2013-06-20

【高橋 優】さらけ出すことで、他者と感じ合いたかった

 誰もが幾度となく繰り返す自分という壁との向き合い“自問自答”。選択権を持つのは、いつだって自分だけ。“高橋優のさらけ出し”を選択した心は、何から開放されたのだろう。




 【聴いてくれた人がどう思うかよりなんか言ってほしい】

──完成しましたね、アルバム。

「今回は、今の自分をちゃんと書き残しておくというか、今やりたいと思うことをちゃんとやっておこうっていう印象が強かったですね。」

──全体のサウンド的に、ギターアレンジがそれぞれのニュアンスで存在感を感じるね。

「新しいギターを買ったんです。ギターに関する自分の頓着みたいなのがかなり前より出てきてるのはあって。音源の作り方も、そもそもバンドサウンドじゃなくても良いのでは?といった感覚も強くなってて、いろんな意味で自分のわがままをめっちゃ聞いてもらいましたね(笑)。」

──相変わらずだけど、リズムアレンジが面白いというか、通常の8ビート感覚で叩かないようなフレーズで、感情のグルーブがとてもよく伝わってきてグッとくるね。そこは意識的に好きなほうにしていった結果なのかな。

「嬉しいですね。今回は自分らしいものをっていうことが主軸になってるんで、結果、ドラムパターンなんかも、そういうものが滲み出てきたんだと思います。ギターをどういうふうに弾こうかとか、バンドにこだわらずに2人や3人編成でやってみるとか、今あるアイディアは全部出したと思う。でも、やり切った感覚は全然なくて、なんの根拠もない創作意欲みたいなものだけが今はすごく強くありますね。」

──高橋くんの場合は、とても重要なポイントに“言葉選び”があると思うけど、今までは聴いてる人がどう思うかってことをよく言ってたでしょ、今回はどうなのかな?

「聴いてくれた人が“どう思うか”というよりも、“なんか言ってほしい”っていう感じです(笑)。嫌いだったら“大嫌い”って叫んでもらった方が面白いというか…それで人間関係は育めると思うんですよね。中途半端な反応より、“うわ、何これ、大嫌い!”とか言われて、僕も“うっせーなー”って歌うみたいな、そういう関係があっていいと思ったんですよ。逆に“すっげーいい!”って言われたいし、“この言葉に励まされました”っていうのも欲しいし…。そういうのは、こちらが自分らしさをがっつり強く言ったほうが絶対出ると思ったんですよね。だから、そういうところに恐れをなすのをやめたんです。でも、気にはしますよ。誰かを傷付けたいわけじゃないし、誤解を生みたいわけじゃないので。ただ、そこにビクビクしてたら何もやれない、高橋優じゃなくてもよくなっちゃうんですよね。」

──そこが一番のポイントなのかな?

「タイトル通りですね。“BREAK MY SILENCE”というのはまさしくそういう余計な沈黙をなくすってこと。本当に人のことを励ますため、本当に人とつながるためには、自分の本当の部分を出さなきゃいけないと思ったんです。」

──そういう意味では、出し切れてスッキリしてるんだ。

「いや、出し切れてはいないですね、まだまだ出し足りない。僕がさらけ出して自己紹介しても、友達になってもらえるかどうか分からないじゃないですか(笑)。だから、ようやく会話のキャッチボールが始められたぐらいの感じですね。」

──なるほどね。今回、意図的に作ったものとかあります?

「「ジェネレーションY」は、1曲目に弾語りでやりたいと思って書いた。歌ってることも、ドリカムがどうとか…あんまりそういうの歌ったことないじゃないですか。」

──知ってる限りではひとつもない気がする。経歴書って言うと変だけど、のっけから“ゆとりですけど、なにか?”って感じだし。イントロダクションとして最高だね(笑)。

「自分の超個人なことを歌で作ったの初めてだと思いますね。大衆向け、万人に共通する何かを書こうってのを一切やってない。アルバムを通して、超個人的な考え方とか言い方が本当に多くなってる。それを時に言葉のナイフと受け取る方もいるだろうし、誤解されたり、賛否はあるでしょうけどね。逆に、最後の「涙の温度」っていう曲は、一切それをやってないんですよね。俯瞰した視点からの歌にしたかったんです。《涙の温度》から始まってどんどん遠くなっていって《雨の温度》になって、《川の温度》《海の温度》になっていくという。どんどん空に、宙に浮いていくような雰囲気っていうか、そういう曲を作ったこともなかったんですよ。だから、超個人的な「ジェネレーションY」から始まり、できるだけ世界規模でというか広い視野で書きたいと思って作った「涙の温度」が最後になってる。」



