。震災を機に“何歩か進んだ歌詞を書かなきゃな”と思って、一気に…気合いを入れたのはいいんですけど、やっぱり難しいなって。直接的な表現はそこまで好きじゃなくて。やっぱり比喩にしたいし、シュールレアリスムに近づけたいんですよね。何言ってるか分からないけど、よくよく読み取ろうと思って踏み込んでいくと“あ、結構辛辣なことを歌ってるな”みたいな歌詞のほうが好きで。それでも“やっぱりちょっと書かなきゃな”っていう気持ちもあって。そのバランスをすごく気にしましたね、今回は。
──今の時代ならではのメッセージは込められてはいると思うんだけど、単純に“メッセージアルバム”って呼ぶのは相応しくないなと思って。世の中を変えてかなきゃいけない、先に進まなきゃいけないっていう想いはアルバムから伝わってくるんだけど、それを“困難な時代だけど立ち上がれ”といった直接的な歌詞として盛り込んでる作品ではないですからね。
そうですね。どっちかっていうと“立ち上がれ”とは歌ってないですからね。ほとんど皮肉を言ってるみたいなもので(笑)。ただ、それは例えば『THE FUTURE TIMES』(後藤正文が自ら編集長として発行する新聞)とかが別にあるから、自分の中のロックンロール的な物言いをここではグイッとやってもいいのかなっていうのはありましたけどね。『THE FUTURE TIMES』では使えない言葉をいっぱい書いてるというか。あの新聞はもう少し、今の状況に寄り添うものでありたいっていう想いで作ったんですけど…ロックバンドの作る音源はそうじゃなくていいなと思ったんですよね。もう少し乱暴でいいっていうか。
──逆に言えば、『THE FUTURE TIMES』がなかったら、『ランドマーク』の歌詞はもっと違ったものになっていたかもしれないし。『THE FUTURE TIMES』は“ミュージシャン:ゴッチ”にとっても重要だったんでしょうね。
うん、そうですね。曲の中で“まともなこと”を言わなくていいっていう(笑)。ほんとそう思う。『THE FUTURE TIMES』では平熱の体温で言葉を綴って、みんなとちゃんとディスカッションしてる場所がある一方で、こっちの俺はロックミュージシャンだし、辛辣な言葉も書くし、“クソみたいな皮肉のひとつも言えなくてどうするよ?”って思うし。たぶん、メジャーのフィールドでは、ここまでの言葉は誰も取り扱ってなかったので、そこに関してはロックミュージシャンとして勝負できたかなっていう自負はありますね。ただ、これがエンターテインメントか、大衆音楽かっていうのは、俺はよく分からんっていう(笑)。とはいえ、延々とみんなで内面をこねたりとか、似たような歌詞を歌ったりしてる場合じゃないだろ!っていう気持ちもあって。要約していった結果が“頑張ろう!”とか(笑)、みんな同じ言葉じゃないほうが面白いかなって。そういう意味では…変なものを作ったなあって思ってます(笑)
──そういう“個の爆発”としてのロックンロールが今は必要だっていう気分が出てますよね、『ランドマーク』には。
完全に00年代は終焉したんだと思うんですよ。内面世界みたいなものが、震災によって完全に終わったんですよ。自分の内側だけを掘って曲にしてていい幸せな季節は終わったんです。僕たちが最初に取り戻さなければいけないのは身体性、肉体性なんだって。少なくとも俺はそういうものを書きたいと思って…音楽的には00年代を過ぎて“この音だから◯年代”っていうのが細分化されていて、USインディーとかダンスミュージックとか個々のジャンルに関して“最先端はどれか”っていう観点しかないと思うんだけど、まだ言葉に関しては時代性があるんじゃないかなと思っていて。“新しい時代の新しい言葉”は常々意識していて。ロックミュージシャンは、もっと好きなこと書いて好きに歌えばいいんだよ、っていう気持ちはあるんですよね。
【“何やっても無駄じゃん”と “できたら良くしたい”の狭間で】
──「踵で愛を打ち鳴らせ」もそうですけど、特に今回、言葉とビートにフォーカスを絞っている感じはありますよね。
うんうん。今回、作曲クレジットに潔(伊地知 潔/Dr)が登場している通り、アイツの音楽的な成長みたいなものはあるんじゃないですかね。それが全面的にまとまってきてるとは思わないけど、いろんなところでいい意味で放射してるエネルギーがあるので。アレンジの時はスムーズですね、理解が早いので。セッションでたくさん曲を作ったのも良かったですね。頭の中で作ってない感じというか。みんなで“ああ、気持ちいい”って思ったものが正解っていう。
──セッションで曲を作るっていう方向にシフトしたのも意識的なもの?
うーん…震災後、いろんなものがめちゃめちゃだったんで、スタジオの環境も含め。そう考えると、自分の作業場に籠ってちくちく曲作ってる場合じゃないっていうか。病んじゃうから、そんなことしたら。作業のスピード感を上げたいっていうのもあったから、みんなでスタジオに集まってウワッてやっちゃったほうが、自分たちの性にも合ってたし。何つっても、誰かと話したい時期でもあったから、震災後って。ひとりで画面に向かってネットで調べてるとね、泣けてきたりしたから。“なんていう時代になったんだ”って。それは震災より原発事故の問題のほうが大きいけど…そういう中、みんなで集まって何かを作るっていう環境があることが、精神衛生的には良かったと思うんですけどね。
──「All right part2」のラストで次々に転調していく部分とか、ああいう音楽的マジックもセッションで生まれていったもの?
