8月32日

『誘拐事件のニュウスです
本日の16時頃
閑静な住宅街で
小学生の男の子が
何者かに攫われたことが
目撃者の証言によりわかりました
懸命な捜索活動が今も続いています』

不愉快極まりない誘拐
身代金欲しさの犯行かい
強く望まれている再会
眠れぬ夜　積もるばかり後悔

ランドセルを残して
靴を片方落として
涙をたくさん零して
殴られてぐったりしている

「たすけて　ママ
たすけて　パパ
ぼくは　ここで　まだ　いきているよ」
深い山奥　ブルーシートくるまれ
ドラム缶の中　意識は朦朧

『誘拐事件の続報です
身代金　要求もなく
手がかり　何一つないまま
依然　捜索が続きます
間も無く　両親による
泪泪の記者会見が開かれて
マスコミが蟻のように
群がり　食い潰す　予定です』

捻れた笑顔　落ちる汗
無力な子供捻じ伏せる時間
爽快感　そう快感
罪悪感?
何も悪くない　俺も君も

満点の星空の下
流れ星が一つ落ちて
静かすぎる夜に
僕は息絶えました

「みつけて　ママ　
みつけて　パパ
ぼくは　ここで　もう　しんでいるよ」
静寂の中　身体の機能は停止して
汗もかかないし　苦しくもなくなった

何があっても神様は
ちゃあんと全部見ているからって
助けてはくれないんだな
ただニヤニヤ見てるだけなんだな
本当いい趣味してるよ
長く生き過ぎて頭が悪い
僕はその暇つぶしにも足りない
蟻がたまたま死んだだけ

「さよなら　ママ
さよなら　パパ
ぼくは　もう　どこにも　いないよ」
テレビは次のニュウスで持ち切り
蝉たちだけが　泣いてくれた

「ありがとう　ママ
ありがとう　パパ
ぼくを　もう　わすれてもいいよ」
閉じ込められた8月の中をずっと
彷徨い続けて　待ってるからね

夏が腐っていく
夏が腐っていく
夏休みの中から出られなくなって
僕は融けてく
僕は融けてく
みんなの記憶と一緒に
ゆっくり融けて消えていく