 【誰も消化できないような曲になっちゃったら全然意味ない】

──なるほどの着地だね。気になった曲で「空気」があるんだけど。とてもいい具合に心の隙間を縫ってきたような感じで、《急がなきゃダメな世界なら 笑って置いていかれましょう》っていう歌詞にドキっとした。この余裕、何?って。

「そこは、自分の中では反発なんですよね。ついていかなきゃいけないという世の中に対する精一杯の抵抗というか、反逆のワードなんです。バラードの中で歌ってるんで余裕っぽく聴こえると思うんですけど。駆け足で、どんどん目まぐるしく回ってる世界のことを見てると疲れるんですよね。で、疲れながらも生きていかなきゃいけないんだって言いたくないんです。だから、そんなくだらない世界、置いてかれたって全然いいでしょ!って (笑)。」

──へぇ?、そういう感覚の歌詞なんだ。

「“空気を読む”って言葉が出てきた時点で、それをすごく感じたんです。“読まなくたっていいよ、そんなの”みたいに(笑)。誰かが醸し出してコントロール下に置かれてる空気なんて、読んだって大したことねーよ!って。」

──聴いてる途中で、自分に言い聞かせてる感じなのか…開けた自分に“そんな感じでいいじゃん”みたいな。

「多分、自分にも言い聞かせてるんだと思います。さっきみたいなこと言ってるくせに、すごく空気を気にして読んでいたいと思う自分が一方でいる。だから読めなかった時、悔しかったり、“わー、場の空気乱しちゃった”って落ち込んだり。なんて言うんですかね、表裏一体みたいな。紙一重で全然違う人間がいるところがあるので。だから、自分の中のふたりが語らってるのかもしれないんだけど、事実的にもそういう話をしたことあるし、それに悩んでる人に出会ったこともあるしっていうところで言うと、他者との関わりの中から生まれた曲だと思ってるんですけどね。」

──ポジションなのか、ホッとする曲でもあるね。

「個人的には「人見知りベイベー」もホッとする曲としてるんですけど。人見知りだぜ!って強気で歌っているだけ(笑)。」

──相変わらず面白い高橋節だなって思った(笑)。そして「CANDY」ですが。これ、いじめに遭ってたっていう…。

「そうですね。小学校の時に僕が経験したことを曲にしたんですよね。」

──わざわざ言いたい話ではないよね。

「言いたくなかったですね。なんか、“いじめ”ってキーワードを出しただけで色付くところあるじゃないですか。“暗い”“怖い”みたいな。“俺、いじめられてたんだよね”って言われても誰が喜ぶんだよ、みたいな。“何だコイツ?”ってなるでしょ。でも、時間が解決したんだと思うんですよね。ようやく自分の中で消化できた経験として、誰にでもそのことを暗いニュアンスじゃなく話せるようになったんですよ、最近は。これまでに、いじめに勝るとも劣らぬ経験を次々としたからだと思うんだけど、路上ライヴでも、いじめの時なんかより酷い経験たくさんしてるし、さらに、それに比べればっていう経験を積んできて自信が付いてるとは思う。だから、誰にでも自分の人生こうだったって、胸張って言える瞬間が絶対くると思うんですよね。」

──その内容と曲がハマりすぎっていうか。映画観てるみたいで、なんとも言えない気持ちになる。どうしてもあげられないっていうのと、どうにかしてあげたいっていう感覚が交錯する感じ。叙情的というかスパニッシュっぽいギターの感じも秀逸というか。すごい完成度が高い楽曲だよね。