ゲラゲラ笑いながら作ってましたけどね。『N2』のブリッジのところとかも、“これU2の『Vertigo』じゃね?”みたいな(笑)。あの曲が入ってるのは“How To Dismantle An Atomic Bomb(原子爆弾解体新書)”っていうタイトルのアルバムじゃないですか。そこから引用して、曲名が“No Nukes”で“N2”ってめちゃめちゃ面白いじゃん、とか。そういうのが、日本のロックに必要だと思う。必要っていうか、俺はそれが面白いと思うんですよね。でも俺、基本的に、どれほど原発に反対でも“原発反対”とだけは歌いたくないわって。それは“頑張ろう”って書いちゃうのと同じじゃん、曲の中で言いたいこと最初に言っちゃダメでしょ、みたいなノリなんで。自分の考えてたり思ってたりすることを、いかに“直接言わない”かが、詞を書くことでもあると思うんで。どう喩えていくか、見ている風景をどういう言葉で書き写すのか。それが作詞の美醜を決めると思ってるんですよね。
──バンドとしての肉体性を重視したからこそ、ゴッチ自身のそういう気分を楽曲に開放できたのも大きかったわけですね。
うん。だからもうほんと、悪口みたいなことも歌ってるし。でも、それでいいのかなって。僕、こういうフリーペーパーとか、雑誌とかも、ひと通り見るんですよ。“他のみんなは何を歌ってるのかな”とか“どんなこと言ってんだろう”って思って(笑)。ただまあ、僕の場合、世界観みたいなものはすでに終わってるっていうか。それは俺が決めることじゃないなって。見える景色をグイグイ書いていくしかない、嫌味なこといっぱい言おう!って(笑)。だから、より僕らしい歌詞かもしれないです、性格的には。
──面白いですよね。歌ってる内容はゴッチの“個の爆発”的なロックなんだけど、最終的には自分のエゴの実現のためには歌ってないというか。時代の“その先”への希望を見せていくために、“俺は皮肉も何もかも自分をそのまま歌う必要がある”みたいなバランス感も、ゴッチの中にはある気がするんですけど。
うんうん。すごい難しいですよね。自分が生きているっていうことに対しては“素晴らしいな”って感動するんですよ。ライフ・イズ・ビューティフルみたいな感覚ってあるんだけど…人間たちがやってることとかを考えると、とてもじゃないけど僕は性善説みたいなものは唱えられないなと思って。“半分終わってんじゃん”や“何やっても無駄だろ”みたいな気持ちもどこかに抱えてて。でもなんか、虚無を歌うっていうのはそもそも矛盾してるっていうか。虚無を歌うぐらいなら黙ってろよって(笑)。だから、諦めてないところがあるんでしょうね。“できたら良くしたい”っていう気持ちがあって。ダークな部分もありつつ、でも全面的にネガティブじゃないから。
──冒頭の「All right part2」から「N2」の流れには、その両極がはっきり出てますよね。
まあ、いきなり『N2』はねえなっていうのもあるし(笑)。本当は“大丈夫だよ”って言いたいところはあるんですけどね。全然大丈夫じゃないんだけど。でも、ロックンロールは“大丈夫だよ”って言ってほしいっていう気持ちはあるんだよね。苗場(『FUJI ROCK FESTIVAL’12』)のあんなにでかいステージで、ストーン・ローゼズが、もうおっさんになって、スゴい演奏でーー。
──(笑)。
《俺は憧れられたい(I wanna be adored)》って歌ってて。でも、それですげえ感動するわけじゃないですか。それがロックンロールなんじゃないかなって。デタラメだけど、全部持ってっちゃう感じ? そういう感じも好きなんですよ。『All right part2』の歌詞もデタラメなんですよ、はっきりと。あいうえお作文じゃん!って(笑)。ロックはそういう役割もあるし。だけど、ちゃんとブルースみたいに日々の悲しみを歌ったりとか、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンみたいに告発することもできるし。そっち側のロックも好きだしね。改めて歌詞って難しいなと思いましたね。だから、今回、聴いてくれる人にどう響くのかな?っていうのがすごく気になってて。俺は1年かけて考えて言葉にしたけど、これがどう響くか想像できないですね。対象化できないっていうか。
──でも、ゴッチの“できたら良くしたい”っていう気分が、終盤の「レールロード」「踵で愛を打ち鳴らせ」「アネモネの咲く春に」の流れには出てると思いますね。
そうだよね。前半で毒吐き狂ってるから、バランスをとってる…のかな?(笑) 皮肉なんか言いたかねえんだよ!っていう気持ちもあるんですよ、どっかに。そりゃそうですよ、言わないに越したことないんだから!って(笑)。でも心配なのは、みんなアルバムを最初から聴いていって、5曲目まできてやっと心配するんじゃないかな?って。“あぁ、良かった。これアジカンだった!”って(笑)。言葉遊びが4曲目まで続くんで。
──“そういう言葉遊びからも自分は出るんだよ”みたいな吹っ切れ感も、このアルバムでは大切な気がするんですよね。
ユーモアがあったほうがいいと思うんですよ、歌詞には。00年代ってユーモアがなかったのかなって。ガチガチの内面世界だった人が多いし、リスナーたちもそれを聴きたかったっていう。そうじゃなくて、もっと気持ちを外に出してあげるっていうか。『1.2.3.4.5.6. Baby』をシンガロングする喜びって絶対あると思うし。そういうのをみんなで、合唱厨とか言わないでやりたいですよね(笑)。だって、ストーン・ローゼズがマンチェスターでライヴやったら、何十万人が一緒に歌うわけで。イアン・ブラウンよりみんなのほうが歌上手いじゃん!みたいな(笑)。みんな歌ったらいいと思うし。普通に家で大声出したら気持ち悪がられるし。ライヴハウスとか大きいところでしか歌えないんだからね。
取材:高橋智樹
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