2017-10-12
LAUGHIN'NOSE 、LIP CREAM、G.I.S.M. etc、『ハードコア不法集会』が示したシーンの未来
先週、Hi-STANDARDの『MAKING THE ROAD』の原稿を書くにあたって、彼らのジャンル、メロコアとは何かを改めて調べたら、メロディックハードコアの略称で、ハードコアパンクのようなラウドな音+スピーディーなリズムに叙情的な歌メロを乗せたもの…とあった。ああいうポップなパンクの総称として無意識に“メロコア”という言葉を使っていたが、元はハードコアパンクから派生した音楽であることは完全に忘れていた。同時にハードコアと言えば、その昔、同ジャンルのバンドを集めてオムニバス盤が出ていたことも思い出し、CD棚を探してみたら、『ハードコア不法集会』を発見。今週はこれについて書こうと思う。
■1980年代前半に興ったムーブメント
10月4日に発売されたHi-STANDARDのアルバム『The Gift』がチャート初登場1位を記録。バンド初のアルバム首位となった。18年振りの新作で期待値も高かったわけだし、何しろハイスタの作品なのだから初登場1位も当然といった捉え方をするリスナーも少なくなかろう。しかし、今を去ること30余年前。日本のパンクが初登場1位を獲得するなんて考える人はおそらくそうはいなかったのではなかろうか。いや、実際のところ、THE STALINが1982年にアルバム『STOP JAP』を、1983年にはアルバム『虫』をチャート上位に叩き込んだので、30余年前にはすでに日本のパンクは市民権を得つつあったのだろうが、さすがにハードコアパンクが即それに続くと思った人は少なかったに違いない。歪みまくったギターサウンドと前のめりなほどのハイスパートなリズムを湛えた音楽が市井で盛り上っているような今の状態は、当時を知る者にとってはまさに隔世の感がある。まぁ、Hi-STANDARDの音楽はメロコア=メロディックハードコアであって、生粋のハードコアとは大分違うわけで、簡単に並列で語ることはできないだろうが、今の状況を鑑みると、日本でこのジャンルが形を成し始めてから四半世紀以上が経過したことを実感させられる。
1970年代後半、すなわちロンドンパンクが隆盛の頃から、日本においてもすでに前述のハードコアスタイルのバンドがいたという説もあるが、やはり日本のハードコアはDISCHARGEやG.B.H.、The Exploited辺りの1980年代のUKハードコアから影響から生まれてきたと見るのがよかろう。当時、そのスタイルで台頭を現わしてきたバンドたちの特徴としては、単体で動くだけでなく、同様のジャンル(あるいは近いジャンル)のバンドたちと結託してことに臨んだことが挙げられる。その少し前に発表されたアルバム『東京ROCKERS』(1979年)とは少し性格は異なるが、形態としてはそれに近い。オムバスアルバムを発表するというかたちでジャンルそのものを世に問うた。1983年の『OUTSIDER』、同年の『GREAT PUNK HITS』、そして1984年の『ハードコア不法集会』がそれである。いずれも当時のムーブメントを象徴する名盤であるが、ここでは“ハードコア”というワードが入っているという単純な理由から『ハードコア不法集会』を紹介したいと思う。今、改めて聴いてみると、当時のバンドたちの先見性と、それを成就せんとした意気込みのようなものが伝わってきて、これは相当エポックな作品であったことが分かる傑作である。
さて、ジャンルはある程度(あくまでもある程度だが)まとめられているが、オムニバスでもあることから、そこに参加しているバンドは経歴も方向性もバラバラなので、以下、バンドの簡単なプロフィールと収録曲の特徴を順に述べてみたいと思う。
■ LAUGHIN'NOSE
