2013-02-20
【ART-SCHOOL】のちのち“あれは名盤だった”と 言われるんじゃないかな
メンバーチェンジから1年、度重なるライヴと密度の濃いレコーディングでバンド力が格段にアップ。進化し続けるバンド・ART-SCHOOLの最高到達点となるミニアルバム『The Alchemist』について、木下理樹(Vo&Gu)が語った。
──今回、レコーディング日本ですか?
「日本です。スタジオを決めるのに難航して、結局、益子 樹さん(ROVO、ASLN、DUB SQUAD等)のスタジオでやったんですけど、そこが良かった。益子さんとは以前1枚作ったことがあったんですけど、スタジオ選びとエンジニア選びで、その作品の色は結構決まっちゃうんですよ。」
──そのことは、ずっと言ってますよね。前作のアメリカでのスティーヴ・アルビニのスタジオ録音もそうですし。
「益子さんはエンジニアでありながらアーティストなので、いろんな話をしたんですけど、録りながら頭の中にイメージを浮かべて、“ここはこういう処理にしてください”って言うとすぐに分かってくれる。益子さんと僕に共通している感覚は、音を視覚的に見れるかどうか?ということで、平面ではなく、立体的な音が僕らの好きな音なんですよ。そういう面でも意識が一致していたので、益子さんとやって良かったなと思います。」
──立体的な音というものを、もう少し噛み砕いて言うと?
「空間をどう生かすかとか、隙間を埋めないとか、そういうことですね。余白があると、そこの部分にリスナーの想像力の入り込む余地があるんですよ。埋め尽くされた空間の良さもあるんですけど、今回はそういうものにはしたくなかったので。」
──今回、ギターの音に特徴があると思ったんですよ。歪みよりも空間系のエフェクトを多く使ってる気がしたので。
「そうですね。2曲ぐらいじゃないかな、歪ませてるのは。」
──「Helpless」と「DEAD1970」ですよね。あとは結構キラッとした、浮遊感のある音色になっていて。
「同じことをまたやってもしょうがないと思ったので。前回はかなりゴリゴリに作ったので、その良さも引き継ぎつつ、益子さんとやると決めた時に“音をあまり詰め込むのはやめよう”“歪みをガンガン入れるのはやめよう”とは決めてました。キュアーとか、初期マイ・ブラッディ・バレンタインとか、シューゲイズなんだけど、もっとキラッとした感じの音を試してみたいな、とか。」
──ネオアコとシューゲイズの間みたいな感じの音ですよね。
「ジーザス&メリーチェインのサウンドのような、白昼夢のような感覚のあるもので、ポップなんだけどラリッてるな、とい う感じ。なおかつ、透き通った硬質なイメージがあるという。そういうことは考えてましたね」」
──歌詞についてはどうですか? 何かテーマが?
「今回は、削ぎ落としていったんですよ。それまではMACで歌詞を書いたり、歌詞のイメージを溜めていたんですけど、歌入れ直前に壊れちゃって、データが全部飛んだんですね。」
──マジですか? 怖い…。
「1時間ぐらいぼんやりしましたけど(笑)。そこから鬼の集中力で、ペンでノートに書くという作業に入ったんですね。それをひたすら続けて5時間ぐらいやってたら、神が降りてきたかのようにバーッと言葉が沸いてきて、1日5曲ぐらい歌詞を書けたんですよ。そして、4曲歌を入れるという。」
──それはすごい!
「ART-SCHOOLの初期って、ずっとペンでノートに詞を書いてたんですよ。その感覚を思い出しましたね。そうすると歌う時も詞の世界の中にいるような感覚で、トリップしてる感じになってくるんですよ。初期は本当にそうだったんですよね。あの頃の夢も希望もなく、プロになれるかなれないかも分からなかった頃にいっぱいノートに綴っていた、あの感覚に戻った気がしましたね。」
──しかも、今回の歌詞の世界はART-SCHOOLなりのラヴソングなのかな?と思ったんですよね。肉体を持った相手の女の子の存在を今まで以上に感じたので。
「昔の彼女を題材にしたものもありますし、そこにほんの少しフィクションを加えて物語にしてます。ロックバンドでベタな恋愛の歌詞を書く人っているじゃないですか。そういうのは本当にくだらないし、作家じゃないんだから自分のことを書けよって思います。僕が一番好きな歌詞の世界はルー・リードだったりして、ダークサイドを俯瞰で見ている人の歌詞はすごいなと思います。ゆらゆら帝国の坂本慎太郎さんもすごいし、スピッツの草野マサムネさんの歌詞も、ラヴソングだとは思うけど、めちゃくちゃサイケデリアじゃないですか。」
──ヤバイですよね、よく読むと。
「《小さな箱に君を閉じ込めていた》とか、変態じゃん!と。そういう意味で言ったら、僕も変態なのかもしれない。だから、変態なりのラヴソングです。まず詞としてカッコ良いかカッコ悪いかの判断があって、それを通過した上で、ラヴソングでありサイケデリアでもあるという、そういう歌詞を書く人は尊敬できますね。」
──自分もそうありたい?
「そうですね。歌詞は本当に重要だと思います。音と同じぐらい重要ですよ。」
──歌詞、メロディー、サウンドも含めて、あえて言うなら非常にポップでとっつきやすいアルバムだと思います。
「僕は今回のアルバムを本当に気に入っていて、すごく純度の高いものができたなと思ってます。のちのち“あれは名盤だった”と言われるんじゃないかな?と思うんですけど」
──あれ。今じゃないんですか?(笑)
「スルメ盤です(笑)。聴けば聴くほど味が出る。のちのち“あれはヤバかった”と言われて評価されるタイプで、この先につながる作品だと思いますよ。」
取材:宮本英夫
(OKMusic)
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