「嬉しいですね、そう言ってもらえると。ギターは「陽はまた昇る」と同じ中村修司さんという方に弾いてもらったんですけど、すごいガットギターを弾くんですよね。メロディーラインはかなりこだわりましたね、やっぱり歌詞が歌詞なだけにデリケートだと思うし、自分の中でいくら内容が消化できたとはいえ、聴いた人が誰も消化できないような曲になっちゃったら全然意味ないんで。メロディーラインはあくまでもカラオケで歌えるような感じっていうか。」

──そうだね、決して難しい曲って感じではないよね。だから、残りすぎて困る(笑)。そして、「CANDY」なんてちょっとポップなタイトル付けているところが、ニクいよね。

「いやいや、ありがとうございます。でも、したたかな楽曲にしたいと思って作ったんですよ。この曲のテーマが、したたかな人になってやろうぜっていうことで。漢字は一緒なんですけどね、強くなろうっていうのとちょっと違う。」

──お見事です(笑)。全体の流れなんだけど、こう思わせたいというか、気にしてたことって?

「自分を全部出さないと、人と関われないということですね。だから、さらけ出すことで、他者を感じ合いたかった。「涙の温度」を最後にしたのは、そういう意図というか思いがあったんです。誰かと手を触れ合うと違うじゃないですか、温度って。冷たかったり、温かかったり。シンプルにそういうことでいい。考え方が違うってことを“俺とお前は考え方が違うから”って突き放したように悲しく言ったりするけど、肌と肌が触れ合って“あ、ちょっと違う温度だね”って言うのと僕は同じだと思ってる。違うから相手を感じることができるんだとしたら、考え方も違ってるからこそ相手を感じられるって。だから、“俺はこう思うけど、どう思う?”って、相手との違いを確かめるところで他者を感じ合いたい。それで高橋優っていう人間を感じてほしいし、いろいろな人を感じていきたい。それがつながりを作っていくことだし、生きることのひとつの大切な意味になっていくんじゃないかなって思う。」

──Love&Peace的な感覚?

「うーん、「(Where’s)THE SILENT MAJORITY?」では《Love&Peaceは今どこにありますか?》って歌ってますけど、正直、その言葉があんまり好きじゃなくて、歌いたくないんですよね。“愛と平和”っていう言葉って、言えば言うほど、それがない状態を嘆いてるように聞こえるっていうか…。ただ、その精神や思いは好きなので、別の視点、違う切り口でどんどん歌っていきたいですね。」

──曲のタイプは別にして、今作の声は、とても艶やかに伸びがあるように聴こえるね。

「それは精神的なものがすごく大きいと思いますね。迷いみたいなのがなくなって、曇りが晴れてきた状態なんで、それが声にも出てるんじゃないかと思います。」

──最後に。声高にテーマを言って、動いて、形で見せてという今、その過程の中で、何かしら得たもの、掴んだものってあったりするのかな、感覚として。

「古い言葉ですけど“かけがえのないもの”を得たと思っています。生きていく上で、本当に一生もんだと思いますね。ここ1年というか、BRAHMANとやらせてもらった辺りからなのかもしれないですけど。音楽をやっていく上で、非常に大切なものを見つけたような気がしています。」

──じゃあ、楽しめているんだね。

「いや、まだまだ必死ですよ。100パーセント楽しめてるわけじゃない。今もライヴハウスツアーで声が枯れそうになったりして体当たりな状態。自分の全部をぶつけてようやくトントンみたいなノリなんで、まだ勝ち越してる感じじゃないんですよね。アルバムをリリースしたらまた何かが見えてくるだろうし、その後のホールツアーでは改めて“沈黙をぶち壊す”というテーマが別の角度で見えてくると思うんです。それは自分の人生と並行しているというか、ずーっと連動していくんですよね。本当にもう、人間“高橋優”が沈黙を壊している状態だと思います、楽曲どうこうより。だから、まだシンプルに“やったぜ!”という感じではないけど、今までに感じたことがないくらいに素晴らしい気持ちを、最近は本当によく味わっています。」

取材:石岡未央

(OKMusic)


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