1981年、大阪にて結成。1980年代前半にはTHE WILLARD、有頂天と並んで“インディーズ御三家”と呼ばれ、“インディーズ”という言葉をシーンに定着させたバンドのひとつと言える。1985年にメジャーデビュー。1991年に一旦解散したが、1995年復活し、現在も活動を継続。日本パンクシーンのレジェンドと言えるバンドである。ハイスタの難波章浩(Vo&Ba)を始め、増子直純(怒髪天)、峯田和伸(銀杏BOYZ)らが彼らからの影響を公言している。本作『ハードコア不法集会』はAA Recordsから発表されたが、このレーベルはLAUGHIN'NOSEが設立したものである。
M1「I CAN'T TRUST A WOMAN」はLAUGHIN'NOSEの代表曲のひとつ。ブラストの速いビートは確かにハードコア的ではあるが、メロディーラインはキャッチーで分かりやすく、ポピュラリティーは高い。ブルースハープの鳴りもポップだ。M2「SCENE DEATH」はM1に比べれば明らかにハードコア寄りだが、サビでのコーラスとの掛け合いには躍動感があり、LAUGHIN'NOSEらしさがうかがえる。
■ MOBS
正確な結成年は不明だが、1980年代前半に活躍していた神戸のバンド。MOHAWKSというバンドの解散後、MOBSとBAWSとに分かれたという。ちなみに本作『ハードコア不法集会』に収録されている楽曲はMOBS、BAWSともにMOHAWKSのものであると言われている(そう考えると、バンドの結成は本作が発表された年の1984年頃か)。モヒカンに革ジャンという出で立ちに加え、白塗りに太いアイラインという初期ビジュアルを見ると、明らかに強面でもあったようで、当時のパンクスの間でも恐れられていたようだ。
ただ、意外にも…と言っては失礼だが、そのサウンドは単純なそれではない。ヴォーカルのダミ声、歪んだギターとベースは如何にもハードコアではあるが、M3「CHARISMA」のスパニッシュなギターやエフェクトのかかったヴォーカル、M4「NO MORE HERO」のイントロでの流麗なベースラインなど、フックが効いている。現在のヴィジュアル系バンドにも通じる妖艶さもある。
■ COBRA
1982年、兵庫県にて結成。1987年にメジャーデビューするも同年に活動を停止。以後、何度か再結成、活動再開~休止を繰り返している(現在は活動休止中)。1990年代前半、日本におけるOi!パンクの草分け的存在として、パンクスのみならず、多くのリスナーの支持を得た。彼らもまた後の日本パンクシーンに多大なる影響を与えたバンドである。YOSU-KO(Vo&Ba)は前述のMOHAWKSのベーシストとして活動し、その解散後、COBRAを立ち上げたようだ。NAOKI(Gu)は後にLAUGHIN'NOSEへと参加する。
収録されている音源はやはりOi!パンクの色が濃い。M5「1984」は英語詞でしゃがれた声が強調されている印象があるが、全体にはポップで分かりやすい。M6「INSIDE OUT」は1970年代後半のロンドンパンクの雰囲気。イントロはモロにR&Rで、それこそ現在、NAOKIが在籍しているSAに通じるものがある。歌い方はSex PistolsのJohnny Rottenっぽい。
■ LIP CREAM
G.I.S.M.、GAUZE、THE EXECUTEと並んで“ハードコア四天王”とも呼ばれた女性ヴォーカルのハードコアパンクバンド、THE COMESを脱退したNaoki(Gu)とMinoru(Ba)によって1984年に結成。その後、Maru(Dr)が加入。本作『ハードコア不法集会』制作時にはヴォーカリストが不在で、THE EXECUTEを脱退したBAKIがヴォーカルを務めている(BAKIは後にGASTUNKへ参加)。前述した通り、1980年代のUKハードコアから影響があったと言われている当時のハードコアシーンだが、LIP CREAMはアメリカンハードコアやハードロックからの影響が色濃いと見られている。1990年に解散。
M7「PENTAL」とM8「DAZED CONFUSED」ともにとにかく音が狂暴。リズムもかなり激しい。録音状態がいいわけではないので聴きづらさは否めないが、M7のループ感あるコード進行や、M8の間奏のブレイクでのダイナミズムに、ラウドやヘヴィだけでなく、しっかりと楽曲を構成していこうとする姿勢を感じ取ることができる。
■ G.I.S.M.
1981年結成。“アナーキー&バイオレンス”を活動スローガンに掲げ、横山SAKEVI(Vo)が客席に降り、オーディエンスに暴行を加えるなど、暴力的なステージを展開した。その型破りなライブパフォーマンスで、ある意味、当時の日本ハードコアシーンを象徴するバンドと言える。2001年、RANDY内田(Gu)の死去により、活動を“永久凍結”し、事実上解散した。
サウンドは荒々しく、ヴォーカリゼーションは恐ろしい印象で、当時リアルタイムで聴いた時は音楽というよりも“アナーキー&バイオレンス”のアジテーションのように感じたものだが、(当たり前だが)改めて聴くと暴れているだけの音楽ではないことが分かる。ポップさこそないが、M9「STILL ALIVE」のギターリフはハードロックの流れを汲むもので、キャッチーさはある。M10「NERVOUS CORPS」に重なるヘリコプターの飛行音、交信音と爆撃音は、当時としてはかなり実験的なものであったろうし、そのアイディアは大いに買える。
■ OUTO
このバンドも正確な結成年は不明だが、1980年代前半に本作『ハードコア不法集会』のトリを飾っているバンド、ZOUOのCERRY(Vo)の実弟であるブッチャー(Vo)が中心となって結成された。1980年代半ば、ZOUOとともにスケートボードシーンとも重なって、日本におけるスケートロックの先駆者的存在でもある。OUTOとは“嘔吐”のことだろう。絞り出すようなヴォーカリゼーションに合ったバンド名ではある。
収録された音源は、M11「UK」、M12「I LIKE COLA」のいずれも速いブラストで迫るタイプで、正調なるハードコアパンクな印象。M11では耳に痛いほどのハウリングノイズは反抗、反逆の姿勢を表しているかのようだ。かと思えば、M12のアウトロ近くではギターがチャイコフスキーの「白鳥の湖」を弾いており、これがなかなかいいアクセントになっている。また、M12のレコーディング時、メンバーは中学生だったというから驚きだ。
■ BAWS
前述の通り、1980年代前半にMOHAWKSの解散後、分派したバンドのひとつ。独自のフックを効かせつつもハードコア方向へ行ったMOBSに対して、BAWSはOi!パンク路線を進み、日本で最初のOi!パンクバンドとも言われている(諸説あり)。メンバーも坊主頭(所謂“猿頭”)が多く、見た目にも本作収録の他のバンドとは一線を画していた。ソロ作品のジャケはポップなイラストで、どことなくハイスタの『MAKING THE ROAD』に通じるものを感じる。
収録曲M13「G.I JOE」は充分にポップ。《G.I JOE! G.I JOE!》と叫ぶところ(バックコーラス?)はキャッチーに響く。M14「COWERD」はギターの音も硬く、ヴォーカルもシャウト気味でこちらは比較的ハードコア寄りだが、イントロでのルーズな感じであったり、アウトロで英語の喋りを被せたりと、単純なパンクロックに終始していないところにバンドのポテンシャルが垣間見える。
■ ZOUO
おそらく、ZOUO=“憎悪”だろう。そのネーミングセンスは素晴らしい。OUTOのブッチャー(Vo)の実兄、CERRY(Vo)が中心となって結成された、日本におけるスケートロックの先駆的バンド。結成年ははっきりしないが、80~81年頃で、スケートボードのチームから転身してバンドを始めたという。当初はTHE CLASHのカバーをしていたそうだが、ライヴのために全曲オリジナルに。それぞれ持ち寄ったネタをメンバー全員で1曲にしていくスタイルだったそうだ。
M15「YOU LIKE IT THAT WAY」、M16「FRUSTRATION」ともにバンドの意欲を感じさせるアレンジが聴ける。M15には自動車の走り去る音(?)、M16のイントロでは雑踏~口笛、笑い声がSE的に入っており、楽曲を立体的に…というか、映像的に聴かせるための工夫がなされているようではある。また、外音だけでなく、いずれの楽曲も途中でテンポがミディアムに落ちて、決して単調に聴かせていない。バンドとしてもダイナミズムも発揮されている。
■パンクの持つ多様性を内包
収録バンドと収録曲をザッと振り返ってみたが、いかがだろう? “ハードコア不法集会”というタイトルでありつつも、それほど偏っていないことがお分かりいただけただろうか。パンクはパンク、ハードコアはハードコアだが、当たり前のことだが、バンドそれぞれに個性がある。そして、それが一塊になることでムーブメントは生まれる可能性があることを本作は示唆しているかのようだ。また、この後、ハードコアパンクがメロコアへと進化していくことを予見していた…というのはさすがに言いすぎではあろうが、パンクには多様性があることを身をもって示しているようでもある。本作はインディーズでの発売ながら、当時のシーンでは異例と言える6,000枚を超えるセールスを記録したと言われている。それだけ新しいロックを渇望していたリスナーは少なくなったのだろうし、それが礎となって、後のインディーズブームにもつながっていった。偉大なるレコードである。
TEXT:帆苅智之
アルバム『ハードコア不法集会』
1984年作品
<収録曲>
■ LAUGHIN'NOSE
01.I CAN'T TRUST A WOMAN
02.SCENE DEATH
■ MOBS
03.CHARISMA
04.NO MORE HERO
■COBRA
05.1984
06.INSIDE OUT
■ LIP CREAM
07.PENTAL
08.DAZED CONFUSED
■ G.I.S.M.
09.STILL ALIVE
10.NERVOUS CORPS
■ OUTO
11.UK
12.I LIKE COLA
■ BAWS
13.G.I JOE
14.COWERD
■ ZOUO
15.YOU LIKE IT THAT WAY
16.FRUSTRATION
【関連リンク】
LAUGHIN'NOSE 、LIP CREAM、G.I.S.M. etc、『ハードコア不法集会』 が示したシーンの未